◆風叙音・fusionの句会より       (2011年3月-12月)

2011年12月句会より                                 

  荒木キヨ子

忘年会序列なき座の女たち

たはむれて音楽しむや霜柱

すす払ふ遺影の夫(つま)や三年(みとせ)なり

  伊藤裕己枝

残されし主(ぬし)なき庭の冬薔薇(さうび)

散りさうで散らぬ枯葉を見つめをり

別れ行く銀杏紅葉に入日さす

  今村 廣

ポインセチア抱へうなじの白きひと

声高な異国語緩(ゆる)ぶ柚子湯かな

まづ線量水打ち流す年用意

  岡 郁子 

人力車風花舞へる古都を行く

ひきこもることも快適クリスマス

冬桜青空映ゆるいとけなさ

  島影法子

つるし柿訪ねし人の気配なし

鈴懸の実ちりんちりんと冬来(きた)

隙間風座布団くれし病める友

  高山芳子

大王松園芸学部の裏は冬

切通しこれより先は雪舞台

日干しせし布団の裾に猫の背中(せな)

  角田美智

枯菊を妣(はは)のごとくに焚きにけり

月蝕(か)くる天体ショーや冬木立

(つくば)ひにたゆたひてあり冬紅葉

  永井清信

木漏れ日の葉陰にひそと寒椿

雑踏の師走に紛れ我もまた

(りん)とせし姿雄々しき雪の富士

  永岡和子 

小春日や観音の里巡りをり

孫はしやぐ寒鰤一本届きし日

溜息と開き直りの古暦

  福島直子

泣き笑ひ日めくり薄き師走かな

温かき湯に入る冬の馳走なり

冬空の月を招きて常夜鍋

  山田英子

幾万の見上ぐる赤き月ひとつ

冬桜歓喜あふるゝ友便り

草の実を裾にお供の散歩道

  吉岡瑠璃

冬ざれや山に落暉(らつき)のきはまれり

紅葉散るせせらぎの中吸ひ込まれ

(こがらし)や赤きストールなびかせて

  渡辺克己

(こ)の暗(く)れの池しづもりて寒ざくら

かたはらに世々(よよ)雪しるべ大笹道

にぎにぎし小布施の里の冬ぬくし

2011年11月句会より          

  荒木キヨ子

価値観の娘と違ひ露けしや

言祝ぐや修了証書菊かをる

紅葉狩ほどよく五感しつとりす

  伊藤裕己枝

ちさき嘘悔ゆる小道に月皓々

植ゑし人の逝きしを知るや花梨(かりん)の実

叫ばずにおれぬ秋空亡き子の名

  今村 廣

海捨てし友の余生の頰かむり

袖無のお郷なまりや荒磯道

柳葉魚(ししやも)干す遠き記憶の母の脊(せな)

  大木とし子 

真夜中に天使の如く蝉の羽化

落葉舞ふ光とコラボ風に乗り

小春日にまさるものなし孫の手や

  岡 郁子

魚沼の新米むすび小さくて

インバネスえいやあと切る雨と雲

我が君は虹の向うにおはしけり

  柴田節子

大きめを選りて銀杏三つ四つ

幾許(いくばく)の椋鳥(むく)が夢見る塒(ねぐら)かな

秋空の青に戯る羊雲

  島影法子

秋晴やバス待つ人に詩吟あり

小さきも今年も咲きぬ母の菊

朝ぼらけ時を忘れて白粉(おしろい)

  高山芳子

椋鳥の群や指揮棒振つてみる

飯桐の赤き実凛々し主(しゆ)なき家

秋深しテレビ名画のほのあかり

  角田美智

(ひよどり)や木の葉揺らしつ実を食(は)めり

庭木みな粧ひ終へて冬隣

柚子香る厨(くりや)豊かな主婦なのよ

  永井清信

秋晴を摑みて憩ふ老夫婦

秋深し無為に一日過ごしけり

秋冷やブーゲンビリアのいまだ咲き

  永岡和子

秋日和芭蕉も聞きし時の鐘

秋清か結願迎へ軽き足

大鍋や無事を確かめ芋煮会

  福島直子 

絆呼ぶ日向ぼつこのポストかな

空冴えて野鴨三羽の川面かな

(やや)寒し一二度上ぐる風呂の湯気

  山田英子

木漏れ日にまどろむ猫や秋日和

風そよぎ尾花川面に影映す

逃げまどふ枯葉の舞の軌道かな

  吉岡瑠璃

取込みを忘れて釣瓶落しかな

おでん食(は)む笑ひの湯気につつまれて

紙漉の水の光りて調べかな

  渡辺克己

銀杏の踏まれ踏まれし風のあと

わが犬のモデル嫌がる秋時雨

翡翠(かわせみ)の声著(しる)けしや池の道

2011年10月句会より          

  荒木キヨ子

たからかにキャンパスの声天高し

星草のルーペの中の秘色(ひそく)かな

震災年記録的てふ秋出水

  伊藤裕己枝

遠き日のままごと憶ふ赤まんま

爽涼や友と長寿を誓ひをり

逝く秋や本牧亭の幕引きぬ

  今村 廣

おさな児と幼に戻りとんぼ追ふ

木曽駒を見返す岨や霧の中

ひめやかに切株抱かば紅葉照る

  大木とし子 

プライドは捨てればよかれ秋の夜半

(はは)おはす茜空より赤とんぼ

天空におはすしるしや曼珠沙華

  岡 郁子

名月のことに眩しや君とゐて

思ひ出に生きる幸せ後の月

願はくば牡丹に生(あ)れと次の世は

  加藤三恵

地図あれどつるべ落しの陽に迷ふ

来世にも貧富の差あり墓洗ふ

玄奘の墓守(も)る曼珠沙華のもゆ

  高山芳子

漆黒の蝶よごらんと曼珠沙華

数珠玉や追憶にある首飾り

まじはりて中空浮かぶ赤とんぼ

  角田美智

姥捨の伝説(つたへ)を抱き山装ふ

琴弾くや秋思断つべきすべもなく

愛の羽根訃報もありしクラス会

  永井清信

墓に佇(た)つ後ろめたさや彼岸花

幾秋ぞ木立のさゝやき聴きにけり

逝く秋の我が掌(て)をじつと見つめをり

  永岡和子

蕎麦刈や北の大地の紅き茎

蝦夷鹿や謐(しづ)かに大地横切れり

向日葵の除染適はずうな垂れり

  福島直子

蜘蛛の糸からめて踊る落葉かな

(つま)送る茶葉一匙の秋の暮

移ろひてもみぢ一枝紅をさし

  松崎時子 

彼岸花坊主ゆたゆた走りをり

金木犀嬉しきことの重なりて

豆絞りの種取婆や声高し

  山田英子

落ちる陽や東に赫く丸い月

秋晴や友と会話の弾む道

天高し親の声援子の笑顔

  渡辺克己

にほひたつ百日紅(ひやくじつかう)の散歩道

炎天にバス待つ影や音はなし

日月の逝くが如きや鰯雲

2011年9月句会より                

  荒木キヨ子

手花火の賑はひに入る我もまた

老工夫の貌に光りし玉の汗

満席となりしカレッジ豊の秋

  伊藤裕己枝

読みさしのページを繰るや秋の風

何処への旅か車中の赤とんぼ

男にはあらねどひとり秋刀魚焼く

  今村 廣

岬より潮目の蛇行追ふ九月

秋刀魚焼く春夫ほどには悩みなく

椅子の上(へ)に尼僧抱けりこぼれ萩

  大木とし子

闇の中幼子の掌(て)の螢かな

朝顔や母の面影見てをれり

虫の音や演奏会はいつですか

  岡 郁子

良夜とて恋のドレミファ奏でなむ

涼風や利き酒にさへ酔うてをり

青春は一瞬ならむ曼珠沙華

  加藤三恵

どの道も辿れば同じ草の花

お世辞にも裏表あり秋の風

老人の老人祝ふ敬老日

  高山芳子

遠雷やふと目を合わす家の猫

蝉時雨ご無沙汰詫びて花供へ

蜩の声の名残りや草の音や

  角田美智

座して語るでもなく月を待つ

目高生(あ)る小さき生命(いのち)を水脈に継ぎ

初恋は遠しうたかた思ひ草

  永井清信

窓越しにゴーヤー棚見る妻の笑み

曼珠沙華景色の中に立ち止まり

秋風や懸樋を走る水の音 

  福島直子

日面に影を映して散る一葉

鍵穴を照らして月のお出迎へ

夏暦終へてかすかな虫の声

2011年8月句会より                

  荒木キヨ子 

蓮の花こぼれ落つもの水ゆらし

天地の花盛りなる百日紅

雷響の思はせぶりよ走り去る

  伊藤裕己枝

吹き抜けし風やかすかに秋秘めて

夏芝居生ける写楽が見得を切り

敗戦忌追憶分けあふ友ありて

  今村 廣

秋簾(すだれ)三味の音漏る神楽坂

土用波腕組む漁夫の遠見ぐせ

駅を出てまづ山仰ぐ墓参かな

  大木とし子

拳挙げ入道雲の見得を切り

子供等の歓喜缶蹴りアイスかな

輪に入りて一夜の友と踊りだす

  岡 郁子

許されぬ恋や秋風スカート揺らし

七夕の眩しすぎるや我独り

流れ星願ふ間もなし夢と思ひて

  加藤三恵

意志のある如く流灯睦み合ひ

我が家はこゝらあたりよ敗戦忌

遠花火明治生れの母の夢

  高山芳子

白壁に対峙せし影いぼむしり

漣の寄する岸辺に夏の闇

夏雲の流れてページ繰りにけり

  角田美智

紅芙蓉咲き継ぐ空はゆきあひに

木槿落つ一朝の夢見果てしか

椋鳥の群れあまた去り夕静寂(しじま)

  永井清信

灯籠に蛙跳び乗る雨の宵

花火揚ぐ見え隠れするうなじかな

眼白鳴く狭庭(さには)に美(は)しき時流れ

2011年7月句会より                

  荒木キヨ子

炎帝の挨拶や早すぎるなり

緑風や葉脈眩し西の窓

梅雨明くや奔馬のごとく走り去る 

  伊藤裕己枝

黄色なる薔薇よリルケを読みし頃

紫陽花やレトロな床屋銀巴里といふ

小ささに今朝生れしか蝸牛

  今村 廣 (その1)  

御来光果せる妻の靴の砂

夏セール妻が試着の至福刻

黒ネクタイ鎖骨に触る梅雨湿り

  今村 廣 (その2)

炎天につきデパートへ亡命中

蚊と戦してをり今も二等卒

背負ふ児の脚の小躍り宵花火

  加藤三恵 (その1)

梅雨寒や足指ちゞむ宿の下駄

雨のち雨牡丹も人も傘の内

いつからか忘れがちなる桜桃忌

  加藤三恵 (その2)

夏草に護られ義経堂しづか

浄土の蚊つはものゝごと人を刺し

したゝかに浄土を叩く夏の雨

  角田美智 (その1)

艶やかに今咲きしごと沙羅散りぬ

花虫の螢袋に入りしまゝ

水無月や香聞き無心の一日あり

  角田美智 (その2) 

水中花幼に戻る一日かな

草原をキャンバスにして黄菅咲く

河骨の一花咲きいで閑居かな

  永岡和子

何を問ふ身動きもせず青蛙

合歓の咲く被災地巡り札納め

風鈴や快気を唱ふ栞揺れ 

  山崎房子

雨上り赤く色づく四葩かな

露草の青が眼にしむ朝ぼらけ            

2011年6月句会より          

  荒木キヨ子

夫病むと友の便り来梅雨の空

産土の筍来るや余震なほ

夏椿存在告げし落花かな

  伊藤裕己枝 

「マ・ロ・ニ・エ」と花の名告げし人ありき

宅配の筍掘りし姉米寿

ペダル漕ぐ足軽やかに風薫る

  今村 廣

手探りで掛金外す男梅雨

父の日や賞味期限の切れし飴

舟虫や同胞(はらから)いづち百箇日

  木村光子

薔薇の香にしばし噎びて亡友(とも)偲ぶ

そこはかと匂ふ紅梅西日射す

白梅の寂光そしてわが命

  角田美智

しやが咲きぬ一期一会の人もゐて

天女花茶席の床にしづもりぬ

山法師浮雲のごと咲き満てり

  永岡和子

夏帽子病の癒えて万歩往く

山百合の風土記丘に揺るゝかな

紫陽花や天に伸び往く札所道

  槙田節子

竹生島太古の息吹梅雨空に

梅雨空に菩薩差し出す晴れ間かな

洗濯機梅雨の晴れ間にかたかたと

  安田邦子

青空を透かしてみせる若葉かな

大つなみ過ぎし荒野に桜咲く

おしりより根がはえさうな梅雨半ば

  横山豊己

装ひて秘めし紫陽花雨にもゆ

萌え出でて青葉若葉の木曾路かな

木曾七里雨に烟りて緑増し

2011年5月句会より                  

  今村 廣

肩で拭く汗や石工の充ちし笑み

借り畑の笑みや夫婦に瓜の花

卯波漕ぐ八十路の友の力足

  加藤三恵

春の旅若く映りし写真買ふ

シャーベット落ちて幼子大泣きす

筍を買へば筍到来す

  角田美智

牡丹咲きぬ世に何事もなきごとく

咲くもあり散り敷くもありバラの垣

にほひたち露置くバラを手折りけり

  永岡和子

風に舞ひ花アカシアは薄みどり

日原の道祖神かな山桜

晴れ舞台紅さす稚児の御忌まつり

  槙田節子

藤の花連なる如く日々詠ふ

2011年4月句会より                 

  荒木キヨ子 

公園の帰宅遅らす日永かな

人災や携帯持たぬ長閑さよ

原子炉の悪さ競へし弥生かな

  伊藤裕己枝

亡き人の横顔に見ゆ朧月

なにごともなかつたやうに櫻かな

花も人もかすみの中の八十路かな

  今村 廣

みちのくに稀有の芽吹きや犬還る

未熟児の今日や四月の金釦

旅人として花に酔ふ郷なまり

  加藤三恵

風も無く灯に散る花あやし

曲水や詩も酒もまだ溶けやらぬ

ピアノバー筝曲流る春異國

  角田美智

髪に舞ひ肩に撓むる桜かな

行く春や骨けづる膝いとほしむ

老いもよし花と遊べる遅日かな

  永岡和子

三陸の高台集ふ花見酒

身の丈を忘れて飾る初節句

落ちてなほ山路を照らす紅椿

2011年3月句会より                 

  今村 廣

路地芽吹く将棋指す音響き初め

まだ余震続く荒磯や鳥雲に

マラソンの分け入る銀座春鼓動

  加藤三恵

春愁や鏡の奥のくもり拭く

春の湖水のかけらの色づきぬ

春風や乗らぬと決めし車磨く

  角田美智

葦の角めぐり流るゝ水の音

地震つゞく北国よけよ春の雪

積む雪に花芽の無事を訪ひにけり    

 2015年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page335538.html

 2014年10-12月 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page0006.html          

 2014年1-9月 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page316625.html

 2013年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page279657.html

 2012年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page239228.html