受贈句歌集 |
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2014.4.25刊行
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| いまはし・まりこ 「ホトトギス」 同人 日本伝統俳句協会会員 第一句集 [帯文] 天高し句に生かされて句に生きて 嫁ぐ娘に十一月の過ぎ易し 冬帝の日ざしの中を歩み出す 結婚される娘への一句で、 この句集は締め括られている。 幸せとは何であるか。 この句集から答えがみつかるであろう。 (序文より) (稲畑汀子氏)
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◆自選十五句
遙かなるものばかり見て霞む窓 まだ言葉持たざりし子と梅雨籠 華やかに別れてひとり花の夜 帯解やくれなゐにほひ初めしとも 待たされてゐて約束のふと朧 ちちははと在れば娘や盆の月 大夕焼空ひとゆすりして消えし 若葉して光は光影は影 咲きすすむ桜雨をもためらはず 秋惜む神を恐れぬ高さより 初紅葉なる一本の木の孤独 ふるさとのしだいに恋し花みかん 存問の心に花の源氏山 風薫るこれからといふ人生に
◆七波選十二句
風薫る秘めておけずに話すこと
赤をまだ解かざる赤も曼珠沙華
初電話声より笑顔立ち上がる
しやぼん玉震へてかたち整ひぬ
風の尾根風の谷なる芒原
スカーフにくるりと残る寒さ巻く
けむりつつ木の芽起しの雨となる
夕風を白く流して雪柳
合歓咲いて風の一樹となつてをり
筆跡の語りかけくる賀状かな
花は葉に洗ひ上げたる空のあり
春宵の第二楽章流れくる
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2013.11.1刊行
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| いまい・ただいち(1921年~) 元・順天堂大学教授 東京帝国大学理学部数学科卒・東京帝国大学大学院修了 著書に『疑似数学者の随想』『無為而化の人生』『妻よ』 『わたしの寶』『新しき一歩』『卆扇』。詩集『蟹のささやき』 歌集『妻に捧げる』『釋尼照徳に護られて』ほか。 [帯文] 自称 「疑似幾何学者」 このような言い方をすると、 読者はさもありなんと思うかもしれないが、 「疑似幾何学」 という幾何学は、 実際に存在するのである。 「アフィン空間」(日本では 「疑似空間」) という 想像の空間があり、 その空間の性質を研究するのが 疑似幾何学である。 私の生涯の研究である。
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◆自選六首
九十歳なる今の心境 素晴らしき生花贈らる半世紀前の 教へ子一同の名もて 七十年前の教へ子集ふ会 なほ師たらむと言葉選びぬ 九十歳にバレンタインのチョコレート 何にも勝るエネルギー源 我が公式今も世界に用ゐらる 学位申請せざるを悔やむ 我が公式テンソンニュースに載るといふ その実体を知りたかりけり
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2013.5.7刊行
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| すずき・さだお 俳人協会理事、「若葉」主宰 第五句集 [あとがき]より 平成十四年から二十一年までの 作品を収めた私の第五句集である。
詩歌にとって大切な要素に、 “懐かしさ”があると思う。“懐かしさ”とは、 限られた命であるがゆえに、 万物を愛おしく思う気持に外ならない。
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◆七波選
蜿蜒と来てましぐらに滝落とす 眠る子の夢みて笑ふ薔薇の風 子燕の口をはみだす蜻蛉かな まくなぎの混沌を統ぶるもののあり 村里に鍛冶屋一軒橡の花 間(あひ)の宿五十戸を吹く葛の風 寛やかに裳裾を曳きて花野富士 一つぶの木の実に大地応へけり 一嶽の上にきて滅ぶ鰯雲 目瞑りし梟とほき世をみつむ 蜘蛛の囲を彩渉りゆく旭かな 吾妻郡六合(くに)村字小雨ねむの花 闇に彩こぼして廻る灯籠かな 子狸も来てゐるけはひ闇動く 村里に鍛冶屋一軒橡の花 千枚の田の天辺を仕舞ひゐる 月山に仰ぐ銀河や翁の忌 一笛の闇をつんざく夜桜能 巌打つ滝の白さも秋めける 繽紛と花舞ひ翳も舞ひにけり なんぴとも老まぬがれず花に佇つ 目瞑りて鷹は檻あること忘る 貼り交ぜの一句は白雄立屏風 大空の懐に凧預けたる 茶碗屋てふ集落十戸白木蓮
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2013.3.27刊行
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| おおくぼ・はくそん 日本伝統俳句協会副会長 「ホトトギス」同人、こゑの会代表 第十句集 [帯文] 平成十一年-二十二年 稲畑汀子主宰選の作品から306句を厳選
奈良・吉野山の桜との年々の出逢い、 四季折々の自然からの語り掛けを、 あまさず写しとる、明朗闊達な詩境。
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◆自選十句
花の杖庭をめぐりて庭を出ず 花の庵奥千本を庭として 一都一府六県越えて花の旅 真下までいざなふ枝垂桜かな 夜桜の隠してをりし北斗の柄 鶯や別れの朝はねんごろに 憑かれしや花の吉野の旅二日 散りそめし花と別れの午後来たる 文学館出でて立夏の川風に
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2013.2.25刊行
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| いまい・しょうこ 「ホトトギス」 同人 日本伝統俳句協会会員 第一句集 [帯文] 今回出版する句集は、 彼女の十年間の俳句を纏めたもの と言う。 彼女もう自然に虚子の大道を 歩いていることがよく分かる。おそらく 彼女は自身の歩む道を確認したいのであろう。 何も心配することはない。 客観写生とは何か、花鳥諷詠とは何か、 もう間もなく彼女は自分自身の言葉で 語り始めるだろうと私は信じている。 (稲畑汀子氏)
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◆自選十二句
ぼんやりと居て色鳥の不意に赤 その幹に溜めし力がすべて花 花も亦月を照らしてをりにけり 照らされて一人一人の花火かな 月天心夜は沈んでゆきにけり 水を飲む風鈴ふたつみつつ鳴る 紙芝居狸はいつも不幸せ てのひらにひんやりクローバーの記憶 待宵を眠らんとして覚めにけり 桜蘂降る東京は坂だらけ 少し泣き少し笑つて十二月
◆七波選十二句
見上ぐれば視界の外の外も花
新緑の雨吸ひ込みしよりの色
マフラーも帽子もピンク駆けてくる
手のひらをこぼれてゆきし子猫かな
月冴ゆるピカソの青と居た時間
くれなゐを放ちて梅の空青し
今日の風今日の桜を過ぎにけり
いくつもの花の遅速を経て時効
もう影を持たざるものへ飛花落花
水底に炎天の芯ゆらぎけり
メビウスの輪の裏表月涼し
螢火の映らぬ水の暮れにけり
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2012.8.28刊行
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| みねお・ふみよ 「銀化」 同人 俳人協会会員・ 日本伝統俳句協会会員 第二句集 [帯文] 夏萩の無残をけふのはじめかな 文世 第一句集『微香性-HONOKA』から十年。 謐かに沈潜していた峯尾文世の第二句集である。 その間の試行錯誤は以前にも増して、 しなやかな言語空間を構築していて興味深い。 年齢的にも成熟しきった一女性の希求する俳句は 匂やかな“表象”となって、 私共、物憂い男達を脅してくれる。 (中原道夫氏)
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◆自選十二句
折鶴のふつくらと松過ぎにけり 先客の靴の濡れある猫の恋 空襲のこと達筆に春の雪 鏡台は正座の高さ祭笛 ゼリー揺れ自分を許さうかと思ふ 鬼灯市ゆふべを長く使ひけり 売れ残る西瓜に瓜のかほ出でて 沸点はいつときにして敗戦忌 秋晴れが鏡のなかにしか見えぬ 外に出す椅子のさまざま文化祭 大年のソファーに深き海ありぬ | ||
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2012.8.11刊行
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| つがわ・えりこ 「南風」 副代表 俳人協会会員 第二句集 [帯文] 真清水を飲むやゆつくり言葉になる 画家である祖父のもとで成長した作者は 無垢の心そのままに俳句を愛してやまず、 今では俳句から愛されている 稀有な一人のように 私は思えてくる。 本物の俳人を目指せる人である。 (山上樹実雄氏)
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◆自選十五句
四五人の雨をみてゐる春火桶 籐椅子の腕は水に浮くごとし 夜遠しの嵐のあとの子規忌かな 木犀やバックミラーに人を待つ おとうとのやうな夫居る草雲雀 秋草に音楽祭の椅子を足す ひつそり減るタイヤの空気鳥雲に 貼りかへし障子の白さ何度も見る つばくらや小さき髷の力士たち 滝涼しともに眼鏡を濡らしゐて 深々と伏し猟犬となりにけり ものおとへいつせいに向く袋角 教室の入口ふたつヒヤシンス 砂時計の砂のももいろ春を待つ
◆七波選十句
放たれし夏蝶とその残像と
閉ざされて月の扉となりにけり
雲雀野や並んでくすぐつたき距離に
真清水を飲むやゆつくり言葉になる
ぶしつけなこと訊いてゐる牡丹鍋
向き合うてふつと他人やかき氷
梅雨空といふ縦長の景色かな
地下道のこんなところへ出て九月
新樹よりのぼるガラスのエレベーター
蘆原のさし来る水のふくらめる
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2012.7.7刊行
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| かわむら・ようへい 「古志」「草笛」「北宴」 同人、「鬼」 誌友 句集に 『羽音』、評伝に 『無告のうた 歌人・大西民子の生涯』 [帯文] 「北の俳人」「北の歌人」 を ここまで集中的に論じた類書は、 いまだかつてなかったのではないかと思われる。 岩手文学史は、本書によって間違いなく 一歩も二歩も前進したのであり、 後世において 「最終の審判」 が下される、 その前に、すぐさま高い評価をうけるであろう ことを確信している。 (復本一郎氏 「序文」 より)
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◆目次
2章 「北の俳人列伝」 ほか 3章 「北の歌人列伝」 ほか 4章 [対談] 「俳句の未来」 ―白濱一羊vs.川村杳平 | ||
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2012.5.10刊行
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| おうみ・まりこ 「鬼」 会員・上智句会会員 第一句集 [帯文] 神様にふみ書くあそび金木犀 満里子は、有季定型に全身全霊で体当たりしている。 それゆえに 『微熱のにほひ』 の一句一句が 衝撃をもって読者の心を揺ぶるのである。 「上手」 な俳句が氾濫する平成俳壇の中にあって、 このつつましくも生命力に溢れた一冊の句集 『微熱のにほひ』 が今、誕生することを、 私は、誰よりもよろこんでいる。 (復本一郎氏 「序」 より)
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◆自選十句
月涼し死に行く父と死の話 あつ満月骨箱ちよつと差し上げて 冬桜父の句帳にわれのこと 豊年の家族にひとつづつ秘密 髪とけば微熱のにほひ春の雪 献体を決めし腕の汗疹かな 身に馴染むものに微熱も晩夏光 ひと日づつ生きるあそびや竜の玉 あたたかき言葉育ててゐるところ
◆七波選十二句
春隣日差しの透ける猫の耳
梅雨間近すぐに外れる本の帯
胸鰭のあたりが痒し夏の風邪
指先の置きどころなき寒さかな
大西日ゴリラゆつくり立ち上がる
違ふともいやとも言へず蕪汁
眼をつむるといふ快楽や蟻地獄
不平等不条理無常心太
向日葵やまだ揉めてゐる借地権
煮凝や言つてはならぬことひとつ
神様にふみ書くあそび金木犀
十枚も切手貼られて富有柿 | ||
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2012.2.1刊行
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| すずき・さだお 「若葉」 主宰・俳人協会理事 句集に 『月明の樫』 『麗月』 『遠野』 『過ぎ航けり』 など [あとがき] より 私には、森とそれを囲む山や湖の句が多い。 それらを纏めて一本にした。 俳句は私にとって文芸であるとともに、 哲学でもあり、また宗教でもある。 森は静かにものを考えるのにふさわしい場所だ。 全ての句の漢字に読みがなを振ったのは、 ふだん俳句に接したことのない人達にも 読んでもらいたいという思いと、 俳句の調べも味わって頂きたいという 気持からである。
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◆十句
初御空メタセコイアの昔より 雉の眸の隈燃ゆるなり霏々と雪 寒鯉の呪縛とけたる水の色 合掌はいのちのかたち木の芽萌ゆ 一瀑を落とせる天のくぼみかな 人の世を閲して閉ぢぬいなびかり 月明の樫の木歩き出さんとす 枯れてより顕はるるものありにけり 枯蟷螂麦藁のごと墜ちてをり | ||
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2011.12.1刊行
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| おおわ・やすひろ 日本伝統俳句協会副会長・上智句会代表 第三句集 [帯句] おやこんな小さな川に浮寝鳥
[あとがき] より 私は今までに俳句結社に所属したこともなければ、 俳句の師についたこともない。 研究活動の延長から 句作を試みるようになったわけだし、 現在でも周りに集まってくれた人たちと 句会を楽しんでいるだけだ。 だから、誰に遠慮することもなく、 結局はこういう自分の好き勝手な形になるのだろう。 | |
◆自選十句
棒きれで叩けば春の水光る 引越してまづ花種を蒔きにけり いま一度故郷の川で泳ぎたし 止まりたる時間の中の水中花 魔女飛ぶをちらりと見たり星月夜 死といふは生者の儀式彼岸花 村の灯のさらに減りたる帰省かな 年の瀬や午後閑かなる魚市場 生きてゐる力を吐けば息白し
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2011.8.10刊行
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| はせがわ・まきこ 「若葉」 同人 第一句集 [帯文] 槙子さんの作品は写生を基盤としている。 素直な目で対象を真っ直ぐに見つめ、 その本質を捉えようとしている。 写生を基盤にしながら、 槙子さんの句で際立っているのは、 繊細な感性と情感の豊かさであろう。 (「若葉」 主宰・鈴木貞雄氏 「序」 より) | |
◆自選十五句
雛の間に大海原の光かな 山藤の此処とは違ふ風に揺れ 里の道春満月へ向かひけり 漣の現れて来し花筏 大干潟ところどころに空の色 その孫と虚子展拝す薔薇の雨 竹植ゑて水琴窟の高音かな 半分は池の面にあり夏の雲 馬の物人のもの干す馬場の秋 風見鶏つと動きたる良夜かな 大鍋に根菜勤労感謝の日 つがひ鴨水輪離れぬほどの距離 寒牡丹おのが白さに震へけり 木像のみ仏の香や春近き
◆七波選十五句
さへづりの囀を呼ぶ深山かな
てのひらに子猫鳴きをる重みかな
紅蓮のひらく予感のさゆれかな
まつすぐに傾ぎてゐたり曼珠沙華
一列に冬日分けあふ子牛かな
辛夷咲く無垢なる空でありにけり
春風を追ひ越してくる園児かな
白薔薇の色には出でぬ心かな
蓮の花真白き反りに狂ひなく
紅蓮の抜けたる宙のありにけり
手捻りの跡の涼しき黒茶碗
一瀑に深山の夕日とどまれり
谷戸奥へ道細りゆく春愁
呉服屋の姿見のなか福寿草
光ごと落ちたる白き椿かな | ||
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2010.8.26刊行
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| やしま・きょうこ 「若葉」 同人 第一句集 [帯文] 掌の中の天道虫の足さばき 自然の微妙な差異を感じとって詠んできた ナイーブな心の持ち主である郷子さんは、 これからは、 心の微妙な襞々を描き分けてゆくであろう。 (「若葉」 主宰・鈴木貞雄氏 「序」 より) | |
◆自選十句
こでまりや母の留守なる昼下がり あぢさゐの迫り出して皆違ふ顔 きゆつと身を寄せてをりけり青葡萄 触れられぬ遠さ山百合匂ひけり 燕の子喉引き攣らせ乞うてをり 空にだけ寂しさ明かす紫菀かな 石蕗の花別け隔てなく黄を放ち シニヨンをマフラーに埋め稽古場へ 冬木の芽視線ひつかかりひつかかり
◆七波選十五句
風鈴の鳴り出してより風吹ける
鮎釣りの身じろぎもせぬ通り雨
凌霄花のきつかけもなく散りにけり
他愛なきメモを残して暦果つ
結界を躊躇ふでなく蟻の列
生れたての色なき色に四葩かな
目高生れ影の自在に泳ぎけり
唐黍の高さを日傘行きにけり
諸手挙げ睡蓮咲ける正午かな
秋風の見えざる筋を蝶辿る
降り出しは固き音たて冬の雨
シュプールの日向日影を縫ひにけり
言ひかけて白き息のみ漏れにけり
揺れ合うてよりコスモスの色となり
蔦茂りしがらみ増えぬこの地にも | ||
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2009.11.22刊行
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| すずき・さだこ 「三ッ葉会」「樅の会」
解説:小高 賢/あとがき:鈴木一誌・鈴木文枝 造本:鈴木一誌
[帯文] 短歌は、庶民がもちえた 生きる手がかりだったのではないか。 そのことの意味の大きさを、 歌集『路地に花咲く』は よくしめしている。 (小高 賢氏 解説「ひたすらな道」より)
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基地の街・立川に起居しながら つむがれた五〇四首。 よみがえる昭和の記憶。
◆十首
もの書きを夢みて書きし日の反故を 夫は庭にて時かけて燃す 臍の緒の切れし痛みか一人子の 娶り去りたるあとのうずきは ようやくの子の独立の挨拶状 読み返すなりそらんじる程に リウマチとおぼしき人に寄りつきて 道に互いの痛む手を見ず 豌豆の青き匂いに杳き日の 故郷の畑と母と顕ちくる 魚屋に海亀の卵売られおり 吾が罪のごと目をそらし過ぐ 立話し長き母の手にひかれいる 子は動く雲いいてゆび指す 読みすすむ士師記に変らぬ殺戮の ヨルダン河岸を写す映像 命とは戦争とはと読みつぎぬ 『野火』に無残な兵のさけびを 会い会うは句読点に似て明日より またそれぞれのひたすらな道 | ||
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2009.11.1刊行 | ||
| いとう・はじめ 「若葉」 同人、「若葉」 編集長 [あとがき] より 収録作品は、 既刊の 『青葡萄』『山祇』 の二句集から 三〇〇句抽出した。 抽出してみて、 改めて吟行句、旅吟の多いことに気づいたが、 これが自分の句作りの傾向なのだろう。
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◆二十句
プールより上がりて女体滴らす 雛の間のかくしづかなる明るさよ 春夕焼明日といふ日を疑はず 極月のおのれの影に気づきたる たんぽぽの絮のわたらひそめしかな 白牡丹一花にて足る夕ごころ 大夕立玻璃一枚を瀧と成し 海坂はほうと明るみ雪しまく 地に還るもの還らしめ木々の冬 谷中根津千駄木町と秋深し 杳として巫山の霞去りやらず 木漏れ日が揺れ母衣が揺れ熊谷草 一夜さの斑雪を刷きし雑木山 茂り中縷々とつづける杣の道 最果ての岬に吠えて風と雪 岬空へ雪吹き上げて竜が飛ぶ 崖氷柱一瀑なせる青さかな 人波に乗りて大きな夏帽子 耀うて詩語のごとくに冬木の芽 | ||
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2008.6.28刊行
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| おおくぼ・はくそん 日本伝統俳句協会副会長 「ホトトギス」同人、こゑの会代表 角川平成俳句叢書 [帯文] 今回の句集は、稲畑廣太郎先生の選を経て 「ホトトギス」に掲載された作品等から選んだ。 深大寺の虚子句碑建立の折の 〈胸像に句碑に精霊蜻蛉かな〉 の句について、 廣太郎先生は、「〈精霊蜻蛉〉 が、 何か虚子の化身にも見える」と評してくださった。 虚子の血脈に連なる幸運を感謝している。
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◆自選十二句
胸像に句碑に精霊蜻蛉かな 糸瓜忌や阪神愛す一詩人 小春日や札所めぐりは順不同 省略を尽くし鮟鱇なほ吊るす 連れて来し犬がもつとも野に遊ぶ 阪神の帽子で神田祭の子 老兵は死なずひたすら昼寝かな 鈴つけし猫と鈴無き猫の恋 雷神は老の臍など狙ふまじ 寄鍋や一人まだこぬ小座布団 やつちやばに生れ育ちし嫁が君 | ||
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2008.5.12刊行
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| ありま・ごろう 「谺」 副主宰 第一句集 [帯文] いま二十年間の俳句をまとめてみて、 果たして自分の目指す俳句を 見つけることができたのだろうか、 その思いが頭から離れない。 この句集が今の自分の俳句であり、 自分の俳句を信じて前に進む外に道はない。 登山のように一歩一歩登り続けることによって、 自分の目指すものが見えてくるではないか。 (「あとがき」 より) | |
◆自選十句
囀やていねいに靴磨きゐる 子供の日なんでも入る袋かな ぽつかりと青空のあり滝の上 蜘蛛の囲を大きく張つて蜘蛛の留守 香水や一人となりし昇降機 鯊日和潜水艦の浮いて来し 繊細にして大胆に曼珠沙華 上野駅何処からとなく林檎の香 石頭やはらかくして牡蠣すする 氷張る鮒とその外眠らせて
◆七波選十句
乗り越して駅の朧に降りにけり
長旅の眼ほぐれし夕ざくら
花冷やバリウムの胃を持ち歩く
小上りに酔うて候暮の秋
秋蝶の海の虜となりにけり
影つれて影より淡き蛙の子
江ノ島の巨いなる岩したたれり
藪蚊打つて打たれし腕の孤独かな
颱風の目の中にゐてむずがゆし
煮凝の弾力といふ力かな
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2007.10.8刊行
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| すずき・みつお 「白魚火」 同人会長 第二句集 [帯文] …殊に第二の人生を故郷で送るようになってからは 大勢の俳句仲間と、 すばらしい日本の自然や文化に触れながら、 文字通り俳句三昧の日々が送れて 今日のあることに感謝し、 句集名を「いのちなが(寿)」とした。 俳句というものの底知れぬ魅力に憑かれながら、 一日でも長く、一句でも多く 詠み続けたいことを願っての題名である。 (「あとがき」 より) | |
◆自選十句
一芽づつ摘んで茶籠へ溢れし芽 桜散る咲くときよりも美しく 山門に縁台を置く牡丹かな 有明の月の残れるほととぎす 曝す書に青凾連絡船史かな 草庵の名もなき草も月のころ 七堂伽藍日当りながら時雨けり 睡蓮の開ききれざる返り花 雪吊の雪の重さをまだ知らず | ||
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2007.7.25刊行
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| すずき・さだお 俳人協会理事、「若葉」 主宰 角川俳句選書 [帯文] 句集名は、揚子江上での一句 過ぎ航けり桐咲く町の名はしらず から採った。 俳句は、茫々と流れてゆく時間のなかの 一瞬一瞬の煌きではなかろうか。 そのなかで、幾たびか、永遠と時間を 共有することができれば幸いである。
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◆自選十二句
うつし身を攫ひのこせし花吹雪 草萌や嬰が出合ふものすべて噫 過ぎ航けり桐咲く町の名はしらず わが詩はすなはち禱り聖五月 龜泳ぐ手足ばらばらの涼しさよ 虹立つてたまのを醒めし思ひかな 魂魄の舞へば露舞ふ薪能 かなかなの声の漣峡浸す 裸木となりし命のかたちかな 遠きゆゑ雪嶺確かありにけり 降る雪やしづかに樹液昇りゆく | ||
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2007.3.31刊行
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| おおわ・やすひろ 日本伝統俳句協会理事 上智大学名誉教授 第二句集 [帯文] 芭蕉は「世人、俳諧に苦しみて、 俳諧の楽しみを知らず」(山中問答)と言った。 ……私は俳句に関っていることが苦しくなったら、 さっさと俳句など捨ててしまうつもりである。 だから、 第一句集 『書斎の四次元ポケット』 でもそうだったが、 今回も何よりも先ず 私自身が楽しむということを大切にした。
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◆自選十二句
世に経(ふ)るはつらしされども初鰹 生きざまの一つ水母の波まかせ 路地裏も浅草なれば江戸の秋 水澄みて銀閣いよよ古びけり 月皎々路傍の石も生を得し 鷹の目は遠き自由を見つめをり 人となる来世夢見て浮寝鳥 冬夕焼生きるに理由など要らぬ 駅舎出て春の星座に迎へらる 雨三日花満開のまま烟る 窓開けて八十八夜の風呂に入る | ||
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2005.8.1刊行
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| くればやし・ひろこ 静岡白魚火会会長 第一句集 [帯文] コスモスの風も写真に納まりし 桧林ひろ子 風に揺れるコスモスを 「風も写真に納まりし」 と表現し、 風の程合を目に見えるように描いた。 このように切れ味がよくて、 俳句の面白さを見せてくれる作品群が 『福寿草』 の一高峰をなしている。 仁尾正文 (「序文」 より) | |
◆自選十句
固つてひいふうみいよ福寿草 目の限り海展けをり青蜜柑 着水の鴨の踏みたるたたらかな 薇の繭ごもりなる瑞葉かな 啓蟄の蛇の置物動きけり 冬帽子さも買ひさうに被りもし 輪唱のやがて合唱虫しぐれ 蒲公英のぽぽぽぽぽぽと微笑める 朝顔や昨日の一句はや褪せり | ||
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2003.9.3刊行
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| おおくぼ・はくそん 日本伝統俳句協会副会長 「ホトトギス」 同人、こゑの会代表 第七句集 [帯文] 俳歴五十年におよび、 円熟の日々を、 ますます風趣ゆたかに軽妙に詠う。
平成九年―十三年 「春嶺」〈往来集〉 発表の二八四句を精選
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◆十句
産土神に八朔相撲の豆力士 横綱碑春の嵐に身じろがず 堂裏に柄杓の乾き寺薄暑 民宿の五右衛門風呂や天の川 子規堂の遺愛の卓の冬日かな 悴めば月の兎も悴める 瑠璃山と号し一院風薫る 炉話に携帯電話割り込みぬ 春日浴びドーム丸ごとふくらめる | ||