仲間たちの句 | ||
▼奈良在住の句友白汀さんより、新作の五句(連作)を送っていただきました。
祗園祭 泊 白汀 |
鉾立や食ひ入る視線縄からみ
辻廻る山鉾の上稚児囃子
いにしへのシルクロードの香る夏
そゞろ往くにはか浴衣の後ろ帯
道祖神灯明供へ粽選る
▼そして、次の三句も…。
泊 白汀
鮎走り岩瀬の水を駆け上る
山桐や巫女舞へど鈴音はなし
舞姫の手に持つ百合や香を放ち
▼次は、木彫作家・秋穂さんの俳句です。
稲 秋穂 |
夕そよぎ黄金群れ揺れ麒麟草
▼大野さんは、毎日一句創作されているようです。私の感想を付してみました。
大野 一郎
吾の貌捜す羅漢や春の風
「羅漢」は、禅宗の伝来とともに日本へ渡ってきたといわれ、もともと「阿羅漢」、サンスクリットの「アルハット」の訳であるという。仏教において、「尊敬や施しを受けるに相応しい聖者」を表す。インドの宗教一般では「尊敬されるべき修行者」をこう呼んだ。羅漢像の表情が、喜怒哀楽に富み、きわめて人間的で親しみやすいのもうなずける。全国に五百羅漢像や十六羅漢像を持つ寺院は多数あるが、ことに京都の愛宕(おたぎ)念仏寺の「千二百羅漢」は有名である。昭和56年ここが廃寺同然だったところ、五百体の羅漢を全国に募集し、最終的に羅漢の数は千二百体となり、平成3年11月に「千二百羅漢落慶法要」の儀式が行われた。 ゆえに、ここの羅漢は、それぞれが個性的でユニークな顔やポーズをとっている。ギターを持って歌う羅漢、赤ん坊を抱く羅漢、酒を持つ羅漢……。思わず自分に似た顔を探してみたくなるほどである。「探す」ではなく「捜す」と表記しているところは、単に自分に似た顔ではなく、自分の本心の貌を捜しているのであろう。春の暖かな風に吹かれて、時の経つのも忘れてしまう。季語は「春の風」で春。(七波)
あけぼのが空押し上げて竹の秋
清少納言の『枕草子』一段冒頭に、「春は曙。やうやう白くなりゆく、山際すこしあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」とあり、春のあけぼのは、日本人の季節感をよく表すものである。竹の秋は、地中の筍を育てるために一時葉が枯れたように黄ばんでくることによる。春と言えばあけぼの、そのあけぼのは、横に帯をなしてたなびく。あけぼのが空を押し上げていると表現しつつ、そこに真直ぐなるもの、垂直に立ちあがる竹が、いまだほの暗く、はりついたあけぼのの空を上に押し上げているかのようで、明るい夜明けを象徴する。時間的経過をみているようでもあり、また、黄ばんで精彩を欠きながらも竹のもつ生命観の強さを表象しているようでもある。季語は「竹の秋」で晩春。(七波)
▼毎月の句会には20代から60代の方が参加しています。俳句を通して、年代を超えて、共感し合えるのは楽しいものです。次に掲げるのは、20代の女性の句です。 (笙鼓七波選)
増田 淳子 |
水温む猫とベンチを譲り合ひ
タタタンと傘を奏でし春の雨
粋な嘘はやも悔やみぬ四月馬鹿
我が心摑めぬ夜空朧月
はふほふと食ふ大根に染むる幸
寄り添うて吐息を雲に冬銀河
逢へぬほど思ひを込めし年賀状
▼初めての出逢いから43年目の春を迎えた仲間たちがいます。以下には、その仲間たち面々の句をご紹介します。 (笙鼓七波選)
檜林 弘一 |
木犀の香に番犬の静かな日
水温む言葉を持たぬ鯉の口
初蝶の己が自在を試しをり
学校のチャイムは海へ初燕
島々の余白は航路南風吹く
郵便夫青田の風に乗つて来し
鳶滑るかに新涼の風の中
一町歩割り当てられし案山子かな
末枯の丘にヤコフの寝墓かな
凍蝶の翅を正して崩さざる
桜井 通雄
麦秋やロンバルディアに雲の湧き
海坂に初島浮かぶ朝桜
のどけしや潮の香りの町食堂
駆け出して風をもらひし風車
五月晴れポンポン船の波白し
紫陽花の空き家の軒に咲き初めし
うす墨の天に伸びゆく立葵
山の湯に木の葉降り入る静寂かな
幾筋も小さき流れや冬川原
群青の空に張り出す冬木立
柴原 信夫 |
しまなみに幾千万の鎮魂歌
薄氷の溶け出してをり陽のかをり
鯉のぼり一年ぶりの深呼吸
更衣昭和のにほひ褪せにけり
空豆のひとつぶ匂ふ掌
上着脱ぎ立夏の街を歩みをり
煮き上げし輪切大根箸を待つ
伸びをして小春日和の昼下がり
ひそやかに季を慕ふや帰り花
風花のそつと溶け入る湯のけむり
関 彦次郎 |
一山の湧き水を浴ぶ西瓜かな
立春に山湧き水の音響き
鐘楼に恋猫ならぶ昼下がり
鯉のぼり水窪川の風を食み
赤い薔薇スクランブルの交差点
草いきれ子供の下駄がポトリあり
「風天」は寅の俳号銀河濃し
竹林の龍昇るごと秋の風
鬼胡桃山せせらぎに撓みこむ
主無き煙草屋の窓風小春
田部井いつ子 |
灯台の高みに春の風つかむ
信濃路のかろき瀬音や水温む
夕さりて仄かに白き牡丹かな
夏つばめ水平線を縫ひあはせ
鍬響く曲がり胡瓜の愛ほしき
夏霧に灯台の白沈みゆく
浜風におくれ毛匂ふ浴衣かな
キッチンの小窓に一葉初紅葉
蜜柑山天の雫のきらきらと
老松の枯れまた一つ桃青忌
萩原 一志 |
削り節大踊りせる雑煮椀
春を待つ五番サードの恩師古希
葉桜やチャペルの鐘の響く道
みどり児の目の追ひかくる新樹光
心地良き教会の風花水木
アリゾナの天地砕けと雷迫る
初恋の味を娘とかき氷
心太押し出されたる木の香り
風鈴や裏木戸開けて風の道
初凪や蒼天遙か富士は在り
増田 尚三 |
花吹雪にはかに歌舞伎役者成る
春雨の波紋やさしき池面かな
パンジーの光を浴びて踊りをり
桜待つ提灯飾り神田川
母の日の抽斗の隅肩もみ券
子の帽に素知らぬ顔の赤とんぼ
はらわたの苦味も和する初秋刀魚
ひとすじの狭庭に香る金木犀
木守柿静かに照らす青き月
顔光る小さき手合はす初日の出
松浦美栄子 |
蜻蛉や四万十川の空高く
青空に響きわたるや卒業歌
風車遠くの風を呼んでをり
寒暖の一息つきて更衣
白牡丹見舞ひ帰りの名残あり
くちなしの花は今年も母の庭
白百合の集ひて咲きし峠茶屋
雨上がり重み増したる茄子かな
爽やかや軽き音立つ花鋏
正月の餅を数へて朝を待つ
松浦 玲子 |
万華鏡のごと音なく遠花火
春の鴨ほどよく余白ならしをり
バス停はいま紫雲英野の風の中
白南風の禊の風といふもよし
一筆を払ひし雲や野分晴
椎の実のこぞり降る音ひとしきり
天窓に月白の夜の移ろひて
ひとひらの紅葉挿し入る文届く
名刹の順路はづれて返り花
岳樺ただ漠として冬近し