◆風叙音・fusionの句会より            (2014年1-9月)

2014年9月句会より          

  安良城 京

小さき旅五感潤ふ秋の色 

生れたての蟬の貌なり濡れ光る

頑是なき少女眩しや竹の春

  稲名慶子

紫のまばゆき爪や新松子

花茗荷不順不作の嘆きかな

落蟬の纏はりつくや我の袖 

  江川信恵

夕闇やはや虫の音の聞こえをり

彼の岸に無事に着きしか曼珠沙華

秋風や塀に抜け殻しがみつき

  加藤三恵 

秋の浜命なくした貝の殻

白髪が茶髪と競ふ運動会

糸瓜忌や子規に断食すゝめたき

  久下洋子

秋蝶の払ふ我が手を躱しけり

お盆玉手に入るうちの笑顔かな

月酔ひて異国に想ふ愛し人

  小山昌子

深秋や造酒屋に牧水碑

括られて盗人萩と名札下ぐ

風入れるだけの帰郷やこぼれ萩

  斎藤幹司

道野辺の黄金なすび実のたわわ

向日葵や種の重みに耐へにをり

  純 平

もうちよつと逝かずに居よか百日紅

あの子今どうしてるかな地蔵盆

朝市の乙女売る茄子もんで美味  

  高橋小夜

散り敷きて大地染めにし金木犀

太陽の炎を吸うてカンナ咲く

水槽の落鮎帰る道知らず

  高山芳子

山肌に群れて固まる男郎花

誰がため針の簪狐花

どくどくと小さき丘の草いきれ

  田中奈々

稲雀次から次と騒ぎくる

いざ咲くや月下美人の息づかひ

溪谷の百合一輪の白さかな

  角田美智

夕茜白き芙蓉を包みけり

居待月雲切れはやも中天に

萩こぼる無沙汰の友を訪ひにけり

  永井清信

秋味や言ふに言はれぬ苦みあり

夜の更くや虫の音響く草の蔭 

肉巻の谷中生姜の夕餉かな

  永岡和子

千年の桂ハートの葉の散れり

秋澄むや余生日課の早歩き

秋風鈴決めかねし我押しにけり

  永嶋隆英

かまはれてみよかやめよかゑのこ草

蟋蟀のひげを上げ下げ闇さぐる

病室のカーテン少し開けて秋

  中村一声

盆の月遙けきことの多かりき

手拭で隠す色香や盆踊

手花火の煙地を這ふしじまかな 

  中村達郎

高値なる立方体の西瓜かな

夕間暮かすか聞こゆる初秋かな

歩の先にまた歩の先に虫の声

  西川ナミ子

天高し重き一歩を頂へ

秋冷の山と染まりし日の出かな

千畳敷霧の降り来る早さかな

  森田 風 

書きて消す文触るる風秋はじめ

杵持ちしうさぎ懐かし後の月

丸顔の友宙に居り秋彼岸 

  山口律子

歓声を上げて梨狩バス来る

蜩の四方八方轟けり

敬老の日の父訪ぬ介護棟

  山下文菖

夕日差す黍の穂垂るる草の中

撮影会終れば皆欠き氷

柔道着大小干され夏休み

  山田詠子

はたた神しぶきに追はれ雨やどり

秋麗病気自慢の老の宴

運動会園児紅白入り乱る

  山田泰子

霧湧くや白馬を隠す展望台

源流の秋水命育めり

安曇野の億万穂の稲穂かな

  山平静子 

齢経ても手探りの道文化の日

老犬を宥め賺して秋の朝

浅眠の重き齢なり重ね着す

  渡辺克己

小糠降る夕闇早き九月かな

碧空を雲の覆ひて月の雨

門灯の点すを忘れ九月尽

  渡辺眞希

友病むやどこか虚ろな秋桜

忌日なる会席膳に笑みの秋

秋晴や木椅子の会話老夫婦

2014年8月句会より                 

  安良城 京

小判草束ねて活けし黄金かな 

雨の闇なる結葉や二三本

ゴーヤーの窓辺に憩ふ景色かな

  稲名慶子

盗人のそつと手の出る午睡夢

炎日の自転車淡く揺れにけり

老鶯や雨の山頂雲逃す 

  碓井廣子

ふるさとの土用鰻や友の顔

底紅や盲風ありて一日あり

わが地球悲喜こもごもの盂蘭盆会

  江川信恵 

梅雨明けて子供等の声弾けをり

人の声掻き消す程の蟬時雨

向日葵や強き陽射しに立ち向ひ

  加藤三恵

読みかけの書にうす埃休暇果つ

もの云はぬ人に物問ふ秋彼岸

蟬しぐれ烏合の声の駆逐せり

  久下洋子

採れたての茄子一つほどレシピかな

香水のスプレー数多車酔ひ

アイスクリーム両手に少女破顔かな

  小山昌子

閉ざされしままの山荘落し文

押さへても動くポケットかぶと虫

亡き人のメールアドレス夜の秋

  斎藤幹司

散策の長き長きの木下闇

梅雨晴間芝生広場の映えに映え

野馬土手にいきれを見せずやぶくわんざう  

  純 平

細きほど箸に絡むや冷索麺

炎昼や喫茶店にてクールシェア

冷蔵庫大玉どんと座りをり

  高橋小夜

ややありて汗にまみれし声のあり

風渡る田草取る影ひとつ揺れ

夏休み太平洋に飛び込めり

  高山芳子

大風に負けじ踊れと太鼓打

言の葉の虚しく響く「お大事に」

我慢せし惨めな夏のど真ん中

  田中奈々

はたた神燕の低く飛びかはす

凌霄花野ねずみの尻尾見え隠れ

常夜灯消し去り稲穂育てをり

  角田美智

敗戦の焦土に在りし竹煮草

綿菅や白根湿原雲流る 

草引きのわれに優しき水の音

  永井清信

秋の宵芸妓行き交ふ神楽坂

送り火の我を囲める五山かな

蜩の鳴くには早く過ぎる時

  永岡和子

十輪の宇宙朝顔五世なり

主なき庭に嫋やか女郎花

蜩や往時偲ばる甃

  永嶋隆英

うのつくをあれこれ浮べ土用の湯

鉄火肌晒しにまかせ神輿もむ

雨あひを超高速に蟻の列 

  中村一声

喜寿なるやいつもと同じ鰻丼

糠漬の叩き胡瓜や酒と和し

紫陽花の大一輪の毛毬かな

  中村達郎

夏の山指を折りつつ句作せり

電柱の陰に逃るる猛暑かな

せせらぎの音の馳走や冷奴

  西川ナミ子 

みそ萩や母の記憶の一頁

句読点ありて深山蟬時雨

朝顔のゆるる窓辺や通り雨 

  森田 風

柔らかき白きシーツの午睡かな

羊数二倍なるかな熱帯夜

粋に艶歌舞く役者や夏芝居

  山口律子

朝採りの曲り胡瓜の旨さかな

片蔭を求めてさがるや交叉点

夏休み皆帰り去り夜具を干す

  山下文菖

黙々と雨の木道水芭蕉

尾瀬晴るや疲れ忘るる氷菓子

喰ひ付きて針抜けぬ蚊のあわて顔

  山田詠子

朝の露蹴つて旅立つ飛蝗の子

息凝らし蚊帳吊草を裂く童

芝に立つ乙女の姿捩れ花

  山田泰子 

知覧発ちし若き兵士の蟬しぐれ

滝しぶき被りしミスト茶屋の隅

絵馬書きつ世界の平和祈る夏 

  山平静子

落蟬やじわりじわりと躙りくる

稲妻や二つに裂けて追つてきし

コスモスの綺麗な匂ひ何所までも

  渡辺克己

山滴るきき酒旨し二人旅

紫の流れゆく風花菖蒲

往還の春を流るる酒旗の風

  渡辺眞希

会えぬ友密かに想ふ蓮の花

賞品の扇風機手に破顔かな

水面に彩り揺らぐ花火の夜

2014年7月句会より                     

  安良城 京

刻まれし墓石の朱や夏の草

嗜んで酔うてみたしや冷し酒

小糠雨南天の花星になる

  稲名慶子

蒼穹や蟻と波長の合はずゐる

ほうたるになりて昇るや天近く

だるさうなペンギン雲の溶ける夏

  今村 廣

妻病むやショートパンツの洗ふ箸

緑蔭や木漏れ日に舞ふ蝶ふたつ

梅雨明けて沖から解ける波頭

  江川信恵 

雲低く青田一面覆ひけり

梅雨空や胸に染み込む心地せり

鷺一羽田圃のみどり際立てし

  加藤三恵

露座仏と共に緑雨に染まりけり

梅雨寒や縁切榎の絵馬数多

旧街道故事訪ぬれば梅雨晴間 

  久下洋子

見舞ゆく笑顔戻らぬ友の夏

昼顔や秘めし想ひの甦る

登山道見上ぐる先の遠さかな

  小山昌子

椅子一つ卓に加へて夏休み

長い長い貨物列車や夏の昼

倉庫への出入り許さる夏燕

  斎藤幹司

合歓の花かそけき風の音聴けり

青蘆原揺れては山を仰ぎけり  

  純 平

朝化粧里山映す植田かな

青虫の食事の跡や紫陽花葉

栗の花青春の夢甦る

  高橋小夜

さくらんぼイヤリングにし鏡の子

枇杷なりて明るくなりし医師の家

麦わらで作りもらひし螢籠      

  高山芳子

かさかさと居間に蟷螂居座れり

赤子待つ毛糸編む手の弾みをり

夏木立羽広げ落ち烏死す

  田中奈々

海山の香りまとうて上り鮎

父母逝きて萩曼陀羅の庭となり

さくらんぼほいとつまんでポイと種

  角田美智

遠雷を聞きつつ急ぐ夕べかな

楊梅やもぐ人のなき道の辺に 

凌霄の朱の花庭を統べにけり

  永井清信

風鈴の音色響くや宵の口

水辺には矢切彩る花菖蒲

かの君の俤たづぬ額紫陽花

  永岡和子

サポーター緩めて眺むお花畑

夕菅や一夜限りのショータイム

赤麦や落暉の染めし丘遙か

  永嶋隆英

影六寸丈六尺や立葵

卯の花や燕尾せり出す軒の下

わらんべと遊びて終はどぢやう汁

  中村一声

七夕の短冊の人心恋(うらごひ)

杜若歌舞伎役者の業平か

朝涼や豆腐の沈む水清し

  中村達郎

雨しとど万の菖蒲の花びらに

梅雨の朝応援烈しW

青田風受けつ水掻く親子鳥

  西川ナミ子 

螢火の想ひ彼方や街路燈

ざわつくや幟はためく夏祭

草揺るや精一杯の子蟷螂 

  山口律子

気短の我鎮めむと新茶汲む

葉の群や埋もれて咲きし蓮の花

雷の風貌訊きし幼女かな

  山下文菖

アフリカ・ヴィクトリアの滝にて 水煙に二重の虹の大瀑布

瑞々としたるきうりと味噌の味

極めたる先の崩れし梅雨の薔薇

  山田詠子

病窓の手をふる笑顔梅雨晴間

菜園の収穫の籠夏の夕

風通るすだれや猫の毛づくろひ

  山田泰子

あやめ咲く自分史の里辿りきて

辣韮の土つきて白覗き見ゆ

夏嵐心紛らせ針運ぶ

  山平静子 

吾が汗と重みに耐へし赤い杖

緑陰に輩またも逝きにけり

一人去り二人去りして夏の暮 

  渡辺克己

燕の巣育ちざかりの声高し

船虫の逃ぐるに速し露天風呂

雲引ける夏の島かげ鳶の笛

  渡辺真希

飼ひ主を引き回す犬梅雨晴間

紫陽花の色濃く染めし遊歩道

風鈴やかそけき音の夕間暮

2014年6月句会より           

  安良城 京

パルテュスの乙女の背(せな)や風薫る

くつきりと那須連山や鯉のぼり

茄子漬の夜空の色や今朝の卓

  稲名慶子

雲纏ふ皐月の富士や露天の湯

郷恋ひし花鬼灯や旅支度

旋回し着陸成功薄暑かな

  江川信恵

雨に濡れ葉蔭で舞ふか額紫陽花

香り色待ちこがれたる新茶飲む

いつの間に田植終はりし雲映す

  加藤三恵 

雨なくて気合が足らぬ三社祭

生きること飾れば薔薇の棘痛し

五月闇産めよ増やせよ誰が為

  久下洋子

紫陽花の色の変はるや世につれて 

スペインの残照胸に梅雨に遭ふ

大賀蓮悠久の時輝きて

  小山昌子

ややありて開く玄関ねむの花

梅雨深し一軒宿のランプの灯

木漏れ日のスポットライトめきて夏

  斎藤幹司

樫若葉いや勝りなば他樹を越え

樹に咲きし名札をさがす薫る風

早朝の並木に涼し陰持ちて

  島影法子

十薬をそつと花瓶に活けにけり  

「生き力」ごきぶりのごと蓄へり

ささやかな風とたはむる矢車草

  純 平

葉桜やこもれび光る疏水道

老の坂つつじに沿うて歩みゆく

青嵐今朝のマドンナ白き花

  高橋小夜

キャンバスに鳥の囀りあふれけり

ほととぎす魔法の言葉とけぬまま

日を返し風を染むるや杜若

       

  高山芳子

早朝の若葉蔭より白鼻心

五月雨や人優しきに我淋し

六月や都美術館の仄暗く

  千代延喜久美

東京の我が住む街に雹が降り

荒梅雨や都内冠水昨日今日

供へしは母の好物さくらんぼ

  角田美智

十薬の花凛と咲き世は混沌

半夏生今年は化粧華やぎし

ほととぎす余韻を曳きて飛び去りぬ

  永井清信

蚕豆の莢剝きをりて季しれり

亡き父の法要清し夏の菊

梅雨晴間仰ぎて鋏入るる庭

  永岡和子

夏薊遙かなロマン蘇り

むかしみち辿る札所のえごの花

ケーブルを降りて風蘭匂ひ来る

  永嶋隆英

雨に散る牡丹のきはに牡丹かな

夕されば夏つばめ子と潜みけり

列島の地図を替へ替へ梅雨のくる

  中村一声

空高く別れを告ぐる告天子かな

母の日や母を囲めば母忙(せは)

若竹やいざ駆けのぼり天にゆく

  中村達郎

落ち梅と童遊ぶや農の庭

磨崖仏涙のごとく滴りぬ

走り蕎麦箸に絡みて香りたつ 

  西川ナミ子 

夕闇の淵で蝙蝠ひるがへり 

夏服の裾に遊びて風渡る

広がりし青田に風の息遣ひ

  森田 風

煮え切らぬ心たゝくや梅雨の雷

事の無き日暮れてビール爺と婆

梅雨湿り朝にやさしき卵焼

  山口律子

纍々(るいるい)と死骸運びし蟻を追ふ

大賀蓮開花四日で枯れにけり

吊橋を渡りし先の遠蛙    

  山下文菖

そら豆や真白き綿に大き粒

留守まもりひつそりと咲く著莪の花

アフリカにて 蟻の塚五重塔の小さきこと

  山田詠子

朝もやに飛び立つ鳩や実梅落つ

学童の声高透る梅雨晴間

甚平は姿見の中父の胸

  山田泰子 

花樗家主の誇り香りけり 

郭公の頻りに鳴きて今朝の静

足利の学舎奥のあやめかな

  山平静子

一閃の涼風纏ふビルの影

何処からやつて来るや太き蠅

頻りなる睡魔と梅雨のコラボかな

  渡辺克己

一杯(ひとつき)の酒黙しをり夏の暮

江戸といふ花瞑すれば葵かな

ひとしきり緑の海の風聞けり

  渡辺眞希

穏やかな新樹漂ふ鎌倉路

青竹の木洩れ日眩し夏館

蝸牛殻に想ひを潜めけり

2014年5月句会より         

  荒木キヨ子

感涙の組体操や風薫る

自転車乗る危ふき姿花筏

片蔭や髪に花挿す車椅子

  伊藤恭子

薔薇溢るゴシック造りの礼拝堂

虹の輪の真下をくぐりバス走る

日は上に大藤長く垂れてをり

  稲名慶子

鎌倉の大佛猫背八重櫻

風旨き町に住む子や鯉幟

家苞の筍増えて五六本

  今村 廣 

犬厭ふ長尻雷の五月陣

粽結ふ笹に筑波の密か音

薔薇そつと喜寿越す妻の筆箱へ

うたた寝の甚平幼日のかたち

化粧ひては喜寿の汗拭く庭の妻

百年の蜘蛛に軒貸す漢逝く

  江川信恵

戴きし山独活強き香りして 

しやが咲くや木蔭探しつ道歩く

来ぬ人を身を揺らしつつ花菖蒲

  加藤三恵

口固く閉ぢて売らるる初鰹

目覚めてはすぐに忘るる春の夢

傷つくもいやすも言葉竹落葉

  久下洋子

母の日や笑み満ち足りし遠き日に

麦茶煮る出掛ける度に持ち忘れ

薫風や鯉揺れ流る大所帯

  小山昌子

唐門の扉全開風薫る  

薫風や狭間より覗く城下町

老鶯を褒めて終へたる畑仕事

  斎藤幹司

明けの鐘烏鳴きをる初夏の窓

往還のさまざまなりし葉の緑

漣の初夏を彩る中洲かな

  島影法子

青空を映して青きネモフィラに

窓辺から矢車草の見えかくれ

踊子草をちこちにあり風誘ふ

       

  純 平

古城や道灌堀の花筏

傾眠の母送り出す春の朝

腰伸びし青葉青葉の散歩かな

  高橋小夜

春の灯やステンドグラス青の濃く

花筏あせし命の見えかくれ

やはらかに大地うねりて春の闇

  高山芳子

藤房の一つの揺れてをりにけり

昼寝覚め映画の続き確かめり

水の面に弾かれ遊ぶ夏燕

  千代延喜久美

風薫る娘の車洗ふ父

古き友会うて嬉しや柿の花

ジャスミンの匂ひ求めて回り道

  角田美智

虫干や袖を通さぬ形見をも

人去りし隣家静けしえごの花

信濃路や空に溶け入る桐の花

  永井清信

遊女の如忍び泣きけり不如帰

初鰹箸を持つ手の踊りをり

聖五月生あるものの麗しき

  永岡和子

廃校はあの雲海の辺りかな

葉桜となりて耕耘機目立ちをり

乗り継ぎて花柚の里へ帰りなむ

  永嶋隆英

朝風呂や湯殿溢るるしやうぶの香

二度三度春蚊のよくる吾が手打ち

古書店主おほあくびせり春の雷 

  中村一声 

糸瓜咲く子規に筆寄す碧梧桐 

やみくもに蝶が身を寄す我が袖に

ぶらんこや地球動かす風起こし

  中村達郎

久闊を叙すや笑ひの春の宴

花散るや鎮魂の海波荒く

図書館の玻璃戸に折れし薄暑かな

  西川ナミ子

掘割の水たうたうと花卯木

震はせし羽に宙あり揚羽蝶

母の日のメール何度も読みにけり    

  三留律子

子等走る筍梅雨の二人組

生きて今日幸いつぱいの浅蜊汁

菜の花や見え隠れする子等の声

  森田 風

子等帰り和み香残る五月雨

秘め事の表裏知る余花の雨

畑つつく一羽の鳥の花曇

  山口律子 

穴掘れば蟻まつたうに働けり 

春霞鍬持つ人のゆれて立つ

父介護タクシーに乗る五月晴

  山田詠子

弦はじく神子の黒髪若葉風

入学児背(せな)でお守り共に跳ね

風薫る午後のまどろみ母のせな

  山田泰子

睡蓮の咲きてオアシス葉の光

水遊びアスレチックや子等叫び

黄牡丹に出合へてさすが寺の庭

  山平静子

葉桜の宙に透けゐる時の波

母の日に労ひ合ふて嫁姑

花菖蒲遊女の群れの如泛ぶ

  渡辺克己

庭に満つ名づけて一人静かな

散りてなほ名残りをとどむ牡丹かな

標題を覚めてかへたる春の暮

  渡辺眞希 

母の日や小さき肩抱きいつくしむ 

大凧を揚ぐる風待つ日和かな

遠き日のときめき揺るる牡丹かな

2014年4月句会より         

  荒木キヨ子

菜の花の黄金に染むる水の面

春雨や傘を傾げて江戸しぐさ

朝寝してあくの抜けたる体かな

  伊藤恭子

晴れ晴れと百年桜そこに在り

桜散る薄紅色の町暮るる

休日や花散らす雨降り止まず

  稲名慶子

水面揺れみとれてゐたり若柳

子規庵の縁側ぬくし古瓢

黒門の右に紅梅左に深し

  今村 廣 

春風となるや少女の一輪車

清明の鳶職占める日向かな

花筏見てゆく母と子の晴れ着

西暦に馴染めず老いて招魂祭

国賓のラジオ放送一番茶

春の浜このまま砂となるもよし

  江川信恵

田起しの畦道強き風渡る 

みどりさす風の渡りし土手となり

蒲公英や土筆肩寄せ日溜りに

  加藤三恵

春なれや犬飼主を引き回し

吉野山眼下に花の雲を踏む

花吹雪哀史連綿吉野山

  久下洋子

花粉症行けぬ集ひの遠きかな

藤棚や立ち居て仰ぐ一呼吸

わが姿映して流るる花筏

  小山昌子

桜蘂降る音しげし石畳  

源泉の湯けむり淡し遅桜

連なりて一本桜詣でかな

  斎藤幹司

薄墨をにじみ出さし春芽かな

八百万の辛夷が雲を描き遊(すさ)ぶ

待ちに待つ桜が今に園の主

  島影法子

骨太な菜花一本どこぞから

花見客声かけられて色香増す

花盛り米軍基地の広き庭

       

  純 平

日の入りや病窓越しの彼岸の会

受験生狭庭の開花遅れをり

洗濯機唸り響くや春の空

  高橋小夜

花便り心さわがすこと多き

青天に笑ひさざめく土筆かな

背の子に母の吹きたるしやぼん玉

  高山芳子

ビニールの傘に張り付く桜かな

たましひの残りし微笑棺の春

雨垂れの音無く落つる春の庭

  千代延喜久美

木登りの上手な猫や柿若葉

病癒え三椏の花真つ盛り

桜蘂降る路急ぐ診療所

  角田美智

海棠や恋に恋せし日もありき

貝母咲くちとも婉やかならずして

夜桜の中に三日月在りにけり

  永井清信

桜散るつくばひ集む雨の音

暖かき陽を浴び草木咲き競ひ

風渡る千鳥ヶ淵の花萌ゆる

  永岡和子

ミモザ散る独りベンチの石畳

かたかごの花木漏れ日に揺れ止まず

山桜愛づる車中の人となり

  永嶋隆英

桜東風前往く子等のおつむかな

側溝のわれ目に居ます蒲公英です

羽二重の団子の軽きうかれ猫 

  中村一声 

古草や下町なれば立ちどまる 

往く人や朧月夜のやはらかし

春探したどりつきたる子規の庵

  中村達郎

東風吹きて浜の砂(いさご)の踊りかな

荒東風やちぐはぐに浮く舫ひ船

子規庵や初吟行の春の昼

  西川ナミ子

波音に時ゆだぬるや風薫る

春蘭や廻る季節を探したり

生けられし一枝妖し肥後椿    

  風 香

止まり木のやうな辛夷の花咲けり

水牛車行き交ふ島の梯梧かな

桜愛づる思ひの先にあなたゐる

  三留律子

木蓮の白きて白し夜風かな

腰曲げて歩む二人の春の昼

春昼や読み聞かせゐし母の声

  森田 風 

春の鴨居ごこちよしや池の端 

長きこと命願うて糸瓜揺れ

上野山弥生風連れ人嬉し

  山口律子

火の鳥と命名されし牡丹炎ゆ

春休みこんどいつ来る問ひあぐね

隅々に手を差し伸べし桜かな

  山下文菖

春めきてカフェに淡きスケッチ絵

畑起す出たよつくしの一二本

北窓開く反射光のあふれをり

  山田詠子

ひなあられ食む一人居の昼下り

天空を掃き清めつゝ寒戻る

花便り二円切手を背にのせて

  山田泰子

乱れ咲く片栗の花風清か

万葉の枝垂桜の香り立つ

糸桜手触にひやり生命継ぎ

  山平静子 

春時雨つとなりやみし乾燥機 

友語る話廻りて朧かな

花時雨亡夫の姿うすれゆく

  渡辺克己

来し方を追ひ越してゆく春一番

ぬばたまの眸に涙春の海

紅の蕾滴るる春の雨

  渡辺眞希

静けさの一瞬落ちゆく椿かな

年毎の思ひ巡らす花見かな

春の宵うつすら浮かぶ明石の門

 2014年3月句会より                                           

  荒木キヨ子

やり直す英語会話や春近し

新しきことに挑むや冬木立

立春やひかり弾ける一輪車

春寒や鈍感に生き老い支度

  伊藤恭子

オカリナのやはらかなりし四温かな

笑ふ子に釣られて笑ふお雛さま

マフラーの色それぞれに下校の子

  稲名慶子

大き樹の小人放せり春の雪

長靴の色輝けり春の雪

雪囲解きて鳥海山遠退きぬ

  今村 廣 

春日影子規庵路地の翁談義

電話から嘗ての声や桜二分

残る鴨転合庵の古びゆく

  江川信恵

ぱりつぱり異国の男子海苔を食む 

息をかけふうふうふうとおでんの日

蓬餅香り懐かし目の前に

息切らし雪国苦労思ひ知る

  加藤三恵

旧道を行けば一会の旅の花

彰義隊散華の跡の桜かな

糸柳しなを映せし池の面

  久下洋子

頬張りて笑み満ち足るや桜餅

春コート一足先の見栄を張り

さりげなき茶室の床の雛人形

  小山昌子

傾ぎたる野点の茶碗梅日和  

団子屋に土産忘るる日永かな

脱ぎ捨てし上衣ふんはりいぬふぐり

  斎藤幹司

生きたるも生かされたるも大雪に

残雪や小梅林の照り返し

梅咲くや風過ぎ行きて冷たかる

  純  平

夜明け前お受験生の父母の列

啓蟄やポイ捨て増えし散歩道 

朝日さす土手のたんぽぽきらめけり

  高橋小夜

春月や問ひたきことを問へぬまま

ポケットの底に澱みし余寒かな

早春を子等の瞳に見つけたり

  高山芳子

一切の音捨て去りし雪の朝

切干しの大根を煮て暮しけり

悴みて首輪の鎖つけられず

  千代延喜久美

春の海とんびの二羽の舞ひにけり

磯の香に誘はれ佇つ浜の春

絵筆持ち分け入る山の笑ひをり

  角田美智

波しぶく海に砕けり春の月

紅梅の斑雪に散りぬ妣忌日

雛飾ることも逡巡老い深む

  永井清信

水温む川に魚の戻りをり

華やかに椿の咲きて日の暮れて

里山の春爛漫となりにけり

  永岡和子

大干潟金波銀波の浄土かな

孤立せし邨を惑はす涅槃雪

合格の破顔残せし掲示板

  永嶋隆英

凍返る線路に工夫頬つけり

猫の戀遠き日語る夜深かな

節分や数へし福を皿にもり

  中村一声

古雛を手に飾りをり二人宴

何はあれ大雪の日は去りにけり

京町家ミステリアスな路地に梅 

  中村達郎 

雪かきの音の重なる路地の裏 

熱燗の熱弁しどろもどろなり

恋猫は恋する声で押し通す

  西川ナミ子

まどろみてふはと戻りし日永かな 

玄関のサッカーシューズ春の土

友いまだ四十路のままや彼岸来る

  風  香

「おはやう」と目白に声掛け通ふ道

天下見ゆ緋色の桜久能山

春雨や三保の羽衣富士隠し    

  三留律子

雛飾る笑ふ童女の輝けり

卒業生親と歩くは今日ありき

一鉢の揺する風あり沈丁花

  森田 風

蒲団干し夢の後問ふ日和かな

水温む茶器洗ふ手の喜ばし

提灯の点りし二分の花見かな

桜花散る菓子皿に団子載せ

  山口律子 

せゝらぎの音を背にする梅見かな 

春一番車のドアに直撃す

梅の花足湯に浸かる一日かな

  山下文菖

外は雪一字一心筆立てり

いつもより軽き服着て春日なる

起きがけの水一杯に春混じり

  山田泰子

畑の土蹴散らして飛び鳥交る

名ばかりな春の花鉢ガラス越し

  山平静子

一片の雲に乗りたる花便り

春一番全身全霊甚振らる

春到来重きもの皆捨つるなり

  渡辺眞希

子に譲る雛壇見つめ慈しむ

前髪を切りて備へし初節句

春風や福良岬に鷗舞ひ

2014年2月句会より         

  荒木キヨ子

うふふ顔水辺光りて猫柳

赤き根の宝石に似るはうれんさう

寒桜真青の空を透かしをり

  伊藤恭子

福寿草十八代は男の子なり

春近しバス待つ人の話し声

冬晴やシーサーの皆海を向き

  稲名慶子

納豆売母子二人の帰路知らず 

粕汁や祖母の好みしルノアール

窓覗く次々のぞく初雀

  今村 廣 

八十歳を初期化せむとて鰊焼く

春雨や狛犬はまだ石の貌

根分けして医師に疲れの残る肩

  江川信恵

立春の名のみの白き薄化粧 

常々の思ひを込めて鬼は外

蠟梅の咲かせし若木友が庭

  加藤三恵

刀身の光残れる光悦忌

美食家の一度食べたき狸汁

遊び女の墓にうつむく寒椿

  久下洋子

手袋を脱ぎて繋ぐや肌温む

豆撒ひて誰居ぬ部屋の寂しきかな

吹雪舞ふ帰路に向かふや一歩出ず

  小山昌子

犬が出て人が出て来る春の門  

春風やじやんけんで持つランドセル

冬柏子離れのとき計りかね

  島影法子

砂走り神々しきや冬の富士

冬の月隠るる前の朝の音

冬薔薇の咲きたる庭のかどを過ぐ

  純  平

冬空や二番煎じの都知事選

朝枕風邪の残党隠れをり 

悴みてノロウィルスのうごめけり

  高橋小夜

書初めや墨の重さにまかせたり

初御空青一枚に広ごれり

左義長のだるま焼け落ち神帰る

  高山芳子

寒梅や幹をくの字に黒々と

主も猫もむつつりと居る春炬燵

一本を切り分け今日は鰤大根

  千代延喜久美

雪降りて故郷の街思ひ出す

にぎやかな囀りの先五羽六羽

窓開けば隣家の梅の膨らみぬ

  角田美智

紅志野の小鉢や朝の寒卵

足跡のなき雪の庭そのまゝに

侘助や雪の衣を被ぎ居り

  永井清信

三面の乾鮭吊るす時期となり

牡蠣食へり酢でも鍋でもフライでも

いよいよと初音待ちわび空眺む 

  永岡和子

風の譜と弥生行脚や六地蔵

戯れのその一言で寒ゆるぶ

声弾み来し方綴る梅便り

  永嶋隆英

シベリアをどつと吐き出す嚏かな

新春や起重機立つを仰ぎ見ゆ

明け暗れの霜ふむ音の夢路かな

  中村一声

落葉掃くそばからどつと葉の降れり

木洩れ日は終の住処や冬の蝶

冬の蠅払ひ退けられ日向かな

  中村達郎 

湯豆腐や古稀の祝の夫婦膳 

あと幾日追ひ込れつつ賀状書く

北風や脊(せな)を竦むる朝の人

  西川ナミ子

盆梅に顔寄せて見し開花かな 

作品はすまし顔なる吊し雛

内外に声弾みたる鬼やらひ

  風  香

桜咲くひめゆりの声聞こえくる

どなたかなマスクの顔に思はせる

亀山の龍馬のブーツ足入れて    

  森田 風

雪降るや心闇消す銀世界

雪も良し目もと色なす宵の酒

受験児の背(せな)にやさしき掌

  三留律子

裾分けの太泥葱の匂ひかな

寒中やぐづる園児の母の顔

白菜を刻むその音母の音

  山口律子 

猫の居てひとの足入る炬燵かな 

ゆつたりと鯉かたまりて寒に入る

三分咲きの枝垂梅の香嗅ぎにけり

  山下文菖

こがらしや朝市の旗まとい上ぐ 

生あるを直に知りたる今朝の寒

あけすけな猫の日常日向ぼこ

  山田詠子

雪だるまのぞく小犬の後ずさり

悪天候おして踏み出す受験生

投げられし豆は四隅に春さそふ

  山田泰子

畑の中赤蕪並び目眩かな

ただ一日雪国となる暮らしかな

冬芽避け蔓草刈りて待遠し

  山平静子

如月や爪切る音の厳しかる

豪雪や地球総身の色失せり

槌の音凍て付く空を威嚇せり

  渡辺克己 

月浴びて明かりはうすし水の都 

冬紅葉光る小さき交叉点

冬の海背負ふ怒濤の放物線

  渡辺眞希

春曉や三浦沖浮く渡し船 

気長かな飴色煮詰む鰤大根

いちはやく香り華やぐヒヤシンス

2014年1月句会より                         

  荒木キヨ子

空白を埋める会話の小正月

新春の駅伝秒に泣く襷

技ありの力士初場所髷いまだ

  稲名慶子

遠き音を風呂に遊ばす除夜の鐘

花待てど沖縄に寒極まらず

香放つ蠟梅一葉枯らしけり

  今村 廣

大年を逝く雲送る僧の鉦 

薄刃研ぐ寒波の冴えを裏返し

独楽の子の地を打つ声の背伸びかな

  江川信恵 

冴えわたる雲なき空に月ありて

初場所や期待落胆入り交じり

  加藤三恵

七草や玄米粥に餅ひとつ 

古の詩宙に描き都鳥

弁天山しぐれて翁の句碑侘し

  久下洋子

積雪や化粧光りの朝の庭

初詣願ひ数多の社寺巡り

今年また抱負同じで苦笑ひ

  小山昌子

装束の紅翻る初蹴鞠

水鳥の人に親しき京の川

抽斗の聖書手にとる冬の宿

  純  平

新年や数へ年では「高齢者」  

初御籤大吉よりも末吉を

灯消し闇に見えるや落葉径

  高橋小夜

みんなゐたあの日あの頃福笑ひ

鉄塔をよぢのぼりくる初日かな

初夢や夢の続きを置き忘れ

  高山芳子

この痛み抱きて任せし湯たんぽに

救急車椅子の冷たさ覚えけり 

鳥の羽首に巻きたしマフラーにして

  千代延喜久美

立ち止まり臘梅の香を楽しみぬ

身拵へ済ませ若水汲みにけり

父子凧歓声供に上がりけり

  角田美智

群竹の障子に揺れて薄茶点つ

皓々とわが窓に在り寒の月

寒暁や大地変ふてふ雪しきり

  永井清信

絵双六時を忘れて競ひけり

季語季題浅知恵絞る初句会

日の光り拡ごる空よ初景色

  永岡和子

三つ指をつきて深々年賀の子

三代を受け継ぎてきし春着かな

雪催気迫みなぎる部活の子

  永嶋隆英

歳末や八百屋魚屋の声のとび

気忙しく師走を鳩の啄みぬ

あらたまの光り満ちけり街のかど 

  中村一声

初日の出草木の裏に添ひ寝して

初富士や我が道襟を正しうす

去年今年雪の足跡深深と

  中村達郎

一本の黄葉聳ゆる巨刹かな

掃きしあと追うて舞ひ散る落葉かな

極月や飽きもせず見る四十七士

  西川ナミ子

蠟梅や形見となりし器あり

箸紙や静寂ありし三世代

カンバスに墨落とすまじ初御空 

  風  香 

総立ちで土持ち上げし霜柱 

「会はうね」と毎年賀状三十年

新春のジャズに酔ひしれ至福かな

  森田 風

菜の花と聞いて心をくすぐられ 

ふつふつと鍋煮へごろや深谷葱

胸躍る初夢のなく過ぎにけり

  山下文菖

青々と阿夫利の嶺の初御空

太箸や心身ともに正座せし

大甕や初空映しあまりある    

  山口律子

初雪や想ひのたけを跳んでみし

一切の手書き抜きたる賀状かな

松の内遠のく子等の遊ぶ声

  山田詠子

役降りて肩の荷軽し注連飾

背を正し折目つけたる初日記

透きとほる空に群鳩今朝の春

  山田泰子 

親逝けど姉妹二人の福寿草 

春菊の疎(うろ)を抜きたる青さかな

雪の舞ふ湖面に向ひ祈りけり

  渡辺克己

日を支ふ祈りの時や寒ごやし 

冬の薔薇淡き静寂整へり

剪定や紅の芽の意のまゝに

  渡辺眞希

礼深し礼者の靴を磨きをれば

今年こそ生きし印を初日記

丹沢はまばゆき白さ初景色

 2015年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page335538.html

 2014年10-12月  ⇒ http://fusion.p-kit.com/page0006.html 

 2013年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page279657.html

 2012年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page239228.html

 2011年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page202741.html