眞青なる空に点描冬櫻 笙鼓七波
吾が上の蓋の沢庵石重し 笙鼓七波
海を背にぐぅわりと引きし大根かな 笙鼓七波
虎落笛モンドリアンのモンスター 笙鼓七波
凩の転がり込めるコロッセオ 笙鼓七波
しぐるゝや改札出る人入る人 笙鼓七波
短日の長きヴェーゼにうろたへる 笙鼓七波
小春日は海とスマホを抱へけり 笙鼓七波
決心のまとまらぬまゝ日のつまる 笙鼓七波
先を読み顧みて恥づ十一月 笙鼓七波
冬ざれやぴんと張りつむ吾がこゝろ 笙鼓七波
冬入りて鉛の雨の重さかな 笙鼓七波
おのおのの背骨の曲がり冬に入る 笙鼓七波
形よき山裾延びて冬に入る 笙鼓七波
立冬と語る口の端紅乱れ 笙鼓七波
石工には石工の夢が末の秋 笙鼓七波
青春は何処まで延ぶる秋の暮 笙鼓七波
長き夜二人の時間つゝ流れ 笙鼓七波
映画観て泪流るゝ黄落期 笙鼓七波
蔦紅葉美しき人にぞ絡みつく 笙鼓七波
帰らむか山が呼び込む冬隣 笙鼓七波
校了の紙で指切るすさまじや 笙鼓七波
梵鐘の真下は無音秋深し 笙鼓七波
石礫となりて秋の別れかな 笙鼓七波
刻に翳見つけて秋の別れかな 笙鼓七波
十月や風の流れと気の流れ 笙鼓七波
看病は愛の重さよ秋澄めり 笙鼓七波
源内の煙管の如き思ひ草 笙鼓七波
年経りて椎茸の味わかるとは 笙鼓七波
奥利根にあるは芒と風の舞 笙鼓七波
栗の毬空を刺すとて打たれをり 笙鼓七波
胡桃割る二心房二心室 笙鼓七波
変節の人あり色変へぬ松 笙鼓七波
皀角子の乾ききつたる莢の音 笙鼓七波
腕力と腰で引き合ふ相撲草 笙鼓七波
みせばやや女モデルの見栄を切り 笙鼓七波
秋櫻揺れて定(き)まらぬ吾がこゝろ 笙鼓七波
無花果を割る妣の俤を割る 笙鼓七波
無患子の呪文のごとに降りにけり 笙鼓七波
棘のある君の口吻茨の実 笙鼓七波
罐蹴りの罐の放物天高し 笙鼓七波
草の花己が既歴を投げ捨てり 笙鼓七波
ほつこりと穂高の戀や秋の水 笙鼓七波
杜鵑草命を懸けた戀ならば 笙鼓七波
秋茄子の味の判りし齢かな 笙鼓七波
めらめらと天に向かひて曼珠沙華 笙鼓七波
悲愴とは孤独な青の鳥兜 笙鼓七波
差し出せし君の掌の茱萸幸あれと 笙鼓七波
豆腐屋の喇叭の音色白粉花 笙鼓七波
たかまりて鎮まるこゝろ吾亦紅 笙鼓七波
あなたなる山よ吾妻の吾亦紅 笙鼓七波
ぽんと裂けぷんと匂へる通草かな 笙鼓七波
水引の花や別離のさりげなく 笙鼓七波
ゐのこづちいつもつきし子いまいづこ 笙鼓七波
一粒の黒き泪や山葡萄 笙鼓七波
存念を種無し葡萄忘れたか 笙鼓七波
鬼の子を起こすな風の揺籃よ 笙鼓七波
初雪の富士や祝詞の朗々と 笙鼓七波
初雪の逆さ富士やゝ揺れにけり 笙鼓七波
地核より天の啓示や蚯蚓鳴く 笙鼓七波
腹筋の六箇に割れてちんちろりん 笙鼓七波
鎖骨には女の悲哀鉦叩 笙鼓七波
睦ては力尽きたり秋の蝶 笙鼓七波
残る蚊の残る翅音で吾を刺す 笙鼓七波
煩くも愛嬌のある秋の蠅 笙鼓七波
棗の実楕円に歪む吾が苦渋 笙鼓七波
鈴虫を抱きてのたれ死ぬるかな 笙鼓七波
夜を罩めて女こがりし秋螢 笙鼓七波
虫の夜に差別のあるや啞の声 笙鼓七波
虫月夜人は秘かに泣くものか 笙鼓七波
虫時雨人は秘かに泣きにけり 笙鼓七波
秋刀魚焼く「秋刀魚の歌」を口遊み 笙鼓七波
松虫に夜を盗られてすべもなく 笙鼓七波
天に星降りて地に匍ふ邯鄲か 笙鼓七波
天に星散らせ地に邯鄲匍へり 笙鼓七波
鉦叩芸者と遊ぶ投扇興 笙鼓七波
草雲雀鳴くや覚悟の決められず 笙鼓七波
馬追や闇を吞み込む牧之原 笙鼓七波
真暗がり音の知らせる一葉かな 笙鼓七波
蒼穹を群れて奪ひし秋茜 笙鼓七波
俯せに仰のけたゞす秋の蟬 笙鼓七波
風歌ひ雨の降らせる星の草 笙鼓七波
夏休終へて末子の大人びる 笙鼓七波
いざ前も後へも御山洗ひかな 笙鼓七波
蜩の声重ならず谷の中 鼓七波
弟切草一子相伝てふ掟 笙鼓七波
翁の像裹みて青し芭蕉かな 笙鼓七波
神霊の大地耕すいなびかり 笙鼓七波
人知れず顧みられず楤の花 笙鼓七波
在るがまゝ在るがまゝなり楤の花 笙鼓七波
何処へ行き何を為せるか赤まんま 笙鼓七波
隠沼の蒲の穂絮の風を待つ 笙鼓七波
吊るされしまゝなり秋の金魚かな 笙鼓七波
宿題へ第四楽章夏休 笙鼓七波
芋の夢喰ふ芋虫変身す 笙鼓七波
水蜜桃胎児が喉をすり抜けり 笙鼓七波
木槿咲く団地に老いの忍び寄り 笙鼓七波
あはきものつまくれなゐのおくりもの 笙鼓七波
それぞれに皆還りゆくおくれまぜ 笙鼓七波
一鳴きしつくつく法師いのち尽く 笙鼓七波
梳く髪の肩に落ちたり花芙蓉 笙鼓七波
鬼灯を鳴らして幼女姥となり 笙鼓七波
サルビアの赫に祈れり黒人霊歌(スピリチュアル) 笙鼓七波
少女いま嫁ぐばかりの鳳仙花 笙鼓七波
Sが落ちummer飛びて初嵐 笙鼓七波
縦ばかり秋の初風吹きにけり 笙鼓七波
天皇の御言葉重し八月の 笙鼓七波
潮風の濕り異なる今朝の秋 笙鼓七波
うたゝ寝の恋しき人よ夜の秋 笙鼓七波
たをやかに月下美人にうらぎられ 笙鼓七波
夏菊の身の丈知るやさりげなく 笙鼓七波
クレオメの白蝶風に乱舞せり 笙鼓七波
横向きし勝気な少女黄蜀葵 笙鼓七波
甲冑の重さの消えて夏の果 笙鼓七波
火矢浴びし屍體の見えて霍乱す 笙鼓七波
木曾殿と倶に討ち死に風死せり 笙鼓七波
溽暑とて京の餘白に逃れけり 笙鼓七波
保元の亂の痕跡日の盛り 笙鼓七波
頁繰る午睡の中の合戦記 笙鼓七波
陸続と忙事あらはれ日照草 笙鼓七波
モネのモネたるかを知らず未草 笙鼓七波
千日紅ボンボン菓子の零れをり 笙鼓七波
外つ国の多言語あふれ甘藷焼酎 笙鼓七波
資料館抜けて花魁草の風 笙鼓七波
テロといふ心の闇に百合ひらく 笙鼓七波
含羞草礼儀たゞしきコスモポリタン 笙鼓七波
玫瑰や何でもできる今ならば 笙鼓七波
梯梧散る島を離るゝ島人(シマンチュ)に 笙鼓七波
不器用に生きて焼酎あふりけり 笙鼓七波
にきび顔そのまゝ老いて甘藷焼酎 笙鼓七波
沙羅の花笑顔残して落ちにけり 笙鼓七波
熟成の夜の時間や合歓の花 笙鼓七波
白雪の澄ては淡し梔子の花 笙鼓七波
青林檎サクッとナイフ銜へけり 笙鼓七波
青柿の小ぶりなるものころがれり 笙鼓七波
フクシアは揺れて倖せ運ぶ花 笙鼓七波
ヒンプンを敲く風なし佛桑花 笙鼓七波
十和田なる青水無月の熊あはれ 笙鼓七波
ソワレ跳ね宙に月ある白夜かな 笙鼓七波
旱星天の涯より地の果てへ 笙鼓七波
向日葵の畳かけくるバイオレンス 笙鼓七波
昼顔や虚ろな眼の女の来 笙鼓七波
馨香が心を洗ふラベンダー 笙鼓七波
空仰ぎ長雨倦みし雨蛙 笙鼓七波
蛇衣やセーラー服を売りに行く 笙鼓七波
親指を立てゝ河鹿のこゑといふ 笙鼓七波
枝蛙雨の嫌ひなものもをり 笙鼓七波
尾鰭揺れ赤の膨らむ金魚玉 笙鼓七波
金魚玉といふせつなき小宇宙 笙鼓七波
猥雑が夜を飲み込む夾竹桃 笙鼓七波
天頂へ駆け上がりゆく星涼し 笙鼓七波
麦星や心に星座見えてをり 笙鼓七波
梅雨晴間未来想像してごらん 笙鼓七波
雲間より匂ひ零るゝ梅雨の月 笙鼓七波
溽暑とて二人の戀を解放す 笙鼓七波
炎昼やちやんぷるうされてく頭 笙鼓七波
夏夕べ青児の女戀に出る 笙鼓七波
百年の孤独綻ぶ破れ傘 笙鼓七波
夏の夜のやるせなきかなバイオレンス 笙鼓七波
躙り口くぐりて半玉絹袷 笙鼓七波
うつろ気な女のしぐさ著莪の花 笙鼓七波
群なして人嫌ひなり水芭蕉 笙鼓七波
市郎兵衛殺しやなまめかしき夜 笙鼓七波
夜を罩めて螢袋の海潮音 笙鼓七波
天命の光の波長額の花 笙鼓七波
萍の裏に水中都市の在り 笙鼓七波
萍の裏に拡ごる領土かな 笙鼓七波
いつの世か人を殺めりダリア剪る 笙鼓七波
少年の葬列漠とした夏日 笙鼓七波
少年の手首の傷や梅雨に入る 笙鼓七波
少年の葬列眺む吾の夏 笙鼓七波
時計草心の針の振り切れり 笙鼓七波
罪四箇四葩の花に宿りたり 笙鼓七波
変はり身の迅き人あり七変化 笙鼓七波
あぢさゐやいろこひざたのつみとばつ 笙鼓七波
葛きりや他人を巻き込む痴話喧嘩 笙鼓七波
夏きざすタッチラインの水ボトル 笙鼓七波
夏羽織着てぎこちなく主役の座 笙鼓七波
甚平が町内会費集め来る 笙鼓七波
淋浜のいよゝ殷賑青葉潮 笙鼓七波
いぢられし女芸人鱧の皮 笙鼓七波
曼荼羅の如く円座の敷かれをり 笙鼓七波
脇役の凄みと旨み身欠き鰊 笙鼓七波
頑迷の役者の如き蟹胥 笙鼓七波
沖膾手並拝見風狂句 笙鼓七波
白玉や織田作の句の浮かび来る 笙鼓七波
竹婦人来て竹夫人剝れをり 笙鼓七波
押し出され渦中の人に心太 笙鼓七波
白妙の高き低きに卯浪立つ 笙鼓七波
富士もまた吾もまた着む夏衣 笙鼓七波
君は聞いたか瀧の切なる悲鳴 笙鼓七波
御前崎灯台目がけ卯浪立つ 笙鼓七波
相輪の先より濡るゝ青しぐれ 笙鼓七波
夏浅き狸穴の地の大使館 笙鼓七波
滴りの声のみありて言葉なく 笙鼓七波
松の葉の天に伸びたり青時雨 笙鼓七波
清和なる杜に樹液の語るごと 笙鼓七波
少女等の髪靡かせて五月来る 笙鼓七波
はつなつの風に戀せし美少年 笙鼓七波
牡丹百合咲いた咲いたに呪文めく 笙鼓七波
蝌蚪の夢幼の尻の蒙古斑 笙鼓七波
眩暈やあえかなるヘリオトロープ 笙鼓七波
羅生門蔓こぼるゝ鬼女の里 笙鼓七波
背徳の匂ひアネモネたゞよはせ 笙鼓七波
解決の糸口見えず錨草 笙鼓七波
新米の覚束なきや磯嘆き 笙鼓七波
浅草の地下を疾駆す荷風の忌 笙鼓七波
缶蹴りの缶の放物花大根 笙鼓七波
被災の地山吹草の灯しかな 笙鼓七波
風のみの古道に松の緑立つ 笙鼓七波
宇宙より一閃の日矢濃山吹 笙鼓七波
春蟬の飴の馨香ありにけり 笙鼓七波
羽衣の松の花粉を天上へ 笙鼓七波
藤房の風のかたちに揺れにけり 笙鼓七波
おのおのゝこゝろのうちにちるさくら 笙鼓七波
彼の人はいつも遅参や遅ざくら 笙鼓七波
貌よ鳥美(は)しきものとて片戀す 笙鼓七波
桜蝦さくらの色に干されをり 笙鼓七波
まるくなり鹿も角落つ吾もまた 笙鼓七波
春の虹メトロノームの音かすみ 笙鼓七波
つくばひの月を散らして花吹雪 笙鼓七波
ブーメラン翔ぶが如くに初つばめ 笙鼓七波
断捨離の人ある朧月夜かな 笙鼓七波
蘆芽の若造なるやとんがれり 笙鼓七波
二丁目のママが一瞥蝮蛇草 笙鼓七波
黙契の如帰来せり初つばめ 笙鼓七波
風切つて春草踏みし蹠かな 笙鼓七波
浜防風ひとり佇む君なれば 笙鼓七波
春雨の音に委ぬるエタ・ダーム(魂の状態) 笙鼓七波
リラ咲くや巴里の舗石の下の砂 笙鼓七波
リラの頃巴里に佇ちたや甃 笙鼓七波
濁世のなほ連翹の花明り 笙鼓七波
イエローの繪具瀰散し黄水仙 笙鼓七波
十ばかり連れて帰りぬ遊蝶花 笙鼓七波
沈丁や青児の女懸けてあり 笙鼓七波
国境がなくなるつてよ萬愚節 笙鼓七波
山峡を臨む辛夷の無垢の聲 笙鼓七波
ミモザ咲かば年を重ぬる女あり 笙鼓七波
黄花より生まれ出でたる黄蝶かな
飽きもせで人の観察日永かな 笙鼓七波
遠足の列をお城が飲み込めり 笙鼓七波
笙の音の風に吹かれて春祭 笙鼓七波
蝶生まる今まさに天輝けり 笙鼓七波
イースターボンネットより色めけり 笙鼓七波
うらゝかや居間にゲルニカピカソの繪 笙鼓七波
永き日やゲームの海に溺れをり 笙鼓七波
春潮の聲を荒げて迫り来る 笙鼓七波
痛かりし水のやはらぎ春愁 笙鼓七波
こゝにゐるよと叫んでも忘れ潮 笙鼓七波
忘れ潮おいてけぼりの己かな 笙鼓七波
春セーターの胸に飛び込む娘かな 笙鼓七波
抱擁の強きに辷る春ショール 笙鼓七波
左手が握る右手の春手套 笙鼓七波
幻の魚幻の渡り漁夫 笙鼓七波
海明の沖に船出す一番旗 笙鼓七波
ベルギーの小便小僧水ぬるむ 笙鼓七波
光なき空殉教の海の春 笙鼓七波
標本の蝶飛び立てり夢の春 笙鼓七波
みな海へ消えてゆくなり春の雪 笙鼓七波
春の闇まだ見ぬ己裹みけり 笙鼓七波
風光る黒髪翳宿る眸 笙鼓七波
かんばせの愁ひ目隠し雛納 笙鼓七波
かんばせの目元ぱつちり今の雛 笙鼓七波
逆旅にて紙で折りなす雛かな 笙鼓七波
ジャズ流れ店にオブジェの内裏雛 笙鼓七波
爆買ひの弾丸ツアー霾れり 笙鼓七波
閏年遅れて来る微苦笑忌 笙鼓七波
音無きに音もて木の芽盛んなり 笙鼓七波
磯巾着夢幻のなかを触手伸ぶ 笙鼓七波
磯巾着揺るゝ触手の夢幻かな 笙鼓七波
隙あらば駆け抜けてゆく二月かな 笙鼓七波
朧夜を反芻しては牛の舌 笙鼓七波
春曉の帰宅それぞれ猫と吾 笙鼓七波
漸くに閂外し春となる 笙鼓七波
浪立ちて大瀬の春の濁りかな 笙鼓七波
銀嶺の風よまんさく裏切らず 笙鼓七波
スノードロップ胸の痞への取れにけり 笙鼓七波
天に碧地に雪人に猫柳 笙鼓七波
くつきりとちよつとだけある蜷の道 笙鼓七波
くつきりと十字(クロス)を描く蜷の道 笙鼓七波
海といふ宇宙に宿る月日貝 笙鼓七波
童等の掻き散しをる春陽かな 笙鼓七波
彼の人の返信来り春薄暮 笙鼓七波
上に見てやがて下なる春の山 笙鼓七波
擦り抜けし風船玉の旅路かな 笙鼓七波
幕間や涙拭ひて蕨餅 笙鼓七波
萬年の中の一瞬亀鳴くや 笙鼓七波
あかねさす紫光うつせり石鹸玉 笙鼓七波
剪定す乱るゝ吾の心をも 笙鼓七波
陽炎を見つむ人の世かぎろへる 笙鼓七波
かざぐるま風の悲愴をまはしをり 笙鼓七波
二度三度遣り込められし冬了る 笙鼓七波
風は今パステルカラー春隣 笙鼓七波
消炭の悪き癖また戀に燃ゆ 笙鼓七波
銅鐸の音色いかにや日脚伸ぶ 笙鼓七波
一白鳥山ふところの玄の沼 笙鼓七波
人知れず憂ひにくるゝうつ田姫 笙鼓七波
風の愛づ月に戀せし野水仙 笙鼓七波
手焙の馬鹿つ話いざ出番 笙鼓七波
なんとなく童に似たり冬菫 笙鼓七波
鰤起し酒と女とヴァイオレンス 笙鼓七波
一点が一直線に鷹となる 笙鼓七波
釣らるゝも釣るも鈍きや寒の湖 笙鼓七波
夢現無に帰りなむ雪兎 笙鼓七波
彼の人の思ひがけなき雪礫 笙鼓七波
柳橋辿れば三味の弾始 笙鼓七波
綱引の先に「豊」の見え隠れ 笙鼓七波
ぽつぺんの浮世離れの音すなり 笙鼓七波
初場所の新理事長の律儀かな 笙鼓七波
斧始谺に谺呼応せり 笙鼓七波
樵初山が軋みて躍り出す 笙鼓七波
初山や樹液のことに流れ出す 笙鼓七波
十五日粥やめでたし和三盆 笙鼓七波
餅花や宙にカオスのある如く 笙鼓七波
傷負ひし獣の血酔ひ雪のうへ 笙鼓七波
新年会終へて見上ぐる煌の星 笙鼓七波
精神を息に吐き出す射初めかな 笙鼓七波
劇団のまるころ餅を雑煮とす 笙鼓七波
淡き戀心ふはりと初霞 笙鼓七波
牛日や休み疲れの顔と顔 笙鼓七波
キッチンカウンター越しに屠蘇を酌む 鼓鼓七波
三日はや風に吹かれて過ぎにけり 笙鼓七波
アニミズムてふ淑気漾へり 笙鼓七波
新生の精気漲る初日の出 笙鼓七波
纁やがて金赤となる初明り 笙鼓七波
元旦の天悠々と龍の舞ふ 笙鼓七波
山のなき北総平野年逝けり 笙鼓七波
貌の創絆創膏で年越せり 笙鼓七波
今日日とて狐裘の女ありにけり 笙鼓七波
数へ日を数へ直すも日の足りず 笙鼓七波
納まりのなきまゝ御用納かな 笙鼓七波
悲し気な賢治のマント真似てみる 笙鼓七波
冬帽を目深にイルミネーション下 笙鼓七波
狐火を連れて女将の迎へかな 笙鼓七波
鎌鼬すぱと心に傷ひとつ 笙鼓七波
しぐるゝや覚えのなき子名乗り来る 笙鼓七波
一陽来復洒落た戀文届きけり 笙鼓七波
再生の夢中に在るや山眠る 笙鼓七波
邂逅は別離のために寒夕焼 笙鼓七波
朴訥のぽつり一言北颪 笙鼓七波
雪蔽ふ青春といふ傷の痕 笙鼓七波
悲しみのいろはにほへとしはぶけり 笙鼓七波
寒暁の鉄砲打ちし力士かな 笙鼓七波
各々がオブジェとなりて蓮の骨 笙鼓七波
マチネーの舞台のはねて暮早し 笙鼓七波
慨歎も怨嗟も忘れ蓮の骨 笙鼓七波
風の絶ち音の消え去る枯芭蕉 笙鼓七波
めらめらと燃ゆるを想ふ枯草の 笙鼓七波
菊焚くや残んの香り天を突く 笙鼓七波
君廚俳人子持花椰菜 笙鼓七波
雪折の逆光の中遠会釈 笙鼓七波
凩や井戸端会議の口閉ざす 笙鼓七波
多忙なる男六面花八手 笙鼓七波
虚空より冬蝶墜つる冥府かな 笙鼓七波
吾が肩に冬蝶落ちて身じろげず 笙鼓七波
日を刻み時を刻みて枯蟷螂 笙鼓七波
堆く積み上げし本鮫来る 笙鼓七波
深淵を見てきたやうな海鼠かな 笙鼓七波
月白く潔白なるや氷魚を汲む 笙鼓七波
鮫来る湾に朝光放ちけり 笙鼓七波
竹馬の高みに寄する日昏かな 笙鼓七波
ふうふうと含む風呂吹福の味 笙鼓七波
青写真遠きスタアのあらはれり 笙鼓七波
抱かれし小(ち)さき命の嚏せり 笙鼓七波
冬灯古文書に見る吾がルーツ 笙鼓七波
寒雷や天に抜けたる音すなり 笙鼓七波
べつたら漬話足りないことのあり 笙鼓七波
狸汁何やら一杯喰はされて 笙鼓七波
みな人の心に寒さしのばせり 笙鼓七波
冬霧の捲れて己さらしけり 笙鼓七波
冬霧に己隠してをりにけり 笙鼓七波
大熊手引き連れ粋な女往く 笙鼓七波
猫揺らす水面に映ゆる冬の月 笙鼓七波
ぢぢばばと亦ぢぢばばと七五三 笙鼓七波
小春風吹く軽便の線路跡 笙鼓七波
団塊の人等闊歩す小六月 笙鼓七波
浅き冬のほゝんと戀してをれり 笙鼓七波
ゲームせし隣席の手の伸びて冬 笙鼓七波
青海波一つ二つの小春かな 笙鼓七波
大車輪鉄棒越えて冬来り 笙鼓七波
冬そこに魚籃坂まで来てをれり 笙鼓七波
色の葉の色を紡ぎて奥入瀬へ 笙鼓七波
金も緋も掌中にあり紅葉山 笙鼓七波
金色の堂を裹めり黄金(きん)もみぢ 笙鼓七波
十和田なる湖にゆるりと紅葉舟 笙鼓七波
紅葉づれば下駄を買ひけり角館 笙鼓七波
浄土なる庭に紅葉の迎へかな 笙鼓七波
夕紅葉入口低き武家屋敷 笙鼓七波
妻恋の草に俤智恵子抄 笙鼓七波
入紅葉青龍舞ひし社かな 笙鼓七波
登り来し発荷峠や紅葉(もみ)出づる 笙鼓七波
押し合うて遊びしことも椿の実 笙鼓七波
千里来て千里を帰る草紅葉 笙鼓七波
恋ひこがれ大地を燃やす草紅葉 笙鼓七波
ことごとく光を翳に末枯るゝ 笙鼓七波
末枯れて光を翳に変へにけり 笙鼓七波
音のない音の世界の末の秋 笙鼓七波
人は皆何隠しをる芒原 笙鼓七波
人の翳伸びて落穂を拾ひけり 笙鼓七波
無花果を割る深淵の暗闇を 笙鼓七波
此の道は何処へ続くや種瓢 笙鼓七波
鵙鳴くや十九で嫁ぎ子沢山 笙鼓七波
ちくちくと空歪めたる栗の毬 笙鼓七波
柿色の空に柿捥ぐ竿突けり 笙鼓七波
色変へぬ松に変節なかりけり 笙鼓七波
ぽつぽつと秋の雨降るスクリーン 笙鼓七波
怪しくも水面に揺るゝ蘆火かな 笙鼓七波
割箸の短すぎたり走り蕎麦 笙鼓七波
渡り鳥風を吹かせる風のあり 笙鼓七波
一声を上げて鴉の別れかな 笙鼓七波
秋小鳥カラーチャートを飛び出せり 笙鼓七波
すがれおひフェイントかけて逃げゆけり 笙鼓七波
耀うて真白き綿のすがれおひ 笙鼓七波
紅顔の俤友と新走り 笙鼓七波
鳥兜空(くう)なる画布に青流る 笙鼓七波
月代の猫を間にふたりかな 笙鼓七波
黒舞茸(まひ)も白舞茸もゐて舞ふつもり 笙鼓七波
焦らされて恋の始まるねこじやらし 笙鼓七波
待ち人はどこに隠るゝ萩の寺 笙鼓七波
失せ物のぴよこんと出て来萩の花 笙鼓七波
しやきしやきとパプリカの色食みにけり 笙鼓七波
誕生日何処で迎へる土瓶蒸し 笙鼓七波
ゐのこづち大き背中についてゆく 笙鼓七波
ゴルゴタの丘駆け上がる曼珠沙華 笙鼓七波
新米や穀物抜きも今日ばかり 笙鼓七波
日の暮れて駆け足となる秋遍路 笙鼓七波
一杯の酒に頰染め吾亦紅 笙鼓七波
子に役の付きて稽古や竹の春 笙鼓七波
哀れ蚊や喰はれしまゝにすてやれり 笙鼓七波
秋刀魚焼く侘しき顔をゆるませて 笙鼓七波
限界の村に人形秋の夢 笙鼓七波
高下駄の天狗の転けし秋祭 笙鼓七波
古刹なる此処が秋思の指定席 笙鼓七波
江戸前の漁場に連ぬる鯊の竿 笙鼓七波
野に佇ちし案山子アニメのキャラクター 笙鼓七波
颱風の逸れて雨雲寄越しけり 笙鼓七波
あるがまゝ揺れゐる簾名残かな 笙鼓七波
きつちりとたゝめぬまゝの扇置く 笙鼓七波
妙齢の語りなめらか水澄めり 笙鼓七波
猿酒や酔ひて峠のバスツアー 笙鼓七波
燈火親しむ背表紙抜けし広辞苑 笙鼓七波
手も口も動き止まらぬ月見豆 笙鼓七波
まんまるの山にまあるい花野風 笙鼓七波
爽やかや皆が詩人に変はるとき 笙鼓七波
皆がなる考古学者に宵の秋 笙鼓七波
八月はこの国とありかへりみむ 笙鼓七波
真つ黒きもの蠢ける八月尽 笙鼓七波
稲妻の妻のあたりが燃えてゐる 笙鼓七波
暗黒の闇夜が来るぞ鉦叩 笙鼓七波
草ひばり鈴を轉がし明けを鳴く 笙鼓七波
牧の原頓に追ひ来るすいとかな 笙鼓七波
夢に見し邯鄲縷々と明けを鳴く 笙鼓七波
稽古場のコロスの和音ちゝろ鳴く 笙鼓七波
銀やんま風を拾うて翔けにけり 笙鼓七波
四姉妹続く一(い)太郎男郎花 笙鼓七波
庄内のおかめの女将ラ・フランス 笙鼓七波
あえかなる女の姿態をかとゝき 笙鼓七波
集団の中の個々なる蜻蛉かな 笙鼓七波
風の出てだあれもゐない秋螢 笙鼓七波
陸続と四姉妹なりをみなへし 笙鼓七波
桔梗や見られる角度はかりつつ 笙鼓七波
みそはぎや風吹く原の水の精 笙鼓七波
花葛や沸き上がりたる民の聲 笙鼓七波
其の人に誘はれゆく萩の径 笙鼓七波
たはむれにほゝづきならすものはなく 笙鼓七波
ぽんと打つ姉が鼓よ鳳仙花 笙鼓七波
掌から手へ絡み付きたる桃の蜜 笙鼓七波
蒲の穂ややがてはぢけていくさにか 笙鼓七波
ぶんぶんと議論無き如蚊遣香 笙鼓七波
秋扇住めば都の風となり 笙鼓七波
梶の葉の「心」の中に平和かな 笙鼓七波
硯洗ふ心の垢を落とす如 笙鼓七波
いくさくるやもしれぬけふ炎熱忌 笙鼓七波
草笛は別れ知りたる音色なり 笙鼓七波
忸怩たる思ひありけりサングラス 笙鼓七波
首傾げ頬杖つけり青林檎 笙鼓七波
高原の風姿の変はる晩夏かな 笙鼓七波
羅の襞に心の綾が見え 笙鼓七波
夏旺ん人に盛んの有りや無しや 笙鼓七波
皆々が気配隠せし海霧の邑 笙鼓七波
白服の白装と逢ふ影仄か 笙鼓七波
掌を合はせ何を語らむ蓮の花 笙鼓七波
曝されて大津絵の鬼所在なし 笙鼓七波
虚空より開ききつたる花火かな 笙鼓七波
此の道は沖へと続く青胡桃 笙鼓七波
一陣の涼風躰抜けにけり 笙鼓七波
青田風棚の下から上りけり 笙鼓七波
脳天にナイフの刺さる炎天下 笙鼓七波
七月を取り戻さむと沖に出る 笙鼓七波
天神のはかつたやうに梅雨あがる 笙鼓七波
片陰のさらなる陰に憩ひけり 笙鼓七波
みなづきの地球の端のくづれけり 笙鼓七波
みぎひだり西日の廻る新京成 笙鼓七波
脂照り腑抜の魂のさまよへる 笙鼓七波
炎昼の貌持て来る男かな 笙鼓七波
白夜下の刃の河を遡行せり 笙鼓七波
汀まで一目散の熱砂かな 笙鼓七波
向日葵の蔭間に二人ハートの葉 笙鼓七波
風の音を鳴らして螢袋かな 笙鼓七波
夕立来て白一面に烟(けぶ)りたり 笙鼓七波
朝焼けの色に染まりて午時花散る 笙鼓七波
玫瑰は孤愁が似合ふ人に合ひ 笙鼓七波
緑夜とてやんごとなき句口遊む 笙鼓七波
鄙なれどそこがふるさと夏薊 笙鼓七波
水の玉落としてしばし蜻蛉生る 笙鼓七波
羊水の泳ぎに倦みて半夏生 笙鼓七波
打ちつけど風の形見の蚊の唸り 笙鼓七波
茅の輪くゞる∞(無限大)の一歩から 笙鼓七波
草茂る器の銘は魯山人 笙鼓七波
催促の女が来る夾竹桃 笙鼓七波
ぼつぼつと許してあげよかきつばた 笙鼓七波
栗の花重き香りのありにけり 笙鼓七波
青蔦の塔をまるごとはがひじめ 笙鼓七波
黄斑より雨に濡れ初む著莪の花 笙鼓七波
時空より金糸辷らす朝の蜘蛛 笙鼓七波
もういいか咲き疲れたるそのひぐさ 笙鼓七波
木の暮の主の姿を現せり 笙鼓七波
優曇華や化けて役者に銀の花 笙鼓七波
松の葉の音を忘れて墜ちにけり 笙鼓七波
宇宙との交信了へて朴散華 笙鼓七波
ぢごくでてうすばかげろふふらりふらり 笙鼓七波
大道の芸人ハネててんとむし 笙鼓七波
さまよへる出口なし森夏茱萸が 笙鼓七波
尺蠖の伸びたところの油断かな 笙鼓七波
郭公の谺かそけし始発駅 笙鼓七波
沈黙が金は昭和ぞ瑠璃蜥蜴 笙鼓七波
牛蛙夜をなぞらへて鳴きにけり 笙鼓七波
くぬぎ山まるごと花の垂れ穂かな 笙鼓七波 季節の花 300
鈴蘭や面影といふ毒を秘め 笙鼓七波
萬年の亀裂をけふの瀧とせり 笙鼓七波
たまさかにこの国に生り夏の霧 笙鼓七波
茂り葉の群れてかそけき聲のあり 笙鼓七波
青楓手折りて挿せる御髪かな 笙鼓七波
滴りの色クリスタル音宇宙 笙鼓七波
木苺や森の中なるひそめごと 笙鼓七波
楓の花誰(た)の心にもある素直 笙鼓七波
緑蔭をはみ出してゆく会話かな 笙鼓七波
うつむきて紅さす天女花かな 笙鼓七波
卯の花や萬年橋を渡るとき 笙鼓七波
ハンカチの花や白鳩あらはれず 笙鼓七波
結葉を野暮な風来て解きにけり 笙鼓七波
はぢらひて少女の通る柚子の花 笙鼓七波
すきとほる一夜を共に素馨かな 笙鼓七波
ジャスミンを一枝挿せり深夜便 笙鼓七波
どの花も時刻の合はぬ時計草 笙鼓七波
マロニエの花投げられし硬貨受く 笙鼓七波
大木を直下に匂ふ泰山木 笙鼓七波
繍線菊や相合傘の二人なら 笙鼓七波
アカシアの花ようれひの群れし蝶 笙鼓七波
風ならば皆なりたきや若葉風 笙鼓七波
ぷつぷつとポプラの新樹空を突く 笙鼓七波 季節の花 300
膝の水溜まるが如く雲の峰 笙鼓七波
少しだけ青葉の色を貰ひけり 笙鼓七波
石楠花や狭間にすがる家二軒 笙鼓七波
ぼうたんの剪られ一輪流刑の地 笙鼓七波
夏柑の汁ほとばしり乙女らが 笙鼓七波
家族とはなかなかよかれ柿若葉 笙鼓七波
牡丹忌の笙よ鼓よ風叙せり 笙鼓七波
母の日の母きぜはしく母となる 笙鼓七波
ウェディングドレス皓々と薔薇館 笙鼓七波
薔薇よりも赤きルージュの女かな 笙鼓七波
風薫る和服草履の若頭 笙鼓七波
傘雨忌や句稿の行方燈しをり 笙鼓七波
こたへるにこんなもんぢやとなんぢやもんぢや 笙鼓七波
葉ざくらや南朝の京山の中 笙鼓七波
大三輪の清水あるゝと山の音 笙鼓七波
葉ざくらや隠せし嘘の露見せり 笙鼓七波
邑人は何処へ消えたか山帰来 笙鼓七波
季節の花 300
まるまると満天星いたゞけり 笙鼓七波
不調和の吾に躑躅の襲来す 笙鼓七波
山が揺れ黄金が振れる濃山吹 笙鼓七波
ヒヤシンス風の便りのありにけり 笙鼓七波
幸せは奈辺に在るやオキザリス 笙鼓七波
海鳴りの途切れし処フリージア 笙鼓七波
風と和し風を厭うて群雀 笙鼓七波
不器用に彫りし巣箱の穴の鳥 笙鼓七波
花海棠眠りを誘ふ薬かな 笙鼓七波
一片のわだかまりなく遅ざくら 笙鼓七波
リラ冷えややまひ飼ひをる胸の中 笙鼓七波
花水木時刻どおりのバス通り 笙鼓七波
又庭の天に向かひて紫荊 笙鼓七波
櫻蕊ふる疲れ切つたる魂のふる 笙鼓七波
花あしび馬の如くに酔うてをり 笙鼓七波
残櫻や遊ぶ子のなき小公園 笙鼓七波
精神を痛めてゐます揚雲雀 笙鼓七波
さへづりやいままさに旅たゝんとす 笙鼓七波
花ちるやあはたゞしきは死出の旅 笙鼓七波
春吹雪溜りし水を抜きにけり 笙鼓七波
邪推さるゝこともありなむ揚雲雀 笙鼓七波
悲愴なる聲天におく雲雀かな 笙鼓七波
墜ちるため揚りきつたる雲雀かな 笙鼓七波
花散るややがてモノクロモノトーン 笙鼓七波
彼の人の心のあらずきつねだな 笙鼓七波
春雷やセブンティーンのやるせなさ 笙鼓七波
もう一人自分の在りて花曇 笙鼓七波
古金庫鍵の在り処は春夕焼 笙鼓七波
抽斗の奥に鬱々さくら月 笙鼓七波
四月一日(わたぬき)の姓と出逢へず萬愚節 笙鼓七波
抱瓶を小脇に朧月夜かな 笙鼓七波
ゆるキャラの皮脱ぎしもの春の宵 笙鼓七波
風光りもの色づかす風の色 笙鼓七波
心まで鬱金に染めしよなぐもり 笙鼓七波
春塵を縫うて北陸新幹線 笙鼓七波
春北風形骸あらばとばさるゝ 笙鼓七波
初蝶や己の影にたぢろぎぬ 笙鼓七波
投函の度に見上ぐる櫻かな 笙鼓七波
三月の別離や希望もて首途す 笙鼓七波
黄水仙女の髪と揺れにけり 笙鼓七波
春分や居眠り爺の赤ら顔 笙鼓七波
丹田に力入らず山笑ふ 笙鼓七波
都々逸も端唄もありて春の興 笙鼓七波
山麓の午のまどろみ猫の目草 笙鼓七波
穴出でし蛇の屈伸してをれり 笙鼓七波
劇団の公演北へ雲に鳥 笙鼓七波
俳聖と何交はしたか春の夢 笙鼓七波
河風の光を影に春障子 笙鼓七波
蕗味噌や妣の領分踏み込めず 笙鼓七波
海おぼろ見知らぬ母と父と母 笙鼓七波
春の雪言葉の呪縛解けてをり 笙鼓七波
春の雨電車の女凭れ来る 笙鼓七波
春ならひ躰に感謝足りないか 笙鼓七波
きさらぎの裾で拭へる涕かな 笙鼓七波
如月や涕脆なることのあり 笙鼓七波
啓蟄や枕頭の書を繙きぬ 笙鼓七波
悲しみのありてミモザの咲きにけり 笙鼓七波
ジャズレビューせし少年や木の芽風 笙鼓七波
ミステリの最初に死体朧の夜 笙鼓七波
ふつふつと擡ぐる想ひ草萌ゆる 笙鼓七波
春宵やムーランルージュの灯ともり 笙鼓七波
淡月を捉えし雲の濃かりけり 笙鼓七波
撓りては風の残像猫柳 笙鼓七波
駒返る草漆黒に髪を染む 笙鼓七波
囁きがいつか主張に雪割草 笙鼓七波
二ン月の雪を擦り抜く童かな 笙鼓七波
それそこに山茱萸雨にけぶりたり 笙鼓七波
羊歯萌ゆや旅人しばし転寝す 笙鼓七波
山麓の女寄越せし水掛菜 笙鼓七波
眠たげな空の色なりいぬふぐり 笙鼓七波
古草や雇用延長てふ輩 笙鼓七波
かたかごの花やレーニの少女めく 笙鼓七波
白旗の鬼の忘れし節分草 笙鼓七波
鮮やかに禮を尽くして迎春花 笙鼓七波
牡丹の芽ぴんと張りたる気の丹色 笙鼓七波
榛の花枝葉末節忘れをり 笙鼓七波
かぎりなく白き日蔭の松雪草 笙鼓七波
紅梅の海に漂ふ吐息かな 笙鼓七波
密やかに鋭き薔薇の芽立ちたり 笙鼓七波
蕗味噌のむすび買ひけり母のなく 笙鼓七波
その話未だに練れず蕨餅 笙鼓七波
ポケットの穴に指さす遅春かな 笙鼓七波
妻の掌にころがされをり鶯餅 笙鼓七波
保元の乱に先祖が末黒葦 笙鼓七波
吾が姓の名の地を訪ふや冴えかへる 笙鼓七波
福豆の数増えいよゝ食べ倦む 笙鼓七波
バッハよりヘンデルが好き寒造 笙鼓七波
逢引の番傘にゐる雪の人 笙鼓七波
句の成るを願うて独り梅探る 笙鼓七波
神の世の愛は激しき御神渡 笙鼓七波
蠟梅の余白染めたる香りかな 笙鼓七波
そしてまた凍蝶ひとつ魂となり 笙鼓七波
池底より泥撥ね上げて寒の鯉 笙鼓七波
寒鯉と思しきまゝに沈みけり 笙鼓七波
二組の親子で交はす雪見酒 笙鼓七波
雪達磨黒き泪が流れ出す 笙鼓七波
ゴーグルを外しふつうの人となる 笙鼓七波
極寒といふ人生の罰ゲーム 笙鼓七波
シャッターの開くを忘れし雁木かな 笙鼓七波
戛(かつ)と割れすくと黄身立つ寒卵 笙鼓七波
魂を覗かれまいと伊達マスク 笙鼓七波
喘ぎきて香りたなびく室の花 笙鼓七波
白無垢のしまきの中に雪女 笙鼓七波
逢うたのが間違ひなんや冬薔薇 笙鼓七波
冬麗大黒さんは佛蘭西人 笙鼓七波
侘助の闇に佇む気品かな 笙鼓七波
何はあれ寒九の水のありがたや 笙鼓七波
あの人の俤残し冬ざくら 笙鼓七波
丑紅や濃き唇の笑ひをり 笙鼓七波
寒晴やUFO正体CIA 笙鼓七波
眠る猫被るが如く山の在り 笙鼓七波
道着より湯気ののぼりし寒稽古 笙鼓七波
何故嫁かぬその気になれぬ木守柿 笙鼓七波
寒月下主亡くした猫の影 笙鼓七波
音消えて浪の花だけ舞つてゐる 笙鼓七波
風花を魂の浄化のはじめとす 笙鼓七波
婆抜きの婆が手元に雪しぐれ 笙鼓七波
犬と人初日の中に納まれり 笙鼓七波
元日の下町ことば弾みけり 笙鼓七波
年いよゝ風に吹かれて改まる 笙鼓七波
逝く年や愉快不愉快綯交ぜに 笙鼓七波
小晦日今なほこゝろ旅にあり 笙鼓七波
雪月夜静かに樹液昇りけり 笙鼓七波
対話せし樹液の流れ冬木立 笙鼓七波
前に立つ女嚏の男前 笙鼓七波
クリスマスフラワーの緋に輸血する 笙鼓七波
夜を紡ぎ星の宿りし冬至梅 笙鼓七波
浮かるゝや戯けの色の藪柑子 笙鼓七波 季節の花 300
煤逃やちよつとばかりを四次元へ 笙鼓七波
鴨川の風を感じて蕪蒸 笙鼓七波
知恵の輪の外れぬまゝや枯葎 笙鼓七波
冬いちご森の出口はまだ遠く 笙鼓七波
遅々として進まぬ団交桜鍋 笙鼓七波
ころころと代はる党首や根深汁 笙鼓七波
みんなみの涯や北風吹きだまり 笙鼓七波
木霊らのさゝめきあへる冬木立 笙鼓七波
さり気なくやがて一気に年暮るゝ 笙鼓七波
鳥葬のあとに風葬枯蓮 笙鼓七波
枯蓮の狭間に広ごる沼と空 笙鼓七波
裸木の骨格まぶし風でたぞ 笙鼓七波
木霊ゐるゐないのもゐる冬木立 笙鼓七波
先生のこゝろそれから漱石忌 笙鼓七波
寒北斗七つの転を起こすとき 笙鼓七波
難解な話に挿絵小春凪 笙鼓七波
黒門はてつちりうまき市場かな 笙鼓七波
マフラーの端をもらひて巻いてみる 笙鼓七波
今日のみは羅漢の貌の凍てつけり 笙鼓七波
手焙や話ころがる出番まで 笙鼓七波
よく笑ふ妻のコートの怒り肩 笙鼓七波
おでん食ふ黒はんぺんのしなり食ふ笙鼓七波
筋肉の落ちし両腕古ジャケツ 笙鼓七波