◆風叙音・fusionの句会より (2012年1月-12月) |
2012年12月句会より
今村 廣 |
退院の両手に荷物冬雲雀
この一枚捲らば八十路古暦
布団干す白眉月の蒼空へ
加藤三恵 |
路地多き街何あさる寒雀
寒風に剣もて描く絵師武蔵
先人の轍又踏みて年暮るゝ
小山昌子 |
木の枝にひよいと攫はれ冬帽子
能面に見つめられゐる寒さかな
駅弁の箸の短し冬日和
純 平 |
北風やペダル重たき波来(はらい)の地
また会はう白煙昇る秋の空
三代の浄土の庭や草もみぢ
高山芳子 |
東京の駅舎に木枯し一号や
冬の星童話のふくろふ目を閉ぢて
コンビ二に学生集ふおでんかな
千代延喜久美 |
瀟洒なるビルの向かうに冬茜
救命胴衣つけて下れり冬の川
紅葉と奇岩を愛でて川下り
角田美智 |
時刻むごとにカトレア開きゆき
蕾抱く鉢並びをり冬の窓
漱石忌青春の刻ひもどきぬ
永井清信 |
紅葉の中の落照金閣寺
冬枯のスカイツリーに灯が点る
清水の舞台に立ちて秋暮れぬ
永岡和子 |
寒風の阿蘇の五岳に仏見る
日向ぼこ石仏抱く榧大樹
夜廻りの子等の声冴え渡りけり
永嶋隆英 |
あとさきの熊手をどりて人の波
ぬくぬくと揉み手暫しの冬の蠅
巻雲の西へいくすぢ冬日和
中村達郎 |
軒下の干柿揺らす上州路
高崎や落葉舞ひ散る観音道
磴一面紅葉且つ散る伊香保かな
西川ナミ子 |
茅葺の屋根の厚みや紅葉散る
低き陽の届かぬ居間や花八手
短日のはや日蔭なる昼餉かな
日 差 子 |
時雨来て山門をゆく蛇の目傘
ボールペン擦れて終る雪便り
我ながら微熱抱へて風邪籠り
風 香 |
「もつてのほか」旬の命をいただけり
手を合はせ真白き富士に今生きる
川端の小枝の先のつららかな
山田詠子 |
寒晴やどこまで走る鐘の音
昔人の御堂の床の寒暮かな
冬麗遠のく鉦は京の空
渡辺克己 |
首長きモデル歩きや秋の宵
秋時雨灯りのうすき建長寺
里帰りカクテル唄ふ柚胡椒
渡辺眞希 |
かやぶきの屋根に似合ひの干大根
襟巻や母の遺愛と語らひて
谷川に彩添へし錦かな
2012年11月句会より
荒木キヨ子 |
秋蝶の舌直角なる花の中
膝笑ひ蝕まれゆく暮秋かな
其の店に柊の花盛りなり
今村 廣 |
炬燵して「団欒」と言ふ孤独かな
毛糸捲く妻の繰り言溶かすやに
背中から冬来る月の風呂帰り
大月栄子 |
実紫たわわ式部の墓訪へば
吹きだまる落葉や児等の笑ひ声
鳴龍の音色ころがる秋の寺
加藤三恵 |
過去照らす裸電球酉の市
購ひし花にすゝきを少し添へ
土佐脱藩今宵同志と軍鶏の鍋
小山昌子 |
百歳の車椅子押す文化の日
教はりし手話の挨拶冬ぬくし
奥の院までの代参散紅葉
島影法子 |
秋晴や友の個展のかしましき
きのこ狩り図鑑を囲む宿の夜
米軍の基地ある路地に秋海棠
純 平 |
帰りたき家は何処ぞ窓の月
居酒屋で腸えぐる秋刀魚焼き
松茸や昔の香り失せにをり
高山芳子 |
曼珠沙華花の姿の摩訶不思議
裸木の青天井に突き刺せり
金木犀こぼれし垣に猫の鳴き
千代延喜久美 |
荒れ庭や凛と咲きたる冬薔薇
かさかさと音立て晨(あした)落葉掃く
お澄ましで祖母に連れられ七五三
角田美智 |
たゆたひて淵に沈みし紅葉かな
石蕗咲きて茶庭の少し華やぎぬ
木の実降る闇の深さや二人鍋
永岡和子 |
赤まんま径にチョークのものがたり
郷なまりのつぺい汁の長き夜
霜除けやタイヤで煙る石仏
永嶋隆英 |
かき曇る鴉ばかりの野辺の冬
まどろめし栗うり婆や地蔵のやう
金木犀やぶれし垣にひそみたり
中村達郎 |
陽だまりに秋桜揺るゝ狭庭かな
羊雲二人をつつむ秋日和
柿の実にへのへのもへじ文字をどり
風 香 |
「夜灯(よとぼし)」に映る親子の小春かな
気がつけば残り一枚古暦
池の鯉枯葉小舟にたはむれて
昌 代 |
山澄みて大空映す宮ヶ瀬湖
石仏にそつと手向けし野菊かな
青蜜柑黄みの多きを選びけり
山田詠子 |
長き夜や心残りのしをり差す
冬浅し腕押さへる針の跡
小夜更けて指先紅し山ぶだう
渡辺克己 |
新涼や坂道眩し長き影
樹の翳の青蟷螂にはつとせり
木犀の小金(きん)の流れるかをりかな
渡辺眞希 |
秋寒し大正池を渡る風
草紅葉ひたすら歩む尾瀬の径
栗御飯妣(はは)を想うて味比べ
2012年10月句会より フェルメール展
荒木キヨ子 |
炎天下長蛇のひとになりてをり
夕べ吹く風に乱るや萩の花
爽籟や献立決まりペダル踏む
今村 廣 |
地図の駅ルーペで拾ふ冬隣
風呂吹きや妻が口伝の落し蓋
チェロの音の高層茶房秋惜しむ
加藤三恵 |
新蕎麦や椅子のがたつく茶屋に寄る
碧眼の女将いづくへ秋深し
隣家より伸びた一枝柿たわゝ
小山昌子 |
加齢てふ一語便利やねこじやらし
鰐口をそつと鳴らして秋惜しむ
露けしや二つ並びししるべ石
島影法子 |
寂として木の実落つおと忠霊塔
墓参供えし花に誰と知る
りんだうの対となりうるひとあらば
純 平 |
近づけばわつと飛び出す稲子かな
ほろ酔ひて鍵孔さぐる月夜かな
床臥して自分史辿る秋の暮
高山芳子 |
季変わり雲の移ろひ毛布干す
アルプスの野に佇つ少女秋桜
逝く秋の街の灯りよ人想ふ
角田美智 |
姿よき桂華やぎ雁過ぐる
炉開きや父の遺愛の鼠志野
秋茄子の色手に染めて夕厨
永井清信 |
幼の日路地の景色や秋刀魚焼く
秋惜しむ野山の色や里の風
松茸の名残り鱧との融和かな
永岡和子 |
ちやんづけの呼び声かかる秋祭
秋気満つ神橋渡り完歩せり
サフランの妖しき苑にときめきぬ
永嶋隆英 |
身をさらし肌の紅きや曼珠沙華
鱗雲眼鏡の母の糸とほし
秋の蝉艶めく骸はたと落ち
中村達郎 |
蟋蟀の声に明日もと励まされ
夏空や湯煙り越しに舟二艘
花の彩言葉惑はす酔芙蓉
日 差 子 |
天平の風鐸とぞや秋気澄む
待宵や富士片裾を長く曳き
穴惑ひ行く手を塞ぐ思案かな
風 香 |
我遊ぶ指の先には蜻蛉かな
サハリンの月見の宴や腹鼓
枯葉舞ひアムール河に日が沈む
山田詠子 |
颱風過果てまで抜けむ青の天
稔り田に絵筆の如く雲の影
出羽の旅錦衣の神の山
瑠 璃 |
撫子の勁風ありて揺れにけり
傾げつつ風聞き分ける破れ蓮
今日もまた恙なく暮れ秋刀魚焼く
渡辺克己 |
今朝もまた湧き上がる雲暑きかな
はるかよりにごりて流る江南夏
生かされてあはれ今年の蝉しぐれ
2012年9月句会より
荒木キヨ子 |
宿題の追込みの子に明日九月
七十路の頼る時薬深む秋
病葉に移ろふ風の音ありぬ
今村 廣 |
稲刈りて沖の明日見る漁師の眼
往にし日追ふ武者の雄叫び秋祭り
踊の輪その外の輪の曼珠沙華
加藤三恵 |
錆目立つ自動販売機島は秋
白秋や背表紙あせし本読めり
走馬灯しばらく止まれ月昇る
小山昌子 |
購ひし鉢に纏はる秋の蝶
コスモスの危ふきまでに丈高し
爽籟や朝刊読みし樹下なれば
島影法子 |
寂として結実のなきゴーヤ花
やはらかきやさしき彩よ紅芙蓉
はらからの集ひて散りて盆の月
純 平 |
「なでしこ」や女子力目立つ夏五輪
朝顔や白が決め手の色模様
介護帰省母の鼾で午睡かな
高山芳子 |
犬吠や大夕焼をのみこめり
空蝉や細木に揺られ晒されり
盆提灯秘めて廻りて母想ふ
千代延喜久美 |
しまひ湯に瞑想続く秋の夜
入選の報せのありて天高し
虫すだく闇に猫等の気配して
角田美智 |
青瓢指折り数ふ幼かな
薄原風にゆだねし穂波かな
閉めかねて佇ちつくし居る良夜かな
永岡和子 |
うはばみの友の育てし酔芙蓉
菊日和ゐずまひ正し聴く法話
留守の間に忘れしオクラ角笛に
永嶋隆英 |
つくづくと鳴きて止みたる法師蝉
十数多たちまち染むる赤とんぼ
秋つばめ二番子立ちて虚ろなり
中村達郎 |
夏の夜に響く鼓の能舞台
靴音にしばし止みたる虫の声
ミスショットボールに止まる赤蜻蛉
日 差 子 |
処暑なれど三十五度を指す現
鉦叩読点のごと鳴きにけり
向日葵の深く頭を垂る広島忌
風 香 |
立佞武多天まで届けヤッテマレ
幾百の風船かづら個々に揺れ
山寺の読経に混じる蝉の声
山田詠子 |
野の丘に泳ぐ芒と白き雲
救急の音遠ざかる秋の朝
藪からし怖さ知らずに伸びにけり
瑠 璃 |
爽籟やデッキに風の吹きぬけて
雨上がりとたん幕開き蝉時雨
たをやかに湖渡りゆく蜻蛉かな
渡辺克己 |
素足にて一日ぶらりぶらりかな
来し方の巡る思ひや蝉しぐれ
孫たちと遊ぶ水辺に夏の雲
2012年8月句会より
荒木キヨ子 |
涼一字挨拶届く友の筆
蓮の花大いなる掌(て)に抱かれて
姿見に身体のライン夏衣
今村 廣 |
児の尿吹き曲ぐ川面すでに秋
西瓜食ふ全身顔のサッカー児
盆供養犬と夫婦が卓袱台に
岡 郁子 |
彼の人と一献の酒鰯雲
今日も暮れ明日も暮れなむ十三夜
満天の星の動ける螢かな
加藤三恵 |
どくだみの乱舞少年兵の墓
ビヤホール片隅の席さがしけり
汗しとゞ湯垢は人の垢なりき
小山昌子 |
新涼や折目正しき栞紐
指先に移して丸き夏の露
空堀に零るる砂も晩夏かな
島影法子 |
繕うて静かに揺らす古扇
緑蔭に園児たはむる忠霊塔
破れ傘ハラリと揚げて山の宿
純 平 |
鳥海山(ちょうかい)の湧水下る青田かな
万緑を映して流る最上川
風死せり「おくりびと」撮りし昭和な街
高山芳子 |
栗の花夜の静寂に香を添へ
祝宴のあとの茶漬や夏の月
夏足袋の鞐(こはぜ)の緊(し)まる晴れの日に
千代延喜久美 |
シリアより悲報続きし炎暑かな
故里の友より届きし夏見舞
処暑なれど耐え難き日の暑さかな
角田美智 |
病臥して狭き宇宙や月下弦
蜩の声涼やかや病癒ゆ
遣水の薄暮の庭や虫すだく
永岡和子 |
夕焼の空も馳走と酒酌めり
睡蓮や飛石づたひ描きをり
応援歌夢追ひ人の夏五輪
永嶋隆英 |
天に透け仙人掌の花真つ白く
楠や木の下闇に鴉鳴く
はよ逃げよ芋虫のたり蟻のみち
中村達郎 |
猛暑の夜ほつと一息酒に酌(ゑ)ひ
風吹きて風鈴騒ぐ大師かな
ルリビタキ木漏れ陽あびて風になる
日 差 子 |
向き合うて本音は云はず心太
凌霄花(のうぜん)に漏るる灯のあり葬の家
蟬すだく青春は即晩年を
風 香 |
玉露を集めて願ひ短冊に
白無垢の五葉躑躅(つつじ)やうつむきて
木槿(むくげ)咲き花傘たたみ黄泉(よみ)の国
槙田節子 |
蜩や季節変わりを惜しみつつ
虫の声昼の喧噪拭ひ去り
金色の眩しき稲穂育て上ぐ
森田 風 |
寝ころがる畳表や夏の蝶
朝採りの胡瓜食む音清々し
氷上を舞ふや目覚めの熱帯夜
山田詠子 |
苧殻火(おがらび)のゆらぎに夫(つま)の影を追ひ
裏返る蟬の頼りや指の先
噴水に負けじとはぬる児らの声
瑠 璃 |
あんみつの寒天の角尖りけり
花火大会川辺の地をも轟かせ
蓮の花いにしへの香の幽かなり
渡辺克己 |
夕焼の終へて浮き立つ池の道
腰痛や夫婦でこなす草むしり
夜の帷(とばり)一日おはりてビールかな
2012年7月句会より
荒木キヨ子 |
梅雨寒や塀の落書点々と
姪逝きて翳急ぎ行く夏の蝶
今日の雨凌霄の花と落ちにけり
今村 廣 |
蝦夷白蝶だけのホームに帰省せり
青時雨機銃掃射の往にし路
炎昼や溜息ひとつして駅へ
岡 郁子 |
草津の湯嬶天下とそばの花
笹の葉に七色の夢夏柑糖
無人駅鮮やかに咲くチューリップ
加藤三恵 |
東京ッ子が江戸ッ子になる川開き
語り部は崩れし築地信長忌
母逝きて森へと帰る黒揚羽
小山昌子 |
盛り塩の角すつきりと夕涼し
校庭を猫の横切る夏休み
草引きて一人の世界広げけり
島影法子 |
紫陽花や雨だれ彩に奏でたり
梅雨の色言の葉足りず表せず
みすゞかる信濃の郷の花檀
純 平 |
夏の海松の葉枯れし津波高
梅雨寒や長袖だして腕まくり
迎へ梅雨杖をつきつき母はデイサービス
高山芳子 |
古簾さらに一季を耐えなむと
化粧(けはひ)してあぢさゐの季君逝きぬ
形見とは君が忘れしサングラス
千代延喜久美 |
青田抜け林を抜けて美術館
夏服の女学生等は賑々し
とりどりの薔薇に囲まれ写生会
角田美智 |
花野続くアルプスの大気吾を抱く
アルプスの裾野どこまで花野かな
花野めぐりわれもいつしかハイジかな
永井清信 |
夏の宵三味の音響く屋形船
日照雨かな木蔭で憩ふ雨蛙
大文字賀茂の河原に見てをれり
永岡和子 |
夕焼や頻伽の翼舞ふごとし
雲海やはるばる拝し経納め
迷想や夏鶯に凛とせし
永嶋隆英 |
あぢさゐの青こんもりと陽を浴びて
つばくろのまた来てをれり軒の下
子雀やパンを啄み跳ねてをり
中村達郎 |
雨蛙葉裏に廻り雨宿り
紫陽花の彩の盛りや通勤路
梅雨晴のバスに忘れし男傘
日 差 子 |
青時雨抜けて「夕焼け小焼け」の碑
跳び出でてとうせんばうかや雨蛙
彼の岸の誰ぞ纏はる揚羽蝶
風 香 |
四葩より七変化かな雨の彩
エゴの木や白き鈴つけシャンシャンと
郭公啼く母呼ぶ声の谺せり
槙田節子 |
鮮やかに炒められしや夏野菜
梅雨明けの空一面の青さかな
満天の星の輝く夏の空
森田 風 |
冷麦の隠れ色挿す昼餉かな
人の世も紫陽花なりき七変化
向日葵に日傘貸したし日中かな
山田詠子 |
夏の夕するどく裂くか飛行機雲
夏曉や時計の針のしのび足
幸願ふ茅の輪くゞりの笑顔かな
瑠 璃 |
来し方を思ひ返して半夏生
捩花のすつくとあまたすまし顔
川渡る風を携へ夏の旅
渡辺克己 |
紫陽花を抱へて帰る笑顔かな
蕨狩る夫呼ぶ声や白き嶺
体操の掛け声消ゆる茂りかな
2012年6月句会より
青野愛子 |
左右(さう)を見て蛇出でし道突つ走り
雨に濡れ紫陽花彩を深めけり
たぎる汗拭きつゝ急ぐ父兄会
荒木キヨ子 |
夏場所の泪の力士美男なり
水滴に葉の眩しさや岩たばこ
色添へるパラグライダーお花畑
今村 廣 |
三峯や絵馬と語らふ夏木立
船溜まり雁字搦めに夏台風
ところてん妻の突きたる三時かな
岡 郁子 |
あぢさゐの青の染み入る汝(な)の眸(ひとみ)
割引のメロン買ひけり雨疎し
朝顔の蔓の巻上辿りけり
加藤三恵 |
紫陽花に降る銀の雨古都かすむ
梅雨兆し大気に紫煙とゞまれり
碧眼の担ぎ手目立つ三社祭
川上 章 |
あぢさゐの紫目立つ雨の朝
小山昌子 |
待ちわびし本の続編梅雨曇り
泥んこのサッカーボール梅雨晴間
一山に響く声明風涼し
島影法子 |
夏めくやギプスの白のうとましさ
ドクダミや世事をいとはず涼しげに
アスパラガス北の大地に友ありて
純 平 |
波かぶりし声なき学舎青葉のみ
春の波ここまで来たか崖の上
まげねつちや被災家跡に鯉のぼり
高山芳子 |
夕暮れて帰り告げたる仏法僧
芍薬や貴婦人独り佇(た)ちにけり
左顧(さこ)すればヘンゼルの家バラの家
千代延喜久美 |
老鶯の声や朝餉に聞こえたり
蔓薔薇をめぐらし密(ひそ)とをんな住む
新緑の牧場や人馬姿なし
角田美智 |
ぬれ縁に落し文あり山の家
ほとゝぎす落葉松林貫きぬ
初鮎や詫びつゝ串を打ちてをり
永井清信 |
雨垂れを葉陰に溜めて夏木立
初夏の雨の上がりて道祖神
鳥たちの喝を癒せし石清水
永岡和子 |
父母遙か共に札打つ夏遍路
夏の宵ぼつちやんの湯へ下駄ならし
雪溪や恥ぢらひ化粧(けは)ふ朝の顔
中村達郎 |
隣家(となりや)の紫陽花ほむる声高し
艶やかな薔薇に陽の射す植物園
古都ゆけばほどなく風の薫りかな
日 差 子 |
翡翠(かはせみ)の一閃(いつせん)瀞(とろ)を乱しけり
剪(き)り賜(た)びし芍薬卓に厨人(くりやびと)
異次元の入口めくや木下闇
森田 風 |
夕暮れて足音拾ふ月見草
てつせんの藍つよくして垣根内
窓外に見ゆる植田や神々し
山田詠子 |
若葉風集ふ羅漢に我の貌
見はるかす色づく麦の穂波かな
菖蒲園黙(もだ)して競ふ艶姿
瑠 璃 |
薫風に羽ばたく親子佐渡の朱鷺
十薬や木蔭に生ひて気を放ち
新樹光走り根いづち遊山かな
渡辺克己 |
梅の実の待つ人なしに落つるあり
若葉風齢古りたる犬二匹
逝きし世の面影とほく西行忌
2012年5月句会より
荒木キヨ子 |
咲き満ちて宙を見上ぐる芥子坊主
ランドセルスキップの背に進級日
つばくろや建て増す家の心地よさ
今村 廣 |
蚊生(あ)るる就活つ子が頰叩き
断水に主婦のあれこれ路地薄暑
老鶯の影なき回向(ゑかう)切り枝に
岡 郁子 |
剪定をすれば負けじと出る若葉
微笑みし桜の花に笑み返し
花もよし葉桜もよし盃重ね
小山昌子 |
先達にひたすら付きて朴の花
通りまでカラオケ洩るる薄暑かな
植木屋に大きな穴や聖五月
島影法子 |
鯉幟(こひのぼり)未来へ繋ぐ風吹きて
咲き積んでなじませゆくや春の色
母子草その名に魅かれ目をこらし
純 平 |
雨降りて木立ち黒ずみ青葉浮く
花散らしそつと踏み入る白き径(みち)
歩いても歩いてもなほ青き森
高山芳子 |
雨上がりモザイク模様の桜しべ
たひつり草右へ左へ竿渡し
風と来る蒲公英(たんぽぽ)の絮(わた)消えゆけり
角田美智 |
掃く後を白き落花のまとひ来し
睡蓮の花なびかせて風渡る
小さき実を落としつ育つ花蜜柑
永井清信 |
夏の空奪ひて覆ふ八手かな
石灯籠屋根に集ひし落椿
けふもまた卯の花腐(くだ)し降(くだ)すとは
永岡和子 |
薫風に光るオランダ風車群
緑さす運河巡りの至福どき
山歩き滴り掬ひ一服す
中村達郎 |
青空を飲み込んでゐる鯉幟
九十九折青葉若葉のつづらをり
茶畑の新芽波打つ新東名
日 差 子 |
廃屋の蔦に若葉の季(とき)巡る
花の塵押し分けすいと鯉の影
甘藍(かんらん)の渦ひびきあふ日照雨(そばへ)かな
風 香 |
団結すなんぢやもんぢやの白き花
チューリップ閉ぢて花虫飛びいづる
花吹雪川面に寂と浮かびをり
森田 風 |
頭(かうべ)垂るそれも愛しき矢車草
ゴールなし追ひかけつこの草むしり
蒲公英の絮や何処まで新天地
山田詠子 |
高速路彼方へ誘ふ花水木
故郷の山ふくらみて春の風
神域に雅楽の調べ春の雨
吉岡瑠璃 |
鯉幟大きな口に風の精
茎伸ばす河骨の花雲絶えず
縁欠けし夫婦茶碗の新茶かな
渡辺克己 |
かたすみに父の命日福寿草
ゴシックの寺院儼(げん)とし冬の旅
花弁(はなびら)としづくの光春の雨
2012年4月句会より
荒木キヨ子 |
一面に椿の落ちて雨の中
天空に会話してをり紫木蓮
咲き満ちてひとひらの花チューリップ
伊藤裕己枝 |
花の名も知らず覚えず春うらら
薄化粧して逝く君や春浅し
濁り川を覆いて流る花筏
今村 廣 |
この一献いまが青春花吹雪
借り傘に鮨やの屋号春時雨
草餅や妻が自賛の指窪み
大木とし子 |
蒲公英の座つてつどふ笑顔かな
「オノマトペのうた」春のりのりで踊り出す
遅き春我もわれもと咲き競ふ
加藤三恵 |
セロファンに包まれ虞美人草の散る
花あびてオカッパスキップランララン
菜の花の似合ふ農婦の顔のしわ
小山昌子 |
入山料コトリと入れて花巡り
笈摺(おいずる)を脱ぎ花人の顔となる
案内図に石の重しや散る桜
島影法子 |
さりげなく桜ひとひら箸置きに
ランドセル三分の桜背中押し
沈丁花急ぎの道を立ち止まり
高山芳子 |
春の雨若住職の読経かな
高熱に身を持て余す春の夢
風と来て食卓に居る天道虫
角田美智 |
こゝまでも舞うて来てかや花吹雪
去年の地を少し違へて金蘭生ふ
シャボン玉摑まむと跳ぶ幼かな
永井清信 |
混沌の山野に咲ける八重桜
盃の中のひとひら花ざかり
雪解けを待ちこがれをる君なれば
永岡和子 |
海蒼し花散る先は壇ノ浦
炊き上げし玉筋魚(いかなご)届きお代はりす
空海の生誕地立つ遍路かな
中村達郎 |
桜枝や雀啄む昼下がり
ポケットに指を遊ばす花の冷
いつもより桜の開花遅々として
日 差 子 |
見はるかす芽吹きの果ての落暉かな
新しき戒名の彫り風光る
脈絡のなく和みゐて春の夢
山田英子 |
愛らしき稚児のおすまし花祭
背伸びする草木にそそぐ春の雨
勢揃ひ肩をいからす一年生
吉岡瑠璃 |
はにかみて堅香子の花又揺らぐ
のどかさよ大師見守る猫まろし
背筋伸びはじめの一歩風光る
渡辺克己 |
冬の月浴びて唯我のここちかな
黒々と知らず高みの枯木立
山越の風紅の雪しるべ
2012年3月句会より
荒木キヨ子 |
春蘭へ想ひ出残し逝きし友
冬の庭嘴ぬらし鳥去りぬ
下萌ゆる土の中より笑みしをり
今村 廣 |
来し方の影ひきずるや彼岸道
余生いま犬と干鱈を義歯で嚙み
紫木蓮写す隅田に触れ太鼓
大木とし子 |
冬の夕紅引く富士に見とれをり
芽出るまで落ちるものかと柏の葉
春よ来い天満宮へ願ひごと
岡 郁子 |
桜咲く隣はいつも同じ顔
桜鯛ほのかに染まる御酒(みき)にかな
好きと訊き嫌ひと応ふ春隣
加藤三恵 |
片言のごと春の夜のオルゴール
通ひつめ通ひつめなほ桜かな
西行の悲恋桜の罪ならず
小山昌子 |
ふらここや微動だにせぬ真昼なり
山崩れ著(しる)き木の国春遅々と
暖かや濡れ縁に干すぬひぐるみ
島影法子 |
春の雪消えて陽射しのやはきこと
娘あり解(ほど)かぬままの雛(ひいな)かな
日蔭にも菜花のありて揺らぎをり
純 平 |
東風(こち)吹かば木々の蕾の膨らめり
朝散歩眼のかゆみして花粉かな
落椿寿命のあるを老婆言ふ
高山芳子 |
吉野路や往(い)にしをしのぶ春の雨
硝子戸を斜めに区切る春の雪
恋猫の背中に向けて文句言ふ
角田美智 |
土筆摘む幼に戻るすべなくも
妣(はは)に似し節くれの指雛飾る
さらさらと流れ落ちたる春の水
永井清信 |
紅梅の馥郁あるや子を想ふ
ほろ苦き遠き想ひ出蕗の薹
雛飾る異国の娘を思ひやり
永岡和子 |
朝靄の春色の街駆け抜ける
菜種梅雨詰碁に籠る夫(つま)の居て
野焼き跡其処此処新た生ひにけり
福島直子 |
夕映へて薄墨の中富士は春
アルバムの向かう見てをり桃節句
菜の花のからし和え載る朝餉かな
山田英子 |
目の泳ぎ頰いつぱいの苺狩
梅の香に一服の茶を点てにけり
下萌は声を潜めて時宜待てり
吉岡瑠璃 |
目覚めたる大地を裹(つつ)む春の雪
雛の顔一筆そつと紅をさす
浅き春木々の枝先戸惑へり
渡辺克己 |
山越の風聴く晨(あした)落葉かな
山越の風聴く秋の寺詣り
山寺の地蔵を裹(つつ)む紅葉かな
2012年2月句会より
荒木キヨ子 |
白菜の旨み増すなり卓の上
野菜くづ端より新芽伸びてをり
春めくや衣脱ぎ去る松並木
今村 廣 |
杖磨く妻に紫雲英(げんげ)の便りの来
紙風船おさげの天に突きにけり
受験子や言祝(ことほ)ぐ路地へVサイン
大木とし子 |
乙女像雪のショールを纏(まと)ひをり
北風に夫(つま)のポケット指絡め
鬼は外内で角出す弁慶か
岡 郁子 |
福は内豆の数ほど辛きこと
しくじりの続く七十路春立ちぬ
歌に生き愛に生きたし春時雨
加藤三恵 |
花柄の傘に一会の春の雪
スカイツリー背後に侍る雪の富士
硬骨を秘め優艶の桜鯛
小山昌子 |
天つ日に微笑みてをり犬ふぐり
犬好きを犬の嗅ぎ分け春の土手
鎖樋伝ふ雨音春浅し
島影法子 |
強情に翁着ぶくれ朝散歩
雪国や志功の朱(あか)に温まる
枯銀杏身軽になりて天突けり
高山芳子 |
己が道全て埋めたし今朝の雪
雪月夜携帯電話の震へをり
春炬燵より老ゆる我引き出せり
角田美智 |
月凍つる通夜の帰りの皆無口
宵の口灯るがに咲く太郎庵椿
群鴨の羽色違へて日和かな
永井清信 |
春嶺の幹に溢るゝ樹液かな
初春の晴の佳き日や姪嫁ぐ
節分に福を招じる火宅かな
永岡和子 |
栄華見し鰊御殿の雛(ひいな)かな
語り部に心ゆるびて春を待つ
鳥帰る子等の頭上を巡りつゝ
中村達郎 |
街中に色とりどりの冬帽子
寒空に裸練りゆくどんと祭
七草の湯気に笑(え)まふや妻の顔
福島直子 |
細枝の雪を抱きてたわゝなり
水仙のすくつと咲くや深呼吸
龍神の舞へる姿や夜半の雪
槙田節子 |
枯枝に野鳥の番(つがひ)一服す
春立ちぬことに陽光眩しけり
梅一輪微笑む如くほころべり
吉岡瑠璃 |
寒天を炎が染めて筆供養
薄氷(うすらひ)に波紋描きて途切れけり
蒼天に餅花揺るゝ寺の町
渡辺克己 |
菅平翳低くして枯木立
かさかさと朝踏みゆかむ落葉かな
春めきて天に背筋を伸ばしけり
2012年1月句会より
荒木キヨ子 |
初夢や句会賑はふ人の数
冬薔薇の寄り添ふ影の二輪かな
不器用に黙して置かれお年玉
今村 廣 |
賀状来る余白に友の予後の筆
煮凝りやつるりと遊ぶ老の箸
寒牡丹咲かせし女史の艶話
大木とし子 |
蟷螂(かまきり)の斧ふりかざし猫ひるむ
初春や風の吹くまま進もかな
白富士の日増しに厚き化粧かな
岡 郁子 |
歳旦やなほのうのうと生きやうか
初夢やへそくりごそり見つけられ
山茶花の残り一輪見つめ合ひ
加藤三恵 |
初雪や見知らぬ人と言ひかはす
冬の月点滴伝ひ明滅す
初釜の口直しする喫茶店
島影法子 |
湯たんぽを時代遅れと老母言ひ
凩(こがらし)もよけて通るか若き肌
枯菊や柵にもたれて空仰ぐ
純 平 |
ほどほどの帳尻となる師走かな
薄明に交はす挨拶息白し
落第すこれも教へと神の声
高山芳子 |
新米を研ぐ手常より恭(うやうや)し
おづおづと冷えし肉球踏みしだき
寒月や痛み貫く蹠(あうら)まで
角田美智 |
寒の水梅花藻透かし流れけり
白鳥の親子遊ばせ池静か
初雪をまとひて樹々の華やげり
永井清信 |
蒼穹に万両の実の垂れ下がり
爐辺にて老婆の糸を紡ぎをり
正月や絵馬に託する我が想ひ
永岡和子 |
太陽を待ち兼ねてをり霧氷原
初夢の豪華客船露と消え
寒風に見上ぐる楓(フウ)の実のひとつ
中村達郎 |
霜柱さくさくさくとしもばしら
新春の函嶺洞門走者ゆく
初富士や願ひ込めつつティーショット
福島直子 |
霜柱踏みて歌ふは「春よ来い」
焼きたてのパンるんるんと冬の朝
小さき手にぎにぎ絆春近し
槙田節子 |
除夜の鐘聞くや否やに参詣す
御福銭受けて破顔の初詣
冬枯れの景色眺めて待ちこがる
山田英子 |
やはらかな陽射しをついで賀状読む
裸木やたへてしのびて生命継ぎ
神の杜平穏願ひ初参り
吉岡瑠璃 |
初空や鐘の響きの澄み渡り
三陸にいのちの羽音初雀
滔々(たうたう)と大河の流れ去年今年(こぞことし)
渡辺克己 |
山茶花のこぼれて温し花の数
ところ得て紅葉の影や地蔵達
日月(じつげつ)の経りし背中の紅葉かな
2015年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page335538.html