▶安良城 京 ▶稲名慶子 |
深々と合掌なれり初詣 丸き背の祖母の姿や干菜風呂
三椏の満開となる佳き日かな 初富士の裏と言はれて背伸びする
見ごろとふ冬牡丹園笛太鼓 御降りや暦どほりの米どころ
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
末の児の巧く使ひし祝箸 洗面器パリンと割れる薄氷
年初め見なれし道の清々し 寒月にイルミネーション夜の宴
新暦世の安泰を願ひ開け 芒野にバリバリの風吹き荒ぶ
▶久下洋子 ▶グライセン |
数の子の味付け旨し孫は無し 富士大山淑気あふるるツーショット
大寒やじんじん募る山の肩 夕星は心の支へ冬ごもり
廻りたるスカイラウンジ冬の月 賀状受け集配人の背を送る
▶齋藤昭司 ▶純 平 |
出雲社や押し潰すごと注連飾 数へ日や風呂掃除終へ小休止
七草の名妻に問ひつつ粥を喰べ それぞれの居場所で根付く福寿草
初夢を乗せる舟折る孫の数 もう一つやりたきことは初夢で
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
すれ違ふ横断歩道の御慶かな 黒猫のもぐるこたつで賀状書き
唇の厚き秘仏や煤払 元旦や今年の暮もすぐに来る
お茶会の炭熾りくる淑気かな 初雪や重たく積んで我包め
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
一句添へ師より賜る年賀状 初富士と鉄塔の綾今北斎
書初の飛翔の朱文字弾みをり 踏み込めば地下神殿の霜崩れ
文字ゆるる賀状に重さありにけり 年玉やシリアの子へと募る箱
▶角田美智 ▶永岡和子 |
寒暁や空に抱かるゝ白き月 老いの愚痴全てはき出し寒牡丹
かすかなる音して椿落ちにけり 年新たリセットをして羽ばたきぬ
あれこれの心残りや去年今年 出初式レンズの中に息を吞む
▶永嶋隆英 ▶中条美知江 |
かう・カウ・幸(かう)今日は好かれり初鴉 初富士やスカイツリーと並べ見る
磴道の光陰ながき冬日かな 老木の白梅ひとつ香りくる
獅子頭めぐり巡りて千鳥足 凍空や踏切過ぎる終電車
▶中村一声 ▶中村達郎 |
大地裂き小さく叫ぶ福寿草 居酒屋に寒さ纏ひて友来る
幼稚園サンタになりし傘寿かな 冬の暮ぽつりとひとつ路地灯り
冬の闇やがて地球が後を追ひ 微笑みに微笑み返す大旦
▶西川ナミ子 ▶増田雅子 |
騒めきの一つとなるや初参 初春や赤児の笑みに福来る
二つ三つ入れて二人の七日粥 四年生おはやうの声天高し
重箱の居住まひ乱れ三日かな 満月や船に揺られて香港島
▶森田 風 ▶山口律子 |
めでたさの一つ増すなり紅ちよろぎ 風花の洗濯物へふんはりと
雪しまき街の中行く赤き傘 正月や夢を肴に向き合へり
鮟鱇鍋箸のからめる夜更けかな 晴れやかな妊婦となりて息白し
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
初日享く堅魚木(かつおぎ)屋根の神神し 蒼天や起重機の伸び初仕事
淑気満つとり年の空澄み渡る 頰おさへ母に重なる初鏡
年明けの厨は依然未解放 旧友のにぎはふポスト年賀状
▶山田泰子 ▶山平静子 |
初春の花園神社父母慕ひ 初鴉背のびひとつの大欠伸
新年の願ひは一つ健の文字 大寒やマッハ六なるレールガン
新春の力作集ふ写真展 初夢やケーブルカーの宇宙線
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
カエサルの冬のローマや紅の朝 移りゆく今日の尊き淑気満つ
冬の海地よりしみ出づサンマルコ 清浄な御魂で拝む初日出づ
城壁にダヴィンチの翳冬の月 何げなき家族の愛や歌かるた
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
芭蕉忌の見返り像や笠光る 寒木瓜の風に耐へたる紅の色
走り根の地の叫び声枯木道 風吹きて銀杏散りたる中に居り
冬桜五指に余るも心引く 主なき庭に山茶花咲き満てり
▶稲名慶子 ▶江川信恵 |
四季咲きの冬の桜となりたきに 風窓を震はす夜や大根煮る
すぐ冷むるお茶を注ぎ足す秋の暮 蜜柑剝く手に移り香や雨の夜
楕円描き芝生に踊る散紅葉 天日干し時との勝負昆布うまし
▶笠原しのぶ ▶久下洋子 |
寒風に急ぎ白菜巻きにけり 猿と人柚子湯浸りて夢うつつ
早々の雪と共にと消えゆくを 来し方を思ひ巡らせ年暮るる
時雨るるや俯きながら家路急く 初雪や野沢に立ちし湯のけむり
▶グライセン ▶齋藤昭司 |
グラスハープ冬満月に届けたし 故郷の母孤に耐へて落葉焚く
白鳥やしぶきを飛ばし着地せり 花柊白し慎まし香の淡し
寒紅をくつきりさして背筋伸ぶ 色のなき咳ひとつして山眠る
▶純 平 ▶鈴木えり |
行く年は足早に来る年そこに 息ひとつ吐いて見上ぐるオリオン座
談笑のベンチの二人柿落葉 女子会の花より団子の紅葉狩り
散歩路の落葉掃く人有難し 庭の木の微かに揺れて春を待つ
▶高橋小夜 ▶竹酔月依満 |
陽のにほひ木の実小箱にあふれけり 寒き夜や馴染みの店の早じまひ
落葉してしかと命をあづけけり 幾筋に水尾の残りて鴨の陣
短日やはや針穴の見えざりき 同窓会弾む会話の暮早し
▶田中奈々 ▶角田美智 |
焼芋やねつとりほつこりとりかへこ 落葉して浅間の近き山の家
冬晴れの遠き山脈故山在り 枯菊の切りし残り香惜しみけり
妖精(フェアリー)の棲みし影絵の木々の冬 枯蟷螂眼のみ生きたり草の蔭
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
為す事の多き昨今暮早し 秋空の鳶の高みのとどかざり
万象を包むがごとき凍る滝 スーパームーン熟柿一つを包みをり
気ままなる日々の営み寒波来る 煙たつ麓ひとつ家竹の春
▶中条美知江 ▶中村一声 |
並びたる福良雀の毛繕ひ 半畳の千枚田たち能登に稲穂
紫紺なる常念岳や冬の空 菊つくり独り住まひに華のあり
安曇野や山に朝霧渡りたり 台ヶ岳夕芒降る童二人
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
初雪を傘に載せつつ歩む路地 残照に浮かぶ山並暮早し
艶やかな柿のたわわな蔵の町 ほろ酔ひの足下白し冬の月
いつからか金木犀の香の路地へ 大なるをどかつと一つ柚子湯かな
▶森田 風 ▶山口律子 |
一枚の重き暦や十二月 白鳥の首しなやかに着水す
駐輪の向き整然と冬はじめ 冬空や水底貼りつく色の鯉
米研ぎし音のそぞろや年の暮 餅つきや掛け声合せ園児の輪
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
大いなるスーパームーンの見え隠れ 歩が緩む小春日和や昼下がり
桐一葉乗りたる命この齢 行列や福引待ちし子の背伸び
蔦屋敷の今 蔦紅葉鬱陶しさも芸術や 箒目に音なく風なく木の葉散る
▶山田泰子 ▶山平静子 |
木枯しやブラスバンドの子の行進 死にたれば地に化するなり枯落葉
歳重ぬる女将の手際冬の宿 初雪や棹のシャツの畏縮たる
歌声の余韻の色香冬の星 師走風にじわじわ押されあと一歩
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
風の神やがて身に入む夜寒かな 芝そりや歓喜の声の響きをり
白鷺の池の一滴冬至かな 久闊を叙して誉め合ふ冬ぬくし
ミラボー橋言葉忘るゝ冬の夜 終活の手放す着物年惜しむ
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
秋の蚊の余命なりしや生かされず 香りたつ中国蘭に吸ひ込まれ
胸襟の潤む瞳の秋の声 乱れつつ虫の音細く細くなり
一匙の蜜にありしや咳一つ 友逝きて紅葉の山に対面す
▶稲名慶子 ▶江川信恵 |
身にしむや血圧計に噂あり 名水を汲むや背中に栗落ちぬ
幼虫の命あたたか落葉焚 津波来て川溯る秋の朝
柿に種ないと言ひし子母となる 黄落や家路探すかはなれ犬
▶笠原しのぶ ▶加藤三恵 |
ひそひそとささやく様は貴船菊 後戻り出来ぬ齢や秋深し
朝焼けや萬の神も黄金色 小春日や側溝より湯気立ち昇る
晩秋の無垢な風なり雨上がり 立冬の水の重さよ傘寿過ぎ
▶久下洋子 ▶グライセン |
床の間の山茶花華やぐ点前かな 透けゆくや酸漿の実の艶残し
今朝の冬窓濁り発つ軽井沢 自治会のほど良き距離の運動会
初雪や旅のときめき心冷え 色変へぬ松芯の強さを貫けり
▶齋藤昭司 ▶純 平 |
藤袴枯れて合点の顔の皺 こほろぎと赤子鳴く泣く輪唱歌
コスモスを分け電車来る無人駅 松茸や色白美形カナダ産
粧へば女人であるか男体山 道端の栗拾ふ人無き世かな
▶鈴木えり ▶高橋小夜 |
文豪の最後の一葉思ひをり こだはりは敢へて聞かずに菊日和
秋の空ゴッホ・ゴーギャン思ひ寄せ 掬ふ手に音をはなれて秋の水
雨上り陽だまりの中布団干し 母の待つ大海めざし秋の川
▶高山芳子 ▶竹酔月依満 |
賀状出す人二人減り去年の如 ヴィヴァルディと熱き紅茶や今朝の冬
草抜けば蜘蛛の子散らす如き虫 被写体の裸婦小春日の紀信展
月冴えて鼻面ひやり猫座る 冬紅葉翡翠の湯船眩しけり
▶田中奈々 ▶角田美智 |
穭田の見渡す青の命惜し 夕茜雪化粧せし浅間立つ
両手副へココア飲むとき冬来り 山梔子の白際立ちて帰り花
桂散る小さきハートに香り添へ 落葉松や冬日透かして耀へり
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
久々に集ふ友垣冬座敷 ありがたや花野に雲の五色なる
掛大根三浦の浜の風しなり 近づくにいよいよ明かる実南天
卓ごとの籠の枯蔓峠茶屋 年ふるも悔いの多かりうろこ雲
▶中条美知江 ▶中村一声 |
青空に背伸びして捥ぐ林檎かな 小草の実その名を知らず見惚れけり
林檎狩り日なたで猫の毛繕ひ 蔦紅葉からむ墓石や真白き手
新蕎麦をとんとん切るや香りたつ 聴力を失ひ秋の色慕ふ
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
秋光や煌めく色の雲となり 芋煮会里の川辺の大看板
一筋の小川流るる萩の里 小春日や座るベンチの足下に
幼児の赤き靴干す小春日和 懐かしむエンドロールや石蕗の花
▶森田 風 ▶山口律子 |
あと二寸竿の先なる熟柿かな 深秋やほんとの空の安達太良山
火ともしの灯りて石蕗の花妖し 夕紅葉まぶしく染むる水面かな
山茶花の白き一輪部屋潜む 霧行けば声もかすまむ山の道
▶山﨑孝子 ▶山田詠子 |
松手入れ一枝余して暮れにけり 日溜まりや木の葉の舞を追ふ母子
菊日和姉さん被りの四姉妹 リズミカルにヒール遠のく秋夕焼
コスモスや耳に小さな銀の鈴 冬曉や新聞落とす音かすか
▶山田泰子 ▶山平静子 |
賑やかや子供の合戦雪の中 冬日差し部屋一杯の重さかな
佐渡小路沢蓋木の実秋深し 文化祭同輩のぬくもりに会ふ
広野には朱鷺の群れては食みにけり 重ね着に手足とられて日の暮るる
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
三日月の浮かぶはるかな青い海 移りゆく歳月数へ秋の暮
秋深し鳥たち歌ひ老いを知る 友去りき風につぶやく秋惜しむ
女伊達百物語十三夜 再会を約す友あり秋を曳く
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
馬鈴薯の百面相や勝負顔 秋茗荷香りを愛(めで)し妣ありき
秋空の掬ひ上げたる羽根の音 松虫草残りてひとつ夕日受く
映ろへる月天心の庭に降り 夜の萩こぼるゝ花の白きこと
▶稲名慶子 ▶江川信恵 |
小糠雨花火千発天遠し 秋雨や病院の夜の音も無し
稲刈るや四隅に在すにせ鴉 天高く梢の透き間広ごれり
薄紅葉弘前城は工事中 新米の炊き上がり待つ湯気の香よ
▶笠原しのぶ ▶加藤三恵 |
見つけたり秋雨濡れし四季桜 連綿と小さき命草の花
きらきらと少年野球天高し 信玄の隠し湯月の影乱る
長雨や何処吹く風の彼岸花 月光の下出で湯沸く古戦場
▶久下洋子 ▶グライセン |
枯葉踏む足の重たき音すなり 白槿一切の影拒むなり
秋立つや車窓流るるいろは坂 女郎花汝(な)の色風に含ませり
竹林の秩序破りし赤とんぼ 秋霖や茶筅に余る乱れ音
▶齋藤昭司 ▶純 平 |
病癒えし妻の長湯や夜の秋 名月や独り飲む酒貧ならず
山里は海見るごとし蕎麦の花 仲秋や解けし母は月の人
陽の射して木の間火と燃ゆ彼岸花 秋霖や洗濯物の吊りカーテン
▶鈴木えり ▶高橋小夜 |
秋の日のいろはうつりてまぼろしか 草の花ひたすら咲きてひと日なり
秋風や草木の色を移しゆく 日に飽きし破れ障子を洗ひけり
十五夜や昔ばなしの月あはれ 黒蝶のとまるそぶりや曼珠沙華
▶高山芳子 ▶竹酔月依満 |
秋風や髪ゆるくとめ佇つ少女 夕映のたわわなる柿長屋門
雷光ありて骨模型閃けり 無患子や彼方の記憶撥ぬる音
藤が枝や大蛇の如きねぐらもて 目鼻描き頰紅の林檎かな
▶田中奈々 ▶角田美智 |
美しき言の葉こぼす式部の実 来し方のあれこれ紡ぐ後の月
棉吹くや楸邨吟ぜしこの川辺 新涼や捨つべきものゝ多かりき
野分してみちのく山河荒びたり 満月を独り占めして寝ねにけり
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
ゑのこ草光る穂波の粒真珠 金色の響き一打つ秋風鈴
振り向けば我影長し秋の声 月おもふ母が縫ひものつづれさせ
寺巡り半ばに釣瓶落しかな 月明りここはちちろの国ならむ
▶中条美知江 ▶中村一声 |
風来り路地に広ごる木犀や 佛より痩せて咲きしや彼岸花
夕日浴ぶガラス細工のすゝきの穂 大切に秋を過ごせと逝きし母
あかあかと軒に干さるる唐辛子 秋風やひびの入りたる肉と骨
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
里帰り久闊叙する展墓かな 雲間より日の射し来り山の秋
夕端居二人のたわい無き話 旅の道尋ぬる人や秋の風
ほつれ髪色なき風に揺れてをり 順番待ちの長椅子や秋の声
▶森田 風 ▶山口律子 |
騒がしきヘリの編隊赤とんぼ 新米や美(は)しき文字の送り状
躓きし小石転がる秋うらら 秋一日うれし涙の力士かな
秋鯖や白き下ろしを添へて食み 欄干に臥せし四匹赤蜻蛉
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
配達の垣根伝ひに青あけび 木犀の落花踏みゆく夕間暮
葉の色にちよこんと座る青蛙 雨風に響く説法秋彼岸
木犀の花の闇より風まとふ 連れ無用そぞろ歩きの後の月
▶山田泰子 ▶山平静子 |
体育祭車椅子漕ぎパン銜へ 秋曉や考妣の声の耳にあり
天高し傘寿過ぎたる友訪ね さだまさしを聴きつつ秋の句の模索
寝姿の曲がり葱なりいつ立つや どたキャンならず忘らるる事の秋
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
暮れてなほわれとどまりて蟬しぐれ 静かさや絵筆染めたし秋夕焼
冬瓜や老いてなつかし父母の顔 産直の西瓜や名残り惜しみをり
熱き日や問はず語らず暮れにをり 誕生日親に感謝の芙蓉かな
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
誘惑の氷菓子なり心溶く 七年の時忽ちに熊蟬鳴く
片蔭や男もすなる立ち話 空蟬の二つ重なり風誘ふ
とんばうの翳り濃くせし群れなるを 雨止みて南部風鈴路地の奥
▶稲名慶子 ▶江川信恵 |
宿求め入り来る厨秋の蟬 秋出水又も災害もたらせり
無臭なる「バナナうんち」や天高し 秋蟬の遅く生まれて鳴きにけり
父知らず父は知らずや敗戦日 眩しきは割れし石榴の実の赤さ
▶笠原しのぶ ▶加藤三恵 |
朝露のひかり踏みつつ畑仕事 ビルの影伸びていてふの実の落つる
気がつけば今宵も響く夏の空 浜暮れて星のかけらの青き石
飛べぬままよろめく蟬を跨ぎ行く 老猫の天に去ぬ時月やさし
▶久下洋子 ▶グライセン |
秋雨や友のメールを待ちにをり 凌霄花勝手気ままの女なり
故郷や同窓集ひ墓参 青胡桃ボーイソプラノ声すなり
秋茄子の小粒のほどをいとほしむ 蟬骸乾びて散りし泪色
▶純 平 ▶鈴木えり |
ひとり居の五輪観戦秋の風 日本晴父と歩きし秋の道
吾子寝入る窓に届くや蟬の声 りんだうや過ぎ去りし日々思ひをり
戦災をぽつと語るや生身魂 りんだうやほうかはいいと父笑ふ
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
蓮の葉の夜露は銀の涙かな 蟠りぼんやり残る夏の夢
乗り越して下り立つ駅に涼新た 秋時雨庭通る猫しよぼしよぼと
流れ星闇をつらぬき胸に落つ 微笑めど気付かれぬ恋秋の蟬
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
衣被つるりと剥けて名古屋顔 道標に翅休ませて鬼やんま
八階まで遠さまよひて虫の声 追憶の空となりけり秋あかね
うす紅の甘酢生姜や雨催ひ 林檎より生れし志功の女人像
▶角田美智 ▶永岡和子 |
諏訪の湖花火の後の闇深し 秋の灯や週に三句を残さむと
紅芙蓉ひと日の栄華極めけり 謹呈の古本読みし秋彼岸
旧友と来し方語る花火の夜 曼珠沙華燃え上る日も雨ざんざ
▶永嶋隆英 ▶中村一声 |
葉書なれど残暑見舞に友のこゑ 八月やひと日ひと日の墓を建て
颱風の真つ逆さまに戻りけり 捩れ花捩れつ咲きて悩みけり
をさないの両手に余るゴーヤ―哉 銀やんま少年の日の秘密基地
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
梅干すや空を気にしつ妻の顔 百日紅幹に賢者の風情かな
耺方のアイス頬張る黒き肌 葬の日の郷に変はらぬ秋の声
会話にも溜め息まじる酷暑かな 畦白くざり蟹深く潜みけり
▶森田 風 ▶山口律子 |
街の声柔く紡ぎて秋彼岸 秋澄むや鉄棒の子のしなりたり
たをやかさ追ひつかなくて秋桜 黄金の面となりたる稲の秋
深呼吸胸に入りこむ今朝の秋 沢風の揺らす吊橋秋出水
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
夏草や引き手に余る根の意気地 カーテンの揺れ夢うつつ今朝の秋
蔓がへし藷の感触あるやうな 姑の針目の固き藍浴衣
昃るを侍してひたすら草を抜く 愚痴こぼし独り返事の墓参
▶山田泰子 ▶山平静子 |
夜すがらに虫の楽隊演奏会 台風過音無く残る銀の雨
雲間より満月連れし車窓かな 黄落や数多の刻のスクリーン
幾許か月へ願へる夕べかな 黄落をくぐれば異次元開くなり
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
冬瓜や老いてなつかし父母の顔 産直の西瓜や名残り惜しみをり
熱き日や問はず語らず暮れにをり 誕生日親に感謝の芙蓉かな
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
列なして旅の身空の夏祓 懐かしや尾瀬の池塘の風青し
秋澄むや新人戦の心技体 夏休み祖父母連れ出しランドセル
おおまかな男料理や妻帰省 月見草ゆるりと咲きし白き花
▶稲名慶子 ▶江川信恵 |
帚木や赤き色なる風選ぶ 花火果てせつなき静寂拡ごれり
梅干のおにぎり二つ空の人 夕暮や恥ぢらひ立つか酔芙蓉
陽光や酸性泉の苔青し 猛烈な雷雨車窓を攻撃す
▶笠原しのぶ ▶加藤三恵 |
夏旺ん一片の影にたどり行く ぬるき風プラスチックの団扇かな
実の早く赤くなれよと大暑かな 髪切つて祈り捧ぐる敗戦忌
喰ふほどに腹の突き出る西瓜かな きのこ雲しばし聞こえぬ蟬しぐれ
▶久下洋子 ▶グライセン |
夏痩せて指輪ぐるぐる居座れり カラフルなレースフリルの浴衣の子
空青し涙目に染む広島忌 空蟬を並べ自慢のはしやぐ声
ミシュランガイドの店に駆け込む日陰にと 夏草や家畜に喰はれ映ゆる艶
▶純 平 ▶高橋小夜 |
夏風邪や安楽椅子で寝るが仕事 風止みて影を嵌め込む夏木立
布袋腹ぽんと叩きて胡瓜喰ふ 心臓を燃やし溶かして油蟬
夏休み親子ではまるポケモンGO 捕虫網知りつくしたる森の奥
▶高山芳子 ▶竹酔月依満 |
轟々と夜間飛行や夏の夢 一瞬の変化切り撮り秋夕焼
浮世絵の江戸の驟雨や今の世も 秋涼し熱き五輪の捻り技
冷房も程良く苦吟程もよし 遠花火スカイツリーと競演す
▶田中奈々 ▶角田美智 |
群なしてたそがれとんぼ農の庭 遠花火七日の月は中空に
冬瓜をどかつと置くや厨口 折鶴は語らずともや原爆忌
白鷺の佇むドーム爆心地 夕すげや思ひ出すことみな美し
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
垣根越し集く鈴虫酒二合 竹飾り欲の多きを項垂るる
洞となる欅に座すや地蔵盆 ビル風や一路の茂り騒がしき
風雨去り時愛しむごと秋の蟬 急がねば鮨の食へぬぞバイキング
▶中村一声 ▶中村達郎 |
象潟や合歓の花めす芭蕉像 釣糸のぐいつと沈む夏の海
真つすぐと芝の吸込む沙羅の花 二人静また戻りなむ里山路
鳥海の裾野は海へ旬の岩牡蠣 友垣の四方山話七変化
▶西川ナミ子 ▶森田 風 |
二階まで小梨たわわや山の宿 水溜り中に夏雲隠し居り
目覚めゆく水面や霧の薄衣 声和して真つ只中や蟬時雨
若僧の声朗朗と盂蘭盆会 工事夫に日陰貸したし三尺度
▶山口律子 ▶山下文菖 |
夏草の猛りて廃家沈めをり 西瓜切るみな大胆にかぶりつき
地獄かな子の夏休みまだ半ば もう切るか西瓜の熟れを待ちこがる
託されし鳩の放たる原爆忌 梅雨明けの天にくぐもる日雷
▶山田詠子 ▶山田泰子 |
若き日の母の背を追ふ昼寝覚 蟬しぐれ謙信の聖霊(しやうりやう)静かなり
形良し艶良し疾し茄子の馬 幾年の生命咲きをり蓮の花
皮剥くや双手に香る桃の蜜 蓮の香に包まれ歩む朝の径
▶山平静子 ▶渡辺克己 |
落蟬や口を結びて震へをり 夢昔わが世ふりゆく蟬しぐれ
棚経や供華の鮮やぎ気揺蕩ふ 翡翠去るカメラマン独り居れり
ゴビ砂漠葡萄畑へ繋ぐ風 枕辺の去年の句集の白きこと
▶渡辺眞希 |
恒例の恵みもたらす観蓮会
小さき身に眠気堪ふる祭かな
玫瑰や列車を待つか旅半ば
2016年7月句会より
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
新しき事始む日や小暑なり 雨上り白より白き半夏生
玉ねぎの煌めく白の水に在り 半夏生出店の野菜買ひにけり
蓮池や風待ち受くる月の松 薔薇の香のソフトクリームはひふへほ
▶稲名慶子 ▶江川信恵 |
千枚田またぎて田草取るあした 黒揚羽同じ時刻に狭庭かな
黒南風や塩田作業明日を待つ 音消えて街中重し油照
眼下に空ある機中や夏の雲 風鈴のかすかな音に風を知る
▶笠原しのぶ ▶加藤三恵 |
庭園の菖蒲の枯れて足かゆし 荒梅雨や瞬時に還る七十年
路地の窓風の運べる紫蘇の香や 波を追ふ少女の素足波が追ひ
水田の雲を揺らすや青嵐 梅雨しとゞ足の欠けたる菩薩かな
▶久下洋子 ▶グライセン |
梅雨空の嬉し悲しや旅の空 睡蓮のぽつりぽつりや水の庭
炎天の宮島臨み船揺るる 立葵花壇の中の水戸黄門
七夕や女神微笑む時待ちて 梅雨じめりつまむナッツの音軽し
▶純 平 ▶高橋小夜 |
こもれびに光る十薬新種たれ どきりとす虹のかかりて言ひしこと
あの頃をゆるりと語る蝸牛 心太つきて渦潮巻きおこり
名札つけ隊列よしの花菖蒲 直線もありなんです螢の火
▶高山芳子 ▶竹酔月依満 |
おろおろと涼しき処探す三毛 ダンベルの拳唸るや大夕立
白装束暑気の隙なし若宮司 浮き人形夕かげ淡き鉢の中
夏早朝幕間の如庭気配無 紅燃えて美女となりけりサングラス
▶田中奈々 ▶角田美智 |
七変化行きつ戻りつ箱根山 螢狩り流星の中にある如し
髪洗ふ閃き消ゆるあの一句 緑蔭や草引きの汗すと引きぬ
出女の関所遠ざけ山法師 月閉ざし俄に来る雲間かな
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
とろとろの今日の甘酒夫好み 青蜥蜴ひとみの濡れて生めきぬ
樟若葉両手拡げて傘となる 是非もなし懐軽き梅雨の寒
腰病むやアロマセラピーなりし百合 ペンキ工刷毛の返しや油照
▶中村一声 ▶中村達郎 |
木下闇お話の精棲みにけり 今年また燕来たよと母の声
被爆樹やいのちひきつぎ大緑蔭 吾が行く先を夏雲先に行き
野佛や路地に捩花侍りをり 路地裏の先に四葩の盛りかな
▶西川ナミ子 ▶森田 風 |
初蟬の午後を短く切りさきぬ 兜する汗の重さやビル工事
梅雨寒の部屋灯明の薄明り 洗濯機音の鈍さや梅雨曇り
静もるる碧き水面や梅雨しとど ビル谷間ほろ酔ひのぞく夏の月
▶山口律子 ▶山田詠子 |
大緑蔭果てなく続く上高地 緑蔭に入りて衿元風通す
頭から食ひ尽くしたる岩魚かな 硝子鉢独り昼餉の冷奴
夏山や日照雨のありて人ごころ 願ひ事ひしめく夜空星祭
▶山田泰子 ▶山平静子 |
世を憂ひ涙あふるる蓮の葉や 小さきなる守宮の廊下走りゆく
蓮の花四度咲き返し今散りぬ 独り占め真夏の曉の蒼穹を
蓮の葉にサラダ盛りたし夕餉かな 獨りなり麦酒片手の思考かな
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
天の川遠き日のままわれ独り 境内の紫陽花競ふ今日(けふ)の色
梅雨寒し鉢に籠れる小宇宙 雲海を呼びおこしたし城跡に
薔薇匂ふあたりに残る色香かな 雨に咲く古木ゆかしき四葩かな
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
完成の道を照らせし夏の月 薄明り螢袋の白ひとつ
夏兆す天空廻廊ビルと海 戸隠の歴史漂ふ夏木立
濃紫の宝石てふや花菖蒲 そよぐ風林をぬけて山法師
▶稲名慶子 ▶江川信恵 |
脱げし靴手に持て五着土暑し 立葵姿勢の良さを競ひあひ
夏掛の干され暴力全開に 艶やかなさくらんぼかな幼子握る
噴水やメタセコイアのへそあたり 願はくば雨乞ひしたしダムの上
▶笠原しのぶ ▶加藤三恵 |
湯屋に聴く鶯のこゑがんばれと 手作りの足ぢや作れぬ柏餅
今年こそ満開だぞとさつき咲く 深入りをやめればするり冷素麺
五月晴花束届き気づく歳 菜種梅雨ガイドの言葉重々し
▶久下洋子 ▶グライセン |
屏風ヶ浦行路の潮の匂ひ立つ 目の前をすつと切り取る燕かな
いにしへの石碑飛び交ふ夏の蝶 薔薇の香や録画叶はぬことなれり
蕨宿蔭りて四葩隅に咲き 紫陽花や車椅子置き歩みなむ
▶純 平 ▶高橋小夜 |
五月雨や傘かしげ合ふ路地の人 時鳥光の朝をわがものに
緑さす石仏笑ふ野辺の道 掘立ての筍重き道の駅
子の歓声あふるる広場五月晴 ふりむけば色とりどりの余花の山
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
紫陽花や彩添へし傘の花 夏めきぬ淡水パールの乱反射
母痴るや庭の実梅の落ちゐたり 筑波嶺の雨の明るさ栗の花
校庭のはしやぐ子の声更衣 捩花や遠回りせしこの小径
▶角田美智 ▶永岡和子 |
一日終へ身をいとほしむ涼夜かな 駅前のNOVAの四字の走馬灯
谷覆ひ藤咲き盛る山路かな カメラ手に抱へきれない夏蕨
紫陽花の藍深めてや雨過ぐる 新婚の床に花茣蓙くつろげり
▶永嶋隆英 ▶中村一声 |
鎌倉の鳩はひかまじ白菖蒲 桜舞ひ今日の形見となりにけり
山おるる風を孕みて鯉幟 花筏今日の平和を乗せてゆく
鈴生りの御仏おはす新樹光 はつとせり紫陽花の顔雨しとど
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
明易し夢の中まで千鳥足 新緑の山路行く背に子の寝顔
小つぼみの紫陽花芽吹く朝かな バス停を覆ひつくせし春の蟬
ビル解体夏空ぐいと迫りくる 木洩れ日を揺らす水辺や九輪草
▶森田 風 ▶山口律子 |
幼子の涙落つるや四葩揺れ わが泳ぎつひに進級甲斐のあり
諸々の胡散臭さや青葉満つ 梅雨湿り安否案ずる電話かな
青梅の葉に隠れゐる丸さかな 初節句思ひのままに生きてみよ
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
一瀑の天より覆ふ原始林 廃業の店の提灯つばめの子
天清和ゴンドラつなぐ峰と峰 冷さうめん味濃き母の遠忌かな
せり出しのガラスデッキや夏の川 七輪の貝にひと味夏の風
▶山田泰子 ▶山平静子 |
九輪草咲き広がりて神の庭 夏天下を航跡波のシート斬る
夏萩へ摂理の風の吹きにけり 蟻んこや化粧をせずに只生きる
春上野花子に逢ひし幼き日 女体山男体山へ虹懸ける
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
魯山人備前あやめに盛る宇宙 夏兆す街の喧騒忘らるる
ことごとく散るや心の花の風 亡き父と訪ねて見たき薔薇の園
武蔵野の屏風に匂ふおぼろ月 手を引きて菖蒲田巡る老二人
2016年5月句会より
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
囀りのお持て成し受く峠越ゆ 柔らかな白き芍薬威厳あり
外つ国へ子孫の増えて花水木 五加木飯鷹山のことあれこれと
幸せの感度高まる麦の秋 五月晴花冠を幼子に
▶稲名慶子 ▶江川信恵 |
「句の種は残すように」と草むしり 薫風に大群なして魚の行く
沖縄の空の重きよもづく舟 幼子と小犬戯れあふ草若葉
山葵沢ハリスの宿の横流る 草萌の日に日賑はふ土柔し
▶笠原しのぶ ▶加藤三恵 |
安達太良や白きケープに桜染め 春逝くや往きて還らぬ川の水
田植女の弁財天に似たお顔 蜜豆や明日を占ふ豆の数
新緑や飛行機雲を浮かべをり 朝の卓曲り胡瓜をあるがまゝ
▶久下洋子 ▶グライセン |
靴擦れて日傘持ち替へ足庇ふ 花散らす篠突く雨や白き朝
吹上の田植整ふ奉仕団 水したたる翡翠の嘴の煌けり
つつじ燃ゆ酔ふほどに胸ときめかせ チューリップ水面をそつと滲ませむ
▶純 平 ▶高橋小夜 |
つばくらめ巣作りしつつガールハント 川渡る風を孕みて鯉幟
夕長しもう一足の旅路かな 夜桜や空より鬼女のふりかざす
春北風の尻尾をつかみ空を舞ふ 春の山笑ひおしとめ崩れけり
▶高山芳子 ▶竹酔月依満 |
更衣帯後ろ手にゆかぬ知り 古民家に新緑宿り黒き屋根
子雀や思はぬ方へ風にのり 仏画描く墨の香りや青葉風
黒南風や分厚き原を薙ぎ倒し カーネーションデコメで届き新世代
▶田中奈々 ▶角田美智 |
言ひ継ぎてアンネの薔薇を咲かせ継ぎ 石塀に守宮動かず風過ぐる
花蕊のいたいけな粒青蜜柑 辰雄忌や旧居静けく風の中
黒緋(くろあけ)の牡丹の花の声妖し アカシアの咲き続く先赤城見ゆ
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
園庭の出入りは自由つばくらめ 葬列のきえて前山初音かな
神宮を仰ぐ賓客若葉風 日輪に砕くる鳶や山ざくら
蒼天の隅々渡る花柚の香 四月尽かべのグラフの汚れざり
▶中村一声 ▶中村達郎 |
聖五月田圃の暦始まれり 花散るや珈琲香る寺の町
櫻湯の円居旧知の顔と顔 縄文の春を伝へし遺跡かな
一天に鯉幟立つ富士裾野 古民家の三和土に花の二三片
▶西川ナミ子 ▶森田 風 |
友よりのリラの一枝旅心 もう一品こんもり盛るや新キャベツ
陽の当たる峰に際立つ若緑 夏初め友に便りの新切手
今日の日は器選びて新茶かな キャンパスに若き問答夏光る
▶山口律子 ▶山下文菖 |
牛蛙とどろくほどの声音かな 中庭の日差しくまなく黄たんぽぽ
山藤の咲き揃ひたり父の墓 うぐひすの声やほかなるさへづり制す
ひとつ生えあつといふ間の茗荷畑 手を休め身を敧てて初音かな
▶山田詠子 ▶山田泰子 |
亡き母の手捏ねの味や柏餅 渡良瀬の山滴りて鳥の鳴く
蒼穹や胸いつぱいの若葉風 余花吹雪汽車待つ駅の夢心地
一日終へ蹴あげて軽き夏蒲団 岩間より山つゝじ燃え足尾溪
▶山平静子 ▶渡辺克己 |
巡りくる五月の息吹橋寿なり 亡き人を恋ひ萌え出づる花の雪
春日やベッドに在りて踏みしむる 一坏の春の涙と一周忌
駘蕩や媼二人の杖軽し 十六夜の恋の心や稲瀬川
▶渡辺眞希 |
生老の時のささめき藤の房
つつじ燃ゆ人それぞれの声聞ゆ
晩春や静寂の句碑に歩み寄る
▶安良城 京 ▶稲名慶子 |
車窓より眺むパノラマ夕桜 冴返る壊れかけたるオルゴール
西行の心聴きたし花吹雪 白に白ゆつくり床に就く梅や
ラケットに部活の夢や新学期 トシトシと心音打つや涅槃西風
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
花吹雪白波見えし砂の海 椿落ちめぐる季節や音もなく
筍の少しの蘞み旬の味 花吹雪大きな口で受けようか
古民家のガラスに映る花吹雪 幼子はいつか桜と旅立ちぬ
▶加藤三恵 ▶久下洋子 |
日の本の神狂乱す春の地震 流れゆく車窓の景色花水木
ひとつ知りふたつ忘れて春のどか 夏みかん割るや眉間に皺寄せて
花の宴果てれば虚しぬるき風 木瓜の花鮮やぎ染むる山の道
▶グライセン ▶純 平 |
糸桜黒衣背にして彩(いろ)放つ 囀りや待機児童の溢れをり
春の陽は素足に注ぐお灸かな 震災の標柱囲む菜の花や
雪柳定まりの無き視空間 閏日をゆるりのたりと大朝寝
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
石塀に飛びのりそこね恋の猫 沈丁花三軒先の近きかな
菜の花や丘おしあげて咲きうねり たんぽぽやぽぽぽきれいと児は笑顔
ふれば鳴る命めざめし種袋 草原にさざ波たてて風薫る
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
春の夜やジムの帰りのほてり顔 花の奥花のぞかせて花を盛る
花吹雪ひとひら句帳にしのばせん 昼寝せし黒猫の背に花の散る
我もまた煙るがごとし春の月 うららけし釣り人の浮き動かざる
▶角田美智 ▶永岡和子 |
花明り逝きし人々懐かしき 朱塗門覆ふ老木花万朶
行く春や空き家に花を咲き継がせ 乃木坂や甘茶接待授かれり
芽吹き初む大樹は生気放ち居り 淡々と記念日祝ふ木の芽和へ
▶永嶋隆英 ▶中村一声 |
春驟雨三和土に真白スニーカー 佛壇の古雛幾世送りしや
電飾緊縛無残也花水木 冬の蝶たどりつきたる石畳
麗かやきりきり落つる鳶の狩 春めきて芽と眼が引きあふこの一朝
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
乳飲み子の髪を撫でたる春の風 目の端へ軌跡残して初つばめ
のどけしや駄句を連ねて五七五 撓だれし今朝の姿や紫木蓮
颯爽とオープンカーの耕耘機 卒業や体力と記す店じまひ
▶森田 風 ▶山口律子 |
菜の花やキャンバスに黄の弾けをり 春雨やものみな撫づるかのごとし
白皿に紅の染めたる桜餅 つくしんぼ郷の小道の甦へり
花の街長き貨車行く日中かな 校庭の花の吹雪や大舞台
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
台所居場所となして花菜咲く 惜春や招かざる客肥後の揺れ
蝶出でてあやふき翅の動きかな 風に乗り売り来る灯油寒戻り
裏木戸に溶けて残りし雪まだら 小枝もて鴉巣づくり雨の中
▶山田泰子 ▶山平静子 |
招き入れ縁触れ合うて糸桜 長閑なり夜具打つ音の一直線
精霊の宿る大樹の桜かな 暖けき厨房の中うろうろと
満開の花の舞台や八幡宮 すつと来し光一筋春の蜘蛛
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
甘苦きマーマレードや春の月 静寂の古刹に舞ひし桜かな
あたら夜の袖に流るる花の雪 被災の地ひたすら祈る春の海
いざ酌まむ散りぬる花の心まで さりげなく肩を寄せ合ふ夕桜
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
記念樹の芽吹き始むや雨の彩(いろ) 英霊の眠る九段や梅白し
行列の人となりをり花日和 香りのせとしどし届く桜餅
たつぷりと春陽浴びつ肩並ぶ 日脚来て雛の眼元の柔らげり
▶稲名慶子 ▶井上ひさを |
願成就院にて 茶々丸の消せぬ罪あり紅馬酔木 ほろ酔ひの如く開花の五六輪
香ること忘れ河津の花の雲 漢字より平仮名が好きさくらさう
春嶺の寝息ひねもすふうはふは 木屋町を姉三六角春の風
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
春の野に開く折詰紙の音 山うらら光かぶせて薄緑
江戸城の石垣にある大火跡 啓蟄や我もそろそろ這ひ出るか
大奥の跡の広さや風光る 早春の光をまとひ晴れ姿
▶加藤三恵 ▶久下洋子 |
迷ひ猫探すポスター春の雨 カラオケの部屋騒がしき春休み
鳥帰る何処の國も乱の中 雛祭歌流るるに瞳閉づ
時刻む音高くなり彼岸過 桜の樹猫と見上ぐる莟かな
▶グライセン ▶純 平 |
待雪草の滴鏡に化粧(けはひ)かな 陽炎や宇宙の闇の重力波
春満月真裏探りて新世界 春の雪心残りのケーキめく
夫からのバレンタインに薔薇五本 北窓を開きて背(せな)に風通す
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
満開の青梅の里は春の夢 をみなごのゑくぼの如く梅一輪
白き指愁ひを秘めて古代雛 日の穴のぽかりビル街春の空
ままごとの幼き恋や桜餅 春の夜や赤子おこすな物動き
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
通学路摘みし野蒜の淡く萌え 夢二描く女のうなじ沈丁花
春の雨命あふるる木々や草 振り出しし春色三つ金平糖
伸びゆきてフェンスの先へ土筆(つくづくし) まろやかな命を萌すねこやなぎ
▶角田美智 ▶永岡和子 |
並木路や春灯のみな霞みたる 列なして待ちし園庭花御堂
琴の音の洩れて静かや春障子 三椏の花や谷間に日の一閃
春の池青鷺の対高く飛び 足跡を語らふベンチ桜老ゆ
▶永嶋隆英 ▶中村一声 |
春雷の明けて山河の目覚めけり 東北の春の遅きよ大震災
嫌はれつなほ嫌はれつ囀れり 悲惨やな震災遺構五冬論ず
青空の朗らかにありひばり笛 晩懐や千々に揺れたり冬木の芽
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
どうでもよき昔話のバレンタイン 太陽を浮かべ真白や春霞
閏年遅れて来る弥生かな 蔓草の迷路にひそむ余寒かな
臘梅のほつほつ咲くや曾我の郷 踏んばりて風を待ちたり梅古木
▶森田 風 ▶山口律子 |
此の頃の横着積みし花粉症 白梅を日曜画家ら囲みけり
春の空茶柱の願何処へやら 完璧のまま落つ椿なにいはむ
四面に球の行き交ふ春日かな 倫敦の二階建てバス霧の中
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
春二番晴のち曇どしやぶりに うるう年一日(ひとひ)ごほうび喜寿の春
はくれんの蕾の先ゆ染めはじむ 銀輪の列を倒せし春一番
まん丸の春月なれど未完なり ほつほつと日毎はなやぐ卓の梅
▶山田泰子 ▶山平静子 |
花は花自然のまゝに我然り 老いらくの三寒四温なすがまま
早春の手に取る白さ逆富士 底知れぬ世界の恐慌春愁ふ
浜名なる湖面輝く二月かな 麗らかやハンドル握る嫁が唄
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
朝まだき夢にうつつの春の雨 春の雪脚本のなき夜景かな
時蔵の戻駕籠舁き春北風 港湾の安らぎを待つ春灯
降る音に寝驚きては春の夢 洞爺湖のブルー輝く二月かな
2016年2月句会より
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
春疾風子ら仲違ひ二度三度 風きつてオープンカーの新成人
三つなる雪割草や空仰ぐ 節分の豆を拾ひて二羽の鳩
眩しさや笑ひ転げる屋根の雪 友逝けりいまだに消えぬ庭の雪
▶稲名慶子 ▶井上ひさを |
背き合ふ年子の姉妹水仙花 指切りに春の微熱の宿りけり
大空の橙一つ貰ひ受く ぶらんこやぶらぶら風と旅に出る
侘助の一筋の紅蕪村の忌 九九いつも七四で詰まるつくしんぼ
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
春気配からだに感じバスを待つ 幼子や涙こらへて豆を撒く
期待背に走る駅伝雪の舞ふ 騒音と移りゆくかな除夜の鐘
花の中蜜吸ひ遊ぶ目白かな 蜜柑むく家族の笑顔母思ふ
▶加藤三恵 ▶久下洋子 |
糠漬の香のやゝ強く寒明くる 初旅の背に潮匂ふ鳥居かな
散りて猶花より床し六連銭 着ぶくれの内に秘めたる勝負服
春兆しマリー・ローランサン笑む 節分の炒り豆美味し先に食べ
▶グライセン ▶純 平 |
円窓の白梅届く奥座敷 凍蝶の今朝の心拍異常なし
公園の凍てつくベンチ広きかな 春隣歩いて見えるものがある
静けさや足跡埋まる雪野原 北風はエレキに変はり上衣脱がす
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
泥葱を刀のごとくむきにけり 冬薔薇の羅紗紙の如庭真中
キッチンに卵割る音春浅し 商戦に負けてがぶりと恵方巻
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
香しや名物団子の梅見茶屋 ビッグバン原子模型の花八ッ手
ふらここや飛んで行きたし宙のまち 啓蟄や有機野菜の丸かじり
かたくりの花やプリマの如く佇ち 落雪の轟く軒端仁王像
▶知久深雪 ▶角田美智 |
捨て小舟芽吹き柳になぶられて 淡雪と喜ぶほどの雪舞ひぬ
紅梅や夫に気兼つ粧へり 四阿にかげろふ遊び孤老座す
愚痴も又心のかてか石蕗の花 春愁や空薫満つる庭に佇ち
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
まさをなる空ゆさゆさと花ミモザ 寒たまご土鍋の飯に打(ぶ)つ掛けり
名画見しシルバーデーの梅真白 成人式ふりのたもとの引きずらる
デルフトの壺に活けなむチューリップ 初雪や地球の核の煮えたぎる
▶中村一声 ▶中村達郎 |
手帳二冊去年と今年の血をつなぐ 日脚伸ぶやはらかき日々猫蹠
両側に手をかざしをり京火鉢 木立なか二月の空の広さかな
旅心定まる秋のSLかな 暮色かな二月の風のなほ厳し
▶西川ナミ子 ▶森田 風 |
枝先へ咲きし椿の重さかな 歩み来て又一歩往く恵方道
透かし見る森の息吹きや薄氷 絵本繰る小さき手に乗る春日かな
色めきし柳の描く放物線 湯豆腐のそぞろ揺らぐや夫帰る
▶山口律子 ▶山下文菖 |
鴛鴦の隊列のまま岸離る をちこちに春耕の煙たなびけり
大束で百円なれり黄水仙 冬到る葱の畝なほ高くせり
一人来て心整ふ冬の旅 ラグビーの静の一瞬五郎丸
▶山田詠子 ▶山田泰子 |
土の盛もぐら目覚めし浅き春 古き辞書捲る指先二月尽
寒見舞両手に挟む訃の便り 春兆す樹木に鳥の入れ替はり
ふきのたうめざとく見つけ食談義 馬酔木ゆれ料理教室急ぎ行き
▶山平静子 ▶渡辺克己 |
ワン切りや春一番の胸騒ぎ 碧の湖霧に隠れて一人釣る
春来るや地球惑星地震多し 時止まるフエの涼風王の宮
衣更着や韋駄天の如過ぐるなり ミーソンや緑茫々爪のあと
▶渡辺眞希 |
亡き友の笑顔忘れじ冬苺
語らひの小庭の木々や春を待つ
寒風に寄り添ふやうな小花かな
2016年1月句会より
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
数へ日の三猿と決むる心かな 空高く風に吹かるる冬桜
愛ほしむとしより食みし雑煮餅 微笑んで蠟梅の花香りけり
落葉樹空に描ける幾何模様 初詣無量光寺の梛の木よ
▶稲名慶子 ▶井上ひさを |
初富士や九条の空永からむ 遠吠えの止みて俄に除夜の鐘
初句会△□○ひとつ 悠久の時に佇む去年今年
初茜富士と月とのかくれんぼ 年波を沈め切つたる初湯かな
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
初春の笑顔集まるうからかな 「おはやう」のかはりに開ける冬の窓
蠟梅の香り古屋を満たしをり 橙や口をすぼめて海の色
福笑ひおかめと共に忘れられ 掌を合はせ頭を垂れて明の春
▶加藤三恵 ▶久下洋子 |
ポケットを探れば去年の紙幣あり 初詣願ひ数多の人の顔
羅漢様歳は幾つや初詣 来し方を想ひ起こしつ年迎ふ
天眼鏡今年は如何に運命線 冬登山生気の返るスープかな
▶グライセン ▶純 平 |
御神籤に笑み浮かべてや福達磨 去年今年ぼちぼち歩む老の坂
冬茜床臥す我を置き去りぬ 年の暮柚子餠送る母心
天仰ぎ思ひ鎮めてお元日 柿落葉来る年の実は大きけれ
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
ドローン二機かなたに消えし初御空 昔日の楽しかりけり年用意
今日在りて命浮かべし柚子湯かな 粉雪や姉の訃報に四国路(みち)
縁起良き色を合せて初鏡 大根を買ふのが好きな亭主かな
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
凍つる木々ガラスの光まとひたり 龍の玉篠鉄砲の平和かな
初日記気温体重体脂肪 結界の石の片へに実万両
とりまきの声のはずみし福笑ひ はるかなる襲の色目花びら餅
▶知久深雪 ▶角田美智 |
遺伝子は永久にかはらじ初鏡 空家また空地となれり初時雨
たゆたうて八十路なかばやお初釜 寒昴過ぎたる悔を忘れたし
出初式そらかけ昇る男佳し 初明り彼方に月を伴ひて
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
あれやこれまだ許されぬ冬籠 「おめでたう」交はす和みやお正月
初雪や一寸おすまし慣れた道 しのぶれば大気の底ひ春あらた
愚痴聞きて頷くだけや春近し 洗顔の元朝の水ほとばしる
▶中村一声 ▶中村達郎 |
初日の出無限に無音を奏でゆく 我先に一直線の福袋
二人揃ひ古稀遙かなり去年今年 千両の万と並びし植木市
枯葉一葉重ねて生きる腐葉土 落葉踏む音の軽さや谷戸山路
▶西川ナミ子 ▶森田 風 |
屋台前人波みだる初詣 爆買ひは我が手に載らず黄水仙
かたかたと北風白し父母の墓 秒針の目盛り一つや先の春
剪定の枝に開花の兆しあり 歌の端口遊み入る柚子湯かな
▶山口律子 ▶山下文菖 |
粛として喪服の並び年暮れぬ 目出度さは主変るも鏡餅
トランプに興ずる老母声高し 何気なき手塩加減の大根漬
数へ日や姑とノルマ果たしたり 御酒注ぎなにはともあれ歳の神
▶山田詠子 ▶山田泰子 |
生垣の片手袋や夕とばり 冬の陽やほらほらと笑む遠き祖母
否応なく背にせまりし年の暮 小学生あいさつ交す冬の夕
巻き癖の取れぬ暦や鏡割 新シニア生まれ変はれし去年今年
▶山平静子 ▶渡辺克己 |
初夢の欠片も失せし目醒めかな 淡きこと時を忘れし暮の薔薇
大寒や文の流れの曲がりゆく 思へば人は命なり年の暮
北風や核の波長の微かなる 君と僕それでも似たり年の暮
▶渡辺眞希 |
暖冬の季の移ろひ乏しけり
一年を手の平におく賀状かな
青き空律律し雪吊り和み見ゆ
▶安良城 亰 ▶石塚泰子 |
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校庭の少女の脛や秋高し 木守柿めざし鳥らの声高し
柚子三個青春の面見せてをり 小春日や嬉し淋しの誕生日
一つ食み一つ手土産熟柿 玉堂のこの大銀杏一色に
▶稲名慶子 ▶井上ひさを |
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小春日や太古奇岩の神守る あやとりの塔不器用に崩れけり
あやつられ雪吊の松横歩き 浅草はまだ宵の口歳の市
冬雲海一村裹み動かざる 凩の絞り出したるオノマトペ
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
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茅葺きや紅葉散らして髪飾り 冬薔薇やピンクの蕾二輪あり
大玉の白き魅力や聖護院 音もなく秋の夕暮せまりくる
ななかまど空を目掛けて燃え上がり カップルの思ひ伝はるニット帽
▶加藤三恵 ▶久下洋子 |
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枯野原取り残されし墓石群 鰤大根煮付けて旨し二日分
雪しまき行く方見えぬ関ヶ原 年末の夢よ再び追ひかけて
饅頭を割れば湯気立つ雪催 籬垣の愁ひに化粧ふ寒椿
▶グライセン ▶純 平 |
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沁み皺と終焉向かふ小菊かな 箸先で硬さ確認芋煮かな
もみぢ葉を捉へて愛づる小さき蜘蛛 落葉路や来し方見つめ深呼吸
オリオンの三ッ星に見ゆ家族かな 木枯や重力大き男坂
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
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小春日や川をへだてて声交す 冬木の芽咲くを待つ身が羨まし
里山に鹿鳴く頃に畑しまふ 冬紅葉鈍色の空カンバスに
競馬場銀杏紅葉に鎮まれり 冬の昼白骨の如ポプラ立つ
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
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プレゼント煖炉の灰に隠れをり 庭で愛で活けてほのぼの冬の薔薇
熱燗に五臓六腑の蘇り 生きがひを探し惑ひぬ石蕗の花
到来の赤きショールや夜の街 椋鳥をひそめる楠の闇静か
▶地久深雪 ▶角田美智 |
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小春日や掃除ロボット機嫌よし 漬物のあれこれ終ふや年暮るゝ
懸大根筑波をどんと座らせて 菊焚きし香の懐しや妣の庭
薬喰古人の慎ましく 柚子の香を仄かにまとひ十三夜
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
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新海苔で包むお握り旅の人 冬蝶が地形(ぢなり)を草をなぞりける
鮮魚(なま)街道ぞろぞろ歩く冬至の日 二人づれ頬を赤らめ三の酉
小春日や碁石ぱちりと爺と孫 すつてんころり妣の加護あり墓参
▶中村一声 ▶中村達郎 |
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冬の蟻廊下の日なた去りにけり 宮帰り両手に握る千歳飴
櫻紅葉崩れし簗に舞ひにけり 晩秋に懐メロ聞こゆ町工場
日本(ひのもと)の里山なりき藁と柿 枯草の伸びたるままの鉄路かな
▶西川ナミ子 ▶森田 風 |
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群れ飛びて枯葦原に沈みけり 人去りし春日大社に冬の月
園児らの発表会や冬ぬくし 到来のジャムの甘さや冬ぬくし
イルミネーション雨に濡れたる窓硝子 月明り靴こつこつと年の暮
▶山口律子 ▶山下文菖 |
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冬空へ募金の声の広がれり 夏空へ一足飛びにパラセール
厳かな皇居のいろはもみぢかな 綿虫のさまよふ中に命あり
ひと際にかがよふ松の色変へず 梔子の実に日色焼きつく日暮かな
▶山田詠子 ▶山田泰子 |
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聞き役の箸とどまらぬ忘年会 良寛の仏門の道時鳥草
観劇にひたる車窓や冬灯 彼の人の好物食らひ秋惜しむ
しののめをひそやかに往く椋の群 雪富士のちらりと見ゆる幸のあり
▶山平静子 ▶渡辺克己 |
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平安なる新たな年を願ひつつ 淡き陽や小さき秋の通ひ道
一捌けの墨雲きらり師走かな 静かなる落葉の語り風の後
寒鴉ビルの谷間の癇一声 あかね色の風のわすれし紅葉かな
▶渡辺眞希 |
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みかん狩潮風に乗り歌流る
羽摶きて白鷺出会ふ秋の暮
冬麗の海挟む富士なほ清し
▶安良城 亰 ▶石塚泰子 |
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秋高し医術で戻る視界かな 時の鐘雨にけぶりて冬近し
名優の命日なるや紅葉舞ふ 川岸へ小さく飛びし秋の蝶
蒲の穂や親子の触るる彼の話 夕映えの富士の裾野や秋の暮
▶稲名慶子 ▶井上ひさを |
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秋登山北の強さの彩となる 村時雨手妻の如く消えにけり
より高き杉を選びし蔦紅葉 昭和へとタイムスリップ泡立草
白神の龍の隠れ家橅照葉 無為自然明鏡止水浮寝鳥
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
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新米をぎゆつと握るや光る球 土牛蒡片手に提げし友の顔
柔らかき冬の陽部屋の奥までも 青天の草取り鎌と軍手かな
無花果や色濃く肥り葉の蔭に 南天の朱の実数へて庭仕事
▶加藤三恵 ▶久下洋子 |
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逝く秋やルージュの残りあと僅か 花柄のマフラー似合はぬエージング
みちのくの秋風恋し静の碑 湯豆腐や二人暮らしの見つめ合ひ
樹の影に燃えつくしたる曼珠沙華 どんぐりを手のひら隠し右左
▶グライセン ▶純 平 |
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秋麗しぶき捕らへる連写音 特養の窓いつぱいに秋の暮
小鳥鳴く声清々し深呼吸 柿日和姉弟揃ふ一周忌
老夫婦秋夕焼に輝けり 沈黙をじつくり待つや秋の声
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
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こほろぎの髭に重たき今朝の露 白萩や琴線触るるしなやかに
車椅子繰り出してくる菊日和 体重を委ねて欠伸秋日和
もみぢ山流るる雲の影うつし うち揃ふ薄紫の野菊かな
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
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枯葉舞ふ長き参道団子売り 前方後円墳冬蝶の舞ふ
軒先の暖簾となりし吊し柿 オリオン座天心にゐて星落とす
冬桜空の青さの透けてをり 丸窓に入り日さし伸び炉を開く
▶角田美智 ▶永岡和子 |
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山々の照葉輝き村静寂 揺れ止まぬ心模様の夕芒
木々の葉はそれぞれの色冬立ちぬ ぞろぞろと干菜を吊りし昔道
空に立つ公孫樹小布施の地に舞ひぬ 拘りの夫の一言鰤御飯
▶永嶋隆英 ▶中村一声 |
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そこそこの悪魔の挙るハロウィン 紅葉折る音全山に響きしや
掌の中の珈琲(カッフィー)薫るそぞろ寒 昇仙峡大巖揺する瀧紅葉
心には戦ひありて文化の日 我が家への路地に親しむ草紅葉
▶中村せつ ▶中村達郎 |
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ちやんちやんこ赤き実を見てゆけといふ 揃踏みしたる松茸店の先
紅葉晴デイサービスのバーベキュー 一人来し秋の里山うす景色
ささやかな葬や日向のピラカンサ 大都会仄かに匂ふ金木犀
▶西川ナミ子 ▶森田 風 |
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到来の魴鮄とせし睨めつこ 幼児の髪飾りをる落葉かな
傾きし陽の重なりて草紅葉 焼菓子の口にほどけて冬日向
あんぐりと夕日を食みて柘榴落つ 目覚むれば一本増ゆる枯木かな
▶山口律子 ▶山田詠子 |
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スピーカー「夕焼け小焼け」の秋の暮 雨上がり気高く匂ふ菊花かな
実南天庭の一隅染めてをり 飛行機の置きざりし音秋夕焼
あつさりと父の逝きたる秋時雨 葱の束ごそりと背で揺れにけり
▶山田泰子 ▶渡辺克己 |
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衣被つるりと白き遠き君 風の音なほかたはらの秋の薔薇
芋汁の香りしみゐる山歩き ぬばたまの闇に欠けたる十三夜
菜園の太き大根食みにけり 年たけて残んの月を惜しみけり
▶渡辺眞希 |
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肌寒や巡る時節の音もなく
頼朝のベンチ寂しや律の風
秋日和駆け回る子を追ひにけり
▶安良城 亰 ▶石塚泰子 |
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永らへし余生の節目神無月 手を振れば手を振り返す星月夜
極上の赤き月かな暫くは 今年また友と一緒に彼岸花
▶稲名慶子 ▶井上ひさを |
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語りたき白寿の父と敗戦忌 白曼珠沙華あしたのジョーが起ち上がる
無数なる壁の球跡酔芙蓉 昨日から気にかゝること衣被
十六夜の少し垂れ目の親しさよ 紺碧の空に回遊鰯雲
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
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コスモスの数本咲きて華やぎぬ ゆらゆらと月下に揺るる薄かな
重なりて朽ち果てりをる石榴かな 台風の蔭に小花の白きかな
満月の魔法の光り青めけり 遠花火季の移ろひ惜しみけり
▶加藤三恵 ▶久下洋子 |
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霧晴れて毅然と日本武尊の碑 秋日和深睡りにて次の駅
比叡山秋立つ風に灯のゆらぐ オリオンの流るる星や天と地に
月も見よ神も争ふ伊吹山 異国にて秋めく朝の人の顔
▶グライセン ▶純 平 |
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満月に今日を重ねて一つなり 銀やんまホバリングして道案内
稲架掛に農婦の魂宿るかな 栗ご飯丹波の里は遠くなり
子等の声拾ひ集めて鱗雲 百歳の話聴いてる秋の空
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
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空埋めし百万匹の鰯雲 鬼灯をちよつと鳴らして得意顔
川底の光を洗ふ秋の水 天空を大胆不敵鱗雲
杖つきしその手に揺るるねこじやらし 古書店の閉鎖のうはさ秋の暮
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
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祝杯のワイングラスや秋更くる けふの月円周率の無限大
野の錦土産にしたき景色かな ふるさとの柿栗芋と一筆箋
花芒風にまかせてなびきけり 静けさの神の領域薄もみぢ
▶角田美智 ▶永岡和子 |
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酔芙蓉咲き寂寞の空家かな 四世に開拓の夢蕎麦を刈る
掌中の笑みし無花果今朝の幸 沼歩き声朗らかや草紅葉
影曳きて季の限りや零余子和へ ヒマラヤの赤蕎麦の花咲く園地
▶永嶋隆英 ▶中村一声 |
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秋風の北の匂ひのふとしけり 精霊舟おもひおもひに去りにけり
国会中継の終はり虫の声 心友の逝くを知らずに紅葉出づる
秋雨の谷より谷に荒川へ ひさかたの「印象・日の出」秋来る
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
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金木犀香り漂ふ花廻廊 刃の先へ音の弾ける林檎かな
秋の海小波映ゆる夕間暮 うたゝ寝の膝の疼きや雨の秋
蒼天やクレヨン色の秋の山 露天湯の独り長居や蓼の花
▶森田 風 ▶山口律子 |
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母の名の因みし花よ菊の花 秋時雨合掌集落際立てり
七つの名指折り数へ藤袴 その角の塗りたるやうな穂波かな
ロダン像立ち居変はらず秋深し 自然薯のどつしりとしてくるまれり
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
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木犀の香胸一つに余りある 身に沁むや箸置く姉の小さき声
あやしくも赤光ありて月昇る オレンジの傘の揺れをる墓参
実とともに色づく里のななかまど 白粉花香り際立つ夕間暮れ
▶山田泰子 ▶山平静子 |
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紅葉映ゆる蔵王の地蔵道しるべ さらさらと砂漠の小川身に入みる
大房のロザリオビアンコ碧玉よ 肌寒やフライト遅るる中国機
碧空の実に滴るやななかまど 秋惜しむ三日三晩の溯江かな
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
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風の音庭に極まる落葉かな 秋彼岸野花供へる豆菩薩
寂として徐々に親しむ秋の海 宗谷より白き塔見ゆ秋思かな
二人して茶をすするなり秋の山 墓に佇つ親子見守る曼珠沙華
2015年9月句会より
▶安良城 亰 ▶石塚泰子 |
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地の塩や白菊の中語りをり 球児らの決意語れり夏木立
握り合ふ皺に涙や雲の峰 青空へ紅蜀葵伸ぶ原爆忌
新涼の朝の一服澄みし空 簪の花びら散らす百日紅
▶稲名慶子 ▶井上ひさを |
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魂重し帰らぬままの茄子の牛 秋高しとぼけた顔の道祖神
炎昼や卵集めの眼飛ぶ 団栗の思ひ思ひの寝相かな
立秋の風に乗りたる友の声 一筆啓上余白に花桔梗
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
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稲架掛のまるごと水に流されり 四十雀お喋り弾み柘植の木に
木犀の香りあの日のあの場所へ 夢に聞く蟬の合唱甲子園
曼珠沙華雨のバス停独り待ち 終戦日蟬声高くつきるまで
▶加藤三恵 ▶グライセン |
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丹波より栗焼酎の便りあり 灯籠や言の葉交はし星空へ
賞味期限の切れし乾パン震災忌 色の失せ音の遠のく今朝の秋
茸狩収穫ならず買ひにけり 女王花闇夜に香り残すかな
▶純 平 ▶高橋小夜 |
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蟬時雨七十年の節目かな いつ見てもひとりぽつちの鬼やんま
昼顔やうちの親方(おやぢ)も左巻き さみしさは遠く賑ふ夏の浜
白百合の傍にゐるそれだけでいい 村芝居見栄きる背に夜の秋
▶田中奈々 ▶竹酔月依満 |
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藤袴浅黄斑を待ちこがれ 画材なる赤き柘榴や里を恋ふ
広き田に龍の姿の穂波かな 秋黴雨アールグレーと「火花」かな
繋がりし風の電話の花野かな 七輪に黄金色なる秋刀魚かな
▶角田美智 ▶永岡和子 |
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秋蟬の蟻に担がれ命了ふ 今宵また夫のうんちく衣被
いのこづち旅が好きよと裾に付き 萩揺るるそつと顔出す地蔵様
行き合ひの空に鯖雲デモ続く 秋日和称名の輪の広ごりぬ
▶永嶋隆英 ▶中村一声 |
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ゆつくりと煙の立てり茄子の馬 憲法は鎮魂の詩(うた)揚花火
一心の嬰さながらに蟬のこゑ 人逝けど海蒼くして天高し
つま先に阿呆こめ踊る女子衆 亡骸の顔の爽やか秋の風
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
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丹沢の山より下る稲びかり 夕間暮木犀の香の漏れ来る
カタカタと首を振り振る扇風機 少年のたくましき顔葉月尽
百年目の夏に球児の涙かな 猛りたる川の流れや曼珠沙華
▶森田 風 ▶山口律子 |
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秋日和ひとり留守居のてる坊主 整然と揺れて溢るる芒かな
初鴨を待ちし池水の青さかな 秋水や口開け迫る鯉の群
雑念の綾解しゐる彼岸花 夏の果歌ふも聴くも古めけり
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
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角力草地球をつかみ離さむと 炎天下高校球児声渡る
白雨来て土の匂ひの先走る 涼風に露ころげ落つ路地通り
白雨来てすは相笠の道祖神 捨てきれぬ母の温みや土用干し
▶山田泰子 ▶山平静子 |
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幾たびも自然の驚異秋の荒る 天山湖爽やぐ風や牛唄ふ
案外に家押し流す秋出水 シシカバブ食うて月見て日本恋ふ
寺七つ秋の七草育てをり 名月や遠く駱駝の移り行く
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
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海峡や風に耐へたる黄水仙 清秋の風の渡りし離島かな
秋時雨涙落ちたる夕餉かな 船上の釣瓶落しや考想ふ
白菊の翳に木魚のリズムかな 天高く放牧の牛静かなり
▶安良城 亰 ▶石塚泰子 |
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水を打つ砂漠化なりし感受性 弧を描き想ひ伝へよ虹の橋
眼裏の一滴の汗や小さき海 西の空ふはりふはりと合歓の花
▶稲名慶子 ▶井上ひさを |
向日葵や大山山頂薄曇 新涼や墨田江東江戸切子
連なりしトンネル五つ夏の富士 ぺヤングのぺに湯を注ぐ夜長かな
借景の庭に借りたる涼気かな 海賊の住みし島とや鉦叩
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
耀うて向日葵頭垂れにけり 遠方の友の安否や夏旺ん
空蟬や思ひ遂げしか風に揺れ 夏の夜明け揺れて揺れて音になり
法師蟬鳴くやいよいよ焦りたり 目に涙溜めて見上ぐる花火かな
▶加藤三恵 ▶久下洋子 |
一椀の水重かりき原爆忌 冬瓜をぐつぐつ煮つめ初披露
生尽きし同胞見捨て蟬しぐれ 北の果て生もろこしの甘さかな
玉音に茫然自失敗戦忌 夢追ひて儚く消ゆるサマージャンボ
▶グライセン ▶純 平 |
紫陽花の色に重なり人の世は 戻り梅雨いつもさうだと口小言
秘め事の合歓花のごとく萎みけり 朝起きて出勤までの素足かな
螢火や国に活路を与へたし 梅雨晴間行つてらつしやい何処へ行く
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
虹かかり切りし電話をかけなほす 炎昼や蚯蚓数匹乾されをり
海ほほづき鳴らすに倦みてひもすがら 飛び来る蚊容赦せぬ技一叩き
ややこしき話途切れてけらの鳴く 冷蔵庫寂しき音で閉める夫
▶竹酔月依満 ▶田中奈々 |
今生の声鳴りやまず秋の蟬 白木槿利休の侘に近づきぬ
こほろぎの同乗するや昇降機 声明の調べ美し鉦叩
下車駅のまだ日の暮れぬ残暑かな 広島忌被爆梧桐よりの風
▶角田美智 ▶永岡和子 |
水平線大夕焼を沈めけり ひとり言頓に増えたる秋の宵
迎へ火の魂連れ来る父母の家 流れ星ニュージーランドの闇厚し
精霊を灯し酷暑の広島忌 宿題をかなかなの声急き立てり
▶永嶋隆英 ▶中村一声 |
鯉呼べば万緑の今うねりけり 水を撒く土潤せど蒸しにけり
短パンの汗の少女らどつと乗る 思ふより風来る君の古団扇
ぶつぶつと切れる映画や片かげり 逝きし人いまださまよふ原爆忌
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
木漏れ日の森噎せ返し草いきれ 新涼や水面に映る青き色
夏の朝妻の小言に屁でかへす 川霧の時ゆるやかに運びけり
地下足袋の午睡に注ぐ陽の斑かな そこここに老いのかけらや秋の月
▶森田 風 ▶山口律子 |
薄曇行きつ戻りつ秋の蝶 夏休み宿題連れて来りけり
脂落つ辛味おろしや初秋刀魚 日日草日々変りなく咲きにけり
傾きし看板一つ花芙蓉 炎昼や我子巻き付け歩む母
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
老鶯の先廻りしか梓川 救急の音ゆらめけり夏日中
ポン酢かけ絶品冷しトマトかな 朝顔市迷ひに迷ひ鉢二つ
涼み客下りてがらんとした車内 大さぼてんのれん分け入る甘味処
▶山田泰子 ▶山平静子 |
狂ほしき暑さの朝に鐘の音 眼下ゆく黄河の波や夏を追ふ
花芙蓉明日の命を我に問ふ 盆の月壕の木乃伊の鎮もりて
阿波踊粋な幼児潤む夕 火焔山残暑の中の赤き肌
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
虚子の径風聴く池の青葉かな 微笑みし向日葵囲む君悲し
山車(やま)の行く江差追分夢の跡 蓮咲くや無常の風を眺めをり
渡御祭や蝦夷の防人冷たき灯 雲海の切れ目に見ゆる富士の如
2015年7月句会より
▶安良城 京 ▶石塚泰子 |
葛餅や幼の黄粉飛ばしをり 浜昼顔波の砕くを聞いてゐる
夕焼の眩しき中に闇迫る 柿の花雨に打たれてこぼれけり
朗読と楽器の調べ桜桃忌 あこがれの砂丘の先は光る風
▶稲名慶子 ▶井上ひさを |
ぶつ切りの蛸酢試食の半夏かな 島人ぬ笑顔大輪仏桑花
羅や白き「アナベル」婚遅し 炎昼のお化け階段行き止り
涼しさや大きルビあるラブレター 蚊遣火や九十五歳の減らず口
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
梅雨晴間淀むすべてを解き放ち 縁側に朝顔並ぶすずやかさ
梅雨空に白雲想ふ懐かしく シャガールの白い花嫁風青し
新築のドア上燕家造り 雨音にピアノ音消され昼寝どき
▶加藤三恵 ▶久下洋子 |
人道はけもの道かも薔薇に棘 藍浴衣電車待つ間の色香かな
遺柱石転がる神話の國暑し 知床や山道行かば対の鹿
蟻の群遺跡の下に城築く 道の辺の向日葵深く頭垂れ
▶グライセン ▶純 平 |
池の端に小舟留まり秋隣 嵩上げや爪痕消えし夏の海
蔓薔薇や壁面覆ふ貴賓館 歳時記を開いたままに午睡かな
緑さす水面の色のなほ深し にはか雨ホップ、河童の遠野かな
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
時の日やスクランブルの交差点 万物をずんずん飲み込む夕焼かな
扇風機影をまはして止まりけり ややこしき人を避け行く日傘かな
ささくれの心なだめし水羊羹 立葵天辺まで咲き知らん顔
▶田中奈々 ▶竹酔月依満 |
夏の夜や棚のかつらが語り出す 黎明に耳をすまして蓮の花
赤土の色たつぷりとカンナ咲く 水はねて玻璃洗ひ去る夕立かな
泰山木宝珠のごとく寺の庭 庭園に流るるジャズや宵涼し
▶角田美智 ▶永井清信 |
夏茜水面に低く影を曳き 火照る夜の土用の鰻味はへり
街路樹の楊梅落つや落ちしまゝ 夏芝居千両役者の顔だせり
茗荷の子摘みし指先香を纏ひ 日暮なる賀茂の川べり鱧料理
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
磨かれしままの白靴はや六年 失せ物の見えで思案の梅雨ぐもり
父と子の将棋指したる端居かな たいこ腹ゆさゆさしたる金魚をり
日の盛りモーツアルトとうたた寝し 夏野より根山遠山こゆる冨士
▶中村一声 ▶中村達郎 |
大原女の声の誘ふ夏野菜 切麻とともに潜りし茅の輪かな
奥嵯峨や名高き庵に春惜しむ 麦秋の波に一筋畦の道
野佛や路地の捩花人待てり 紫陽花の群れゐる小路円覚寺
▶西川ナミ子 ▶森田 風 |
台風の雨に脱兎の走りかな 一時の眠り千金籐寝椅子
幾度も託す命や黒揚羽 暑さ負けせぬとほろ酔ふ夫婦酒
露の玉集めて想ひ短冊に 梅雨晴間ブルマンコーヒー封切りぬ
▶山口律子 ▶山田詠子 |
遠足のじぃーと手つなぐ園児かな 乙女らにおとらぬ今朝の茄子の艶
蚊の声の消えて刺されし夜明かな 田を植ゑて小川に揺るる大夕焼
水遊び一枚脱いでまた脱いで 麦の秋笠は銀波に見えかくれ
▶山田泰子 ▶山平静子 |
あの時もけふも迷ひて梅雨の中 萬里なる長城に果つ夕焼かな
夏蛙我を呼び止む田圃かな 西日追ひひたすら飛ぶや烏魯木斉へ
恐山妣に会へるか夏の夜 見ないこと露台の端の吹き溜まり
▶渡辺克己 ▶渡辺眞希 |
瞑すればゆく手の芒なほ遠し 風薫る兼六園の心地よさ
生かされて素(しろ)きを後に半夏生 六月の名園の風また清し
翡翠の声なほ静か歩むごと 父の日や思ひ出はこぶ能登の旅
2015年6月句会より
▶安良城 京 ▶稲名慶子 |
蠢ける椿毛虫の命かな 三代の湯姿似たり山法師
十薬の地球曳く手や雨上がり 噴水や色とりどりの園児帽
母と子の会話弾んで洗ひ髪 初夏や男子恋仲狗子の像
▶井上ひさを ▶江川信恵 |
仲見世驟雨多言語の逃げ惑ふ 清澄に風吹き揺るる花菖蒲
肝心のことのうやむや五月闇 ビル眺む杜鵑花の中の芭蕉像
前世の微かな記憶蝸牛 紫陽花の咲き初めし頃淡き恋
▶笠原しのぶ ▶加藤三恵 |
新緑のあふれあふれて山田線 父の日や動きを止めし腕時計
大正のあさり香しみし佇まひ 定められし道無視すれば茨道
曾良連れて芭蕉旅立つ春なのに 金婚を前に兄嫁蓮に乗る
▶久下洋子 ▶グライセン |
酔美人名ほど麗し花菖蒲 麦秋や引込み線に時止まる
梔子の香り漂ふ塀の外 青楓解れ幟の飯処
若鮎の菓子配らるる茶席かな 波紋澄み聞こゆる水の音涼し
▶純 平 ▶高橋小夜 |
走り梅雨背に貼りつく下着かな 花一つ力士の墓の泰山木
新緑や古き手帳を捨てた朝 雷鳴や江戸の風吹く資料館
大でまり風に委ねて右左 力士乗せあへぐ自転車夏の風
▶高山芳子 ▶田中奈々 |
故郷の校門の内蘇鉄咲く 弾んでる幼児の靴や梅雨晴間
紫蘇茶漬心沈めて流しこむ 馥郁たるくちなしの香や母の文
黒南風のあとに清澄月と星 薔薇の香や昭和を乗せて都電ゆく
▶角田美智 ▶永井清信 |
半夏生ひときは白き宵の雨 南風の瀬戸内海に陽が沈む
鮮やかな茄子や青磁に収まれり 金毘羅の石畳踏む梅雨晴間
アマリリス女王の如く咲きにけり 汽車でゆく瀬戸大橋は風涼し
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
絡ませし夕朝顔の花待てり 十薬や己れおのれと煌々(きらきら)し
夏風邪や気力体力板挟み 櫻木の万の葉ずれの薫りたつ
恋歌を秘めし黒百合そこここに 月の船昭和の路地と昭和の日
▶中村一声 ▶中村達郎 |
春立てば何よりもまづ芭蕉庵 水琴窟静かに刻む春の音
春立つや芭蕉を越えて長く生き 吹く風に音の重なる落し文
肥溜や真白き韮の花畑 膝笑ふ山吹満つる男坂
▶西川ナミ子 ▶森田 風 |
新緑や風と遊びし橋半ば 赤子泣く声大きくて梅雨晴間
雲垂れて銀の水引く青田かな 小さき葉に日のかけら降る夏はじめ
色めきし紫陽花の恋雨の朝 ワイシャツの襟の白さや更衣
▶山口律子 ▶山下文菖 |
万緑や生命そのもの孫生る 夏兆す板の間の黒光りかな
狭き巣の押しくらまんぢゆう燕の子 設へて傘ゆるぎなき牡丹園
野あざみの棘もて己守りをり 真つ白なくちなしの花朝の庭
▶山田詠子 ▶山田泰子 |
風薫る二日ぶりの深呼吸 麦秋や車窓の黄金映えて飛び
声高にゆする悪童実梅落つ 蔭上がり泰山木の白き花
公園のラジオ体操梅雨晴間 青梅の古刹巡りて城の門
▶山平静子 ▶渡辺克己 |
眼の端に鮨ひとつ置き話継ぐ 埋れ木の花に芭蕉が月の友
体臭も齢重ねり更衣 小名木川ビルの谷間は江戸の夏
草いきれ五臓六腑を狂はせり 清澄の風に文左が五月かな
▶渡辺眞希 |
老鶯の余韻を残し風に消ゆ
待合の友に似合ひし夏帽子
朱と燃ゆる石楠花森に華やげり
2015年5月句会より
▶安良城 京 ▶稲名慶子 |
街路樹の水彩画なる若葉光 LLは下着のサイズ夏近し
母の日の電話の声の安堵かな 洋書本抱へ蛙の目借時
幾度も白線引かれ風薫る 昼と夜と同居せし絵や春うらら
▶江川信恵 ▶久下洋子 |
空で食む風は甘きか鯉幟 隧道を抜けて薫風嫣然と
今はただ緑の海に漂へり 風薫る背負ふザックの軽さかな
幾つもの色混じり咲き矢車草 噴水に行く末祈るまーらいおん
▶グライセン ▶純 平 |
春曉のDead Sea我弾きけり 夢幻なり都をどりの団子皿
黄雀の嘴振りて親を呼び 母の日や白一輪の死後叙勲
ひつそりと立壺菫節(せち)告げり 花ちらす冷たき雨の塾通ひ
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
初蝶やからかふ風にはにかみて 九十九里胸押し広げ夏来る
小手毬や貴きまでの白き揺れ カイマンの微動だにせず風薫る
藤棚の奥にゐるらし藤の精 風止みて偵察に出る青揚羽
▶田中奈々 ▶角田美智 |
風鳴らすハープの調べ藤の花 一群の白き花あり木下闇
スマホ繰る二階の窓辺蔦若葉 空と海混じりて藍や風薫る
葺替の結千人や飛騨の里 畳なはる木々の多彩や山滴る
▶永井清信 ▶永岡和子 |
筍や親優りなば掘り出さむ 夏の霧木々の生命の声走る
穏やかに頭を擡げ蚕起く 水芭蕉入り日束の間恥ぢらひて
街中を通り抜け行く若葉風 川渡す風と千尾の鯉幟
▶永嶋隆英 ▶中村一声 |
南海の風ひき連れてつばくらめ 聖五月溶けるが如く瞑想す
晩成と老いて占あり八重櫻 寒月の雲間を馳せる疾さかな
花屑や俄につむじ現るる 夜櫻に眠り足りしやホームレス
▶中村達郎 ▶西川ナミ子 |
四年目のあの日あの時花散りて 退院や枝垂れ桜の緑立つ
蘖や齢重ねし十指見る 田起しのエンジン弾む農の道
鯉幟万と泳ぎし風の川 松蟬の一時高し山路かな
▶森田 風 ▶山口律子 |
ランドセル背に狭しと入学児 荘厳と気品をまとふ薔薇の園
人声を突きさすほどに今年竹 廃屋をがんじがらめて蔦若葉
幼児の顔崩しをる氷菓かな 御開帳並びならびて暮れにけり
▶山下文菖 ▶山田詠子 |
新緑にひたりて心ゆさぶられ 「寛永」 となぞる指先初夏の風
小川にも競ひ合ふ花筏あり 春眠や目覚しの針疑へり
茎立を折りて確かむ柔かさ 誘はれて曲れば招く沈丁花
▶山田泰子 ▶山平静子 |
縄文の里に広ごる桃の花 幸の裏返しみゆ春の終
白藤のかをりに酔ひし昼さがり 牡丹や風と重なる昼下り
莢豌豆朝に夕にと育ちけり 現世を映しをる空夏に入る
▶渡辺眞希 |
声弾む早朝の富士春動く
悠遠の真白き富士や春惜しむ
艶やかに歳月語る藤の花
2015年4月句会より
▶安良城 京 ▶稲名慶子 |
老いてなほ作法を聞くや冬西日 里思ふことなく遊ぶクローバー
この住処安堵覚ゆる菫かな 沈丁や時を知りたる嬰の口
桜蕊命の果ての明かりかな ルンルンと小花の首や春迎ふ
▶江川信恵 ▶笠原しのぶ |
風さへもいつしか変はり花朧 トンネルを出づれば遙か花霞
幼子やよちよち追ひし花の風 春暁や朝靄突きて燃ゆる山
連翹や自由奔放羨まし 亡き人と語り合おうか入り彼岸
▶加藤三恵 ▶久下洋子 |
ビルとビルゆがんで昇る朧月 花吹雪映し出される笑顔かな
初蝶の先導のまゝ朱の鳥居 花冷えの一日足の竦みけり
花むしろ矢来の雨に濡れそぼる 春の山何処までゆかば富士見らる
▶グライセン ▶純 平 |
光風の頬なで水面覆ひけり 球春や子ども広場の忘れ球
春昼や分断の壁影暗し 風光る浜の三塔キリンさん
春の星聖地平穏導けり しやぼん玉追ふ子転びし母の前
▶高橋小夜 ▶高山芳子 |
花散りて力む大樹の安らげり 花の庭真面目顔した犬座り
ぬか雨に色深まりし柳かな 日向ぼこ宅急便を猫見やり
桜植ゑ霊をなぐさむ野辺の道 墓傾ぐ砂丘の先の朧かな
▶田中奈々 ▶角田美智 |
まろまろと明るき方へミモザ咲く 花吹雪戦なき世や七十年
木の洞や小さき光の菫草 雲流れ今宵十日の花月夜
初蝶の西方に舞ひ母の修す 影揺るる風立ち初むや竹の秋
▶永岡和子 ▶永嶋隆英 |
天麩羅の主役脇役蕗の薹 山がすみ送電塔の墓標群
ちるさくら廃校に佇つ金次郎 息きらせ坂をのぼれば彼岸かな
初恋や芽吹き桂の萌黄色 来し方のスカイツリーを鳥かへる
▶中村一声 ▶中村達郎 |
憲法や戦後の春は古稀迎ふ 蹲の面を染めしや花筏
くづれ落つ如くに櫻散りにけり ぱつと咲きぱつと空ゆく落花かな
春光や海にぬけたり白き鷺 花の影口で迎えし零れ酒
▶西川ナミ子 ▶森田 風 |
花しだれ植ゑて工事の終りたり 密やかな花の声積む吹き溜り
河岸より鳥の声聞く彼岸かな 満開の桜と書きし日記帳
蘆牙や水音強き鯉の恋 花見上ぐ先の天空静かなり
▶山口律子 ▶山下文菖 |
一心に足し算するや母の春 啓蟄や菜種かすかに動き出す
満開の凄味に酔ひし花の宴 ちよつとだけ言ひ添へられて桜餅
空に咲き地にも咲き染む桜かな しんとしていざ散るを待つ桜かな
▶山田詠子 ▶山田泰子 |
校舎裏に芽吹きひそめしビオトープ 屋形船触り合ふ土手の桜かな
花冷えやガラス拭く手に力込め さらさらと句碑飾り並む花馬酔木
朱の鳥居くすぐり走る花吹雪 満開の桜に露天ちらりちらり
▶山平静子 ▶渡辺克己 |
半世紀騙され続け四月馬鹿 来し方のまさをなる空辛夷かな
春霙迷ひ来りて右往左往 散る花の行方は知らず西行忌
葉桜や繰り言交し合へる友 ぬばたまの満開の森花の精
▶渡辺眞希 |
誰待つや静かに揺らぐ夕桜
満開の梅の鼓動や深む空
魅了せし百年桜風と消ゆ