◆風叙音・fusionの句会より (2014年10-12月) |
2014年12月句会より
安良城 京 |
あやとりの会話弾んで手話のごと
台風の近づく海や白兎光
秋桜(コスモス)の平和の色や宙染むる
稲名慶子 |
尊厳死そんなのなしや櫨紅葉
虎落笛すぐに遠のくレジェの駅
御嶽の烟残して山眠る
江川信恵 |
猪口徳利出番無きまま寒さ浸む
柿の葉の落ちて実だけの揺られをり
歩きつつ紅葉の色の移り見ゆ
加藤三恵 |
冬ざれの江戸振り返る翁の像
羽子板市スターの陰に藤娘
鯛焼の餡は尾までを良しとする
久下洋子 |
病み最中冬至南瓜のお裾分け
年暮るる干支の引継ぎ式なれば
年の瀬や大売り尽くし買ひ漁る
グライセン |
紅葉の光りて貴石なりにけり
守られて蕾膨らむカリフラワー
点描のごとく山茶花レース越し
小山昌子 |
線描のほとけふくよか冬麗
これよりは巡礼の道冬すみれ
冬ぬくし年相応といふ見立て
斎藤幹司 |
冬紅葉一樹ありたる坂の上
冬桜薄き重ねて見えしまま
空散りし仲間と耀ふ銀杏かな
純 平 |
定年や慣れぬ手つきで松手入
待つ程に皮一枚の熟柿かな
母逝けり庭の柿入る頭陀袋
高橋小夜 |
星月夜時の流るる音のして
木の実降る一日五本のバス乗り場
霜降りて白湯一碗を包みこむ
田中奈々 |
大縄の大波小波吊し柿
黄落やハイヒール履く急ぎ人
山茶花の吹き寄せられし留守の家
角田美智 |
冬木立智恵子となれず髪染むる
炉開きや紅志野の碗掌に温し
竹垣を濡らし過ぎ行く初時雨
永井清信 |
願ひ込め縄を縒りたる飾りかな
一陽来復見え隠れする日の輪かな
聖樹立ち心に灯る明かりかな
永岡和子 |
又一つ断捨離をして冬ざるる
部活子の凛と弓ひく寒稽古
露天風呂独り占めせし峰の雪
永嶋隆英 |
ぢつと手を見るか勤労感謝の日
歳時記をめくりめくりて師走かな
ゆく人のなき人ににてかむな月
中村一声 |
モネの睡蓮蛙飛び込む音はなし
梂(いが)栗を懐紙に裹み床の間に
一篇のヴェルレーヌかな秋の雨
中村達郎 |
満月や風叙音句会宴盛り
破れ家のただ一本(ひともと)の柿紅葉
指折りて句作に悩む文化の日
西川ナミ子 |
小春日やアスレチックの子等の声
山茶花の咲きて樹陰のほの明り
日溜りや寝息聞こゆる小六月
森田 風 |
働きし手の皺埋むる冬日向
鳶職の手足に刺さる寒さかな
山茶花や散る音の無し花筵
山口律子 |
それそこに他を圧せし紅葉かな
宮島の神鹿さつと迎へけり
車中にて晴着脱ぎ捨つ七五三
山田詠子 |
新手帳夢のふくらむ冬初め
秩父路や秋結願の夕の鐘
役去りし世代育む照落葉
山田泰子 |
桐の実の鳴るや箪笥の造り家に
無患子の降る音激し寺の庭
少年の紙飛行機や冬空へ
山平静子 |
病む人に何を贈らむ師走風
年の暮媼二人の宴かな
冬入るやいくつ重なる訃のしらせ
渡辺克己 |
山茶花の散るを見るなりベッドより
回り行く天井の秋手術台
皆居たり同期同窓古稀の秋
渡辺眞希 |
至福かな師と仰ぎたる冬銀河
師の徳を感謝で迎へ冬に入る
相模湾入日に映ゆる蜜柑山
2014年11月句会より
安良城 京 |
ビルの上(へ)に祝賀の月のぬつと出で
老いといふ勲章受けり小六月
真夜中の虫の音スウィングしてをれり
稲名慶子 |
初紅葉大忙しの庭師かな
空映す水面揺らすや赤まんま
白壁のマティスを凌ぐ蔦紅葉
江川信恵 |
ぴゆうと風吹きて枯葉に追ひ越され
錦秋の山々照りてをりにけり
唐松葉秋の陽浴びて雨のごと
加藤三恵 |
釣銭は御祝儀だよと三の酉
白露や幼き遺児の高き声
蒼然たる明治の古銭菊香る
久下洋子 |
帰るコール大根煮る手の忙しや
マフラーを粋に着こなし風の中
鈴生りの柿に似せたる菓子吊るす
グライセン |
冬薔薇や錆びたフェンスを吹き返す
秋灯や弦の調べにゆらゆらと
長き夜ボトル覗けば誘はるる
小山昌子 |
電飾の絡む街路樹冬ざるる
石段を下りて湧水散紅葉
茶の花の垣低くして武家屋敷
斎藤幹司 |
秋の松短き枝に動きなし
鵯の高き集ひて民家園
遠近の幹の顕はや秋の風
純 平 |
毬栗をそつと踏み見る山辺道
秋の蚊やしわしわ腕に止まりをり
何故私手術できずに秋の暮
高橋小夜 |
石榴割れ赤き宝珠の飛び散れり
後の月風に刃をひそめけり
萩の花子等走り来てすぐ見えず
田中奈々 |
むかご蔓トルコマーチの音符めく
枯蟷螂卵なぞめく小宇宙
手水はね石蕗の葉の光りけり
角田美智 |
紅葉初む箱根や四方に水の音
散り敷ける朴葉に揺るゝ陽の薄し
夕茜山脈(やまなみ)染めて冬立てり
永岡和子 |
群馬県小串鉱山 天空に廃坑ありて山眠る
一礼は日課なるなり神無月
多摩川の遡上歩きや蓼の花
永嶋隆英 |
マンションの陰の畳屋秋の暮
モニターにしかと命の波の秋
野分あと安堵ひろごる空の青
中村一声 |
新米を食して思ふ和魂かな
天上の大風ありて稲穂垂る
紅葉山噴火し数多の殉教者
中村達郎 |
矍鑠とラジオ体操朝の露
黒塀を桜紅葉のはみ出せり
冷やかな風に追はれる通ひかな
西川ナミ子 |
秋薔薇を求め都電の人となり
紅葉を愛であふお国言葉かな
唐松の淀みに描く秋の色
森田 風 |
冬夕焼自づと口にわらべ唄
河川敷掃除の後のさんま汁
恙無き世を思ひ入る冬初め
山口律子 |
満月や高層の群眺めをり
池の面に華やぎ落つる紅葉かな
土瓶蒸し猪口に広ごる里の山
山下文菖 |
街道の留守を預かる菊の花
間引菜の何の因果の世を思ふ
秋深し山はいよいよ濃かりけり
山田詠子 |
杜木立甚句流るる秋の風
玉砂利の音乱るるや七五三
的を射る人馬の気合秋の天
山田泰子 |
芋がらや戦後の煮付母の味
凛として埋木舎(うもれぎのや)に石蕗の花
湖北船木枯一番荒もやう
渡辺眞希 |
果てしなき静けさ包む秋の海
長き夜汽笛鳴らして船旅に
晩年は農夫となりし秋暮るる
2014年10月句会より
安良城 京 |
甥つ子の心意気なり今年米
一幅の書画となれるや秋の雲
人近し一枚の穭田なるを
稲名慶子 |
聴き居りし色なき風の音遠く
猫ぢやらし墓を囲みてふざけをり
無言なる高き白煙秋御嶽山(おんたけ)
江川信恵 |
もみぢ葉の上に転がる団子虫
枝撓り葉蔭実柘榴風に揺れ
赤き月少し離れて爺と婆
加藤三恵 |
赤き実の揺らぐ猿酒山の宿
秋深し背後の気配遣り過ごす
あるがまゝ秋を愛でたる旅の人
久下洋子 |
行く道の枯葉ひとひら誰に似む
秋祭笛の音響く夜の舞
秋晴や皇居勤労奉仕団
小山昌子 |
樹木医の腰に木槌や小鳥来る
敷物の押へに置きし南瓜かな
石段の野外劇場昼の虫
斎藤幹司 |
辛夷の実赤を散らして鴉鳴き
西の空紫玉の酔芙蓉
柿の実はうぶな色なり葉は濃かり
純 平 |
秋の蚊に潜む魔物のデング熱
待つててね逝きて作るよ月の膳
病床に自分史繰りて月仰ぐ
高橋小夜 |
山んばの髪さながらに曼珠沙華
天井に秋の日差しのたはむれり
邯鄲やかそけき声に案内され
田中奈々 |
ポストより葉書読初む貴船草
新米の湯気の向かうに四世代
実むらさき源氏の姫の何思ふ
角田美智 |
すゝき原銀波をおこし風過ぎぬ
すゝき穂の続く裾野や白き風
木犀の香を残してや風過ぎぬ
永井清信 |
木の実落つ鞍馬寺(くらまじ)巡るけもの道
縁結ぶ貴船川床秋の宵
三井寺や鐘の音響き百舌の鳴き
永岡和子 |
裏庭を独り占めして時鳥草
人生の節目耀ふ星月夜
ちよつとだけ拗ねてみたきや休暇明
永嶋隆英 |
はらわたに秋刀魚が不覚宿しけり
天空をプロペラ機往く秋彼岸
ぎんなんのおほ母さんは子沢山
中村一声 |
黐竿を振りし少年喜寿迎ふ
花火尽き余韻に浸るしじまかな
花火師の大往生や揚花火
中村達郎 |
黄葉風静かに流る古刹かな
秋風や歩け歩けと背を押せり
カーテンを突き刺す雷(らい)の光かな
西川ナミ子 |
飛び跳ねて蔓の先なる烏瓜
山旅のトンネル飾る蔦かづら
籾焼の里にたなびく匂ひかな
森田 風 |
お洒落して集ひし山の紅葉かな
鳥の来て遊ぶ水面や秋入日
黄泉の国手土産したし柘榴熟れ
山口律子 |
主なく柿の重たく熟れてをり
秋時雨手持無沙汰の休刊日
秋水や鯉重なりて凌ぎ合ひ
山下文菖 |
億万の曼珠沙華咲く里はずれ
朝の水指の先より秋来り
荒畑や傾く黍のひとならび
山田詠子 |
秋の縁飛ぶ爪を追ふ祖父の背
子還りや熟柿ほほばる母の面
家計簿を伏せてちちろに耳すます
山田泰子 |
産直の新米手にし急ぎ足
あれもこれも干してながめて冬支度
親しげに蜻蛉止まりし肩の先
山平静子 |
秋怒る出水の被害痛む胸
齢積む御仁一芸文化祭
天高し虫歯の治療終了す
渡辺克己 |
盃に映りし月の兎かな
月光や闇に流るる水の音
飲みながら眺むる月の見立てかな
渡辺眞希 |
懐かしき茸飯炊く忌日かな
何処より風吹くを待つ薄の穂
旅半ば夕映えに聞く雁の声
2015年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page335538.html
2014年1-6月 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page316625.html
2013年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page279657.html