◆風叙音・fusionの句会より       (2013年1月-12月)

2013年12月句会より                    

  荒木キヨ子

眼差しは公園の子ら今日の月

実生なる万両の赤庭に映ゆ

境内のふる里出前日向ぼこ

  稲名慶子

大空や完璧主義の雪の富士

風集む今朝の落葉の輝ける

冬紅葉今が一番色澄めリ

  今村 廣

鴛鴦を撮る異人娘の目千両

大根引く根つこの意地を腕で聞き

塾帰り一時遊ぶ聖樹の灯

  加藤三恵 

古都恋し苫屋に憩ふ寒鴉

石のみの城址無常の風寒し

山城や麓の寺の鐘冴ゆる

  久下洋子

雲の峰神引越しの音魅せり 

年の瀬や暦増へたる部屋回る

本土寺の紅葉見る間の土産かな

  小山昌子

数へ日や銀行で読む週刊誌

事実のみ記すいしぶみ冬ざるる

冬の日や弾かれぬままに古るピアノ

  島影法子

岩釣りの声の聞こゆる冬の凪

あれこれと振り返りたき師走かな

冬富士に豊凶をみる暮らしかな

  純  平

おでん屋でスマホに見入る両隣   

霧深き里の恵みやお大根

新月や灯りを消して見える径

  高橋小夜

大根煮てとがる言葉を煮ふくめり

小面にモナリザの笑み年の暮

包丁を南瓜に入れてかみつかれ

  高山芳子

寒鴉ちよんちよんと猫誘ひをり

冬のはへ羽音鋭く玻璃戸打ち 

枯蟷螂風に吹かれて翅拡げ

  千代延喜久美

被災者の苦しみ今に冬の夜

軽やかなタンゴステップ冬の宵

与野党の攻防烈し師走かな

  角田美智

凍曇木々の実の赤極まりぬ

貼り替へし障子に揺らぐ夕陽かな

雲払ひ高きに在るや冬の月

  永井清信

早咲きの侘助香る時雨亭

吉野山桜紅葉のこぼれ落ち

籬垣を整へてゐる師走かな

  永岡和子

古暦果せぬ事の多かりき

霜除けの笹光りたる畑道

寒夕焼声なき沼を染め上げし

  永嶋隆英

秒針の音の鋭き夜半の冬

朝日さし老爺水やるつはの花

木守柿ダムを遁れし石仏 

  中村一声

裾枯れていふにいたはし菊人形

ものみなの底に法あり秋去来す

落柿舎や師の年越えて柿を食む

  中村達郎

破れ家の狭庭に映ゆる紅葉かな

手水舎に小さき手浄む七五三

鎌倉の蒼空染むる紅葉かな

  西川ナミ子

小春日や畳に刻む時早し

残んの月淀みに鴨の動かざる

吹き溜まり枯葉の奥に宝物 

  風  香 

渦潮や季呑みこんで冬来る 

冬紅葉錦の帯の通ひ道

猿だんご大きくなあれ小豆島

  山下文菖

去年今年父の齢に近づきぬ 

綿虫の綿の重さに翼とられ

どこまでも真紅際立つ櫨紅葉

  山田詠子

七五三袴姿の照れ笑ひ

一人居の切絵の目貼花模様

冬の虹誰彼なしに声をかけ    

  山田泰子

何もかも枯葉舞ふ如薄暮かな

雪の富士北の筑波に守られし

冬の日や付かず離れず白き月

  山平静子

投函の郵便重し歳の暮

走馬灯瞑ればあゝ青き月

日だまりやこつくりこつくり浮寝鳥

  渡辺克己 

ゆくがよし老犬の魂遅き秋 

走り蕎麦打ち手は軽しかをりたつ

風の神背負ひて来る落葉かな

  渡辺眞希

穏やかな山里眩し蜜柑狩 

富士遙か帆柱並ぶ冬の海

幼子の小寒き風に笑み浮かべ

2013年11月句会より                    

  荒木キヨ子

歌舞伎座の白壁眩し秋日和

括られて自由失せしや花芒

父祖の地や訪ふごとの稗の丈

  石井沙子

蒼空へ聳え彩る銀杏かな

山茶花の香りし昼のティータイム

ジャズライブ君なき冬の別れかな

  稲名慶子

抜かれ抜かれつひに追ひつく秋登山

あかげらの木琴の音轟かす

運動会綱引きパパの本気顔

  今村 廣 

今時に老いが智慧貸す七五三

魚の目に脈動集ふ夕時雨

雪吊りや喜寿の庭師の技仕舞ひ

  加藤三恵

健診の青き血管そゞろ寒 

掛け違へし釦そのまゝ喜寿の秋

一村の沈みし湖に紅葉散る

  久下洋子

小春日の山に登りて笑みの顔

ジャズライブ枯葉の舞ひに酔うてをり

混浴の露天湯入るや紅葉燃ゆ

  小山昌子

カンバスに淡き木漏れ日冬はじめ

冬ぬくし浮きの先より波の紋

ストーブのほむら聞きをる山の宿

  純  平

木犀や今朝のマドンナ足早に   

嵐山粧ひて傷いえし川

犬ともの老々散歩萩の径

  高橋小夜

飛行機雲秋天一本つきぬけり

残菊を戦禍伝へし新聞に

人捜し広報車行く暮秋かな

  高山芳子

とろろ飯これが大事と云ふ家人

銀杏散る並木はいつも淡き恋 

木犀や表札はいま知らぬ人

  千代延喜久美

足早に手紙を出して冬ざるゝ

今年また栗御飯炊く亡き夫に

千年の山寺似合ふ紅葉かな

  角田美智

香ほのか庭木の映る障子かな

捨つるものみな捨て清し冬木立

短日や喪中葉書のまた届き 

  永井清信

星月夜狭庭を少し照らしゆき

千葉の山粧うて彩れり

日の暮の楓も蔦も黄落す

  永岡和子

牛鍋に一家言ありクラス会

山を背に日向ぼこせし道祖神

旅に出て阿修羅をろがむ小六月

  永嶋隆英

雲も葉もシャッポも奔る野分中

急ぐ秋ポニーテールの揺れに揺れ

盲導の犬の眼ざし秋日和 

  中村一声

台風や季一つづつ置き去りぬ

振り仰ぐ天に一つの柿紅葉

清流に手をひろげ行く紅葉かな

  中村達郎

千本の秋桜揺るる風の波

昼の月マリンタワーと並びけり

蕎麦屋にてジャズの流るる秋の暮

  西川ナミ子

道半ば家路せかする初時雨

来し方を窓に写せし秋の庭

幼子の母に背伸びす冬支度 

  山口律子 

トロッコにみな着脹れて冬紅葉 

颱風過夕陽の包む被災痕

煖入れて炎の語る朝となり

  山平静子

お身体の具合は如何冬の言 

冬シャツをさらに一枚朝の張り

柚子湯入る老いの楽しみ隠庵

  山田詠子

短日や煮豆香りし厨の灯

端然と背広にありて赤い羽根

廃屋の影風渡る曼珠沙華    

  山田泰子

手を掛けし小菊匂ふや夕深し

新米の炊ける香りのいとほしさ

木々の葉も土も朱に染めあゝ錦秋

  渡辺克己

母残すフィルムのかびの温めをり

枝擦れて薔薇ばらばらの風のあと

月浴びて揚がりし舟や海の町 

  渡辺眞希 

手付き籠あふるる柿の水彩画 

寄り添ひて池の端咲く貴船菊

燈台のなほ真白きに秋の空

2013年10月句会より             

  石井沙子

柿の落つ嵐のあとの贈り物

年古りて手鏡貰ふ秋日和

秋野菜大どんぶりの昼の膳

  稲名慶子

敗荷や△□○あらず

逝く秋や一本の道漕ぎゆかむ

曼珠沙華群るることなく古稀となり

  今村 廣

冬うらら赤子の匂ひ抱くふたり

のど飴をポッケにひとつ今朝の冬

たぢろぐや冬蝶縋る縄暖簾

  加藤三恵 

スペードのクイン秋風に裏返る

秋霖や夢の断捨離学徒兵

きのこ飯焚くや電子の喋り出す

  久下洋子

秋暮れて湯葉饅頭を頬張れり 

庭先の蜻蛉戯れ我憩ふ

埠頭越へ百合鷗居て海見たり

  小山昌子

いのこづち飛ばして犬の胴震ひ

小さき手のしかと握りし木の実かな

行きずりの人の言祝ぐ七五三

  純  平

尊厳死念押す母や曼珠沙華

秋空や鎖国破りし本塁打

洪水のあとの稲刈り手間をかけ

  高橋小夜

掌の中にきちきちばつた力満つ   

あるがまま生きたきやうに萩の花

蜩の声にせかされ席を立つ

  高山芳子

奥深き里に柿見てバス抜ける

いわし雲武甲の山と対話せり

曼珠沙華赤き毒かぐイグアナや

  千代延喜久美

野の花に戯れてをり秋の蝶

秋雨や今日も来らず親子ねこ 

病得て老いを感ずる秋の暮

  角田美智

白菊や日毎置く露深まれり

櫨紅葉まづ一枝より始まりぬ

落葉掃き台風禍など話し継ぎ

  永井清信

秋深し嵯峨野を紅く染めにけり

伊勢路かな神の引越秋の宵

モンタナの大いなる秋娘嫁(ゆ)く 

  永岡和子

鯣食みつローカル線の紅葉酒

菊膾一年ぶりの九谷焼

客ありて新蕎麦を打つ主かな

  永嶋隆英

靴下の穴に櫛目や秋簾

曼珠沙華白きに烟る観音堂

そぞろ寒髪切る鋏音のせり

  中村一声

柿紅葉生きし証となりしとか

旅人の闇夜に寄り添ふほたるかな

降るほどの雀に屹立(た)つる案山子かな 

  中村達郎

父好み煙草を供ふる秋彼岸

杣人の汗して見あぐ青き空

妻の行く同窓会や秋日和

  比企芳子

影日向これはうつし世彼岸花

押し寄する霧に隠るる只見線

吾亦紅文字の薄るる道標

  風  香

帆曳船秋風受けて古へ

貧乏神「しめぢ」旨しと囁きて

北の川命繋ぎて鮭還る 

  山口律子 

逃ぐる蛇渡りをへたり宮の池 

菊日和母と同居の一年や

気掛るもただテレビ見し夜長かな

  山平静子

星月夜突き抜けてゆく緊張 

昼下りのたり着地の秋の蠅

みーつけた鳩(はーと)時計の冬の虫

  渡辺克己

孫とゆく風を孕みて雲の峰

母葬送(おく)るかたはらにあり草の花

枝豆を夫婦でむしる日蔭かな    

  渡辺眞希

いのち継ぐおさなご抱きて墓参り

山粧ふ尾瀬に響くや鈴の音

秋澄むや舟唄響く最上川

2013年9月句会より                                                                                            

  石井沙子

静寂や虫の音を聴く夫ありて

嫋やかに生きてホームの夏終る

水引草赤き小花の美(は)しきかな

  稲名慶子

木道の休憩長し赤蜻蛉

空青く山霧通す八方池

鳥海山(ちょうかい)の引つ張るごとき稲穂かな

  今村 廣

爽籟や出船の銅鑼と旅鞄

こぼれ萩避けて八十路の確かな歩

鼻歌やガリ版の譜の赤とんぼ 

  加藤三恵 

夏過ぎて岩透きとほる露天の湯

明月に叢雲アガサクリスティー

猫まぐろ人は鰯の夕餉かな

  金森眞智子

恩師逝く護国寺の庭蝉時雨 

紺浴衣鏡の中に妣を見ゆ

浮き浮きと祭囃子が風に乗り

  久下洋子

名月の輝き増すやツリー越し

秋日和鳥と戯る白頭翁

カメラ手に我も見入るや曼珠沙華 

  小山昌子

手を上げて電車見送る案山子かな

群れ遠く開く一本曼珠沙華

穂芒の大きく揺れて通過駅

  島影法子

鬱の日は向日葵柄の服を着る   

蝉時雨かな文字の祖と対話する

闇裂きてリズムに踊る揚花火

  純  平

片蔭や伝ひ伝ひて外廻り

盆の里会釈してから何処の誰

かなかなやその日その日で今日も鳴く

  高橋小夜

この路地の月こそ月の名所かな

かくれんぼ鬼さみしくて木槿咲く

一粒が一粒を呼ぶ夕立かな

  高山芳子

片付けし夏帽の皆悄然と

犬吠の虹や同胞志す

髪洗ふ検査前夜に力込め

  千代延喜久美

台風の進路にありし初任地名

待ち望む報せのありて秋日和

名月や旅に出でたる子を案じ

  角田美智

赤まんままゝごと遊びの友逝けり

来し方を語りつ過ぐる良夜かな

野分過ぎ月中天に輝けり

  永岡和子

鈍行を乗り継いで来て村芝居

縁側が社交場となり秋茄子

半世紀庭に咲き継ぐ曼珠沙華

  永嶋隆英

影の舞ふあからさま也黒揚羽

炎帝が脳天めがけ火矢射れり

シベリアを語れば重し敗戦忌

  中村一声

悲哀とは生きることなり盂蘭盆会

土器(つちくれ)の自分史刻む銀河かな

空蝉や生きし証の句會なり

  中村達郎

鉄骨の錆に幾年(いくとせ)広島忌

妻と歩(ほ)す夏の越後の影法師

蝉の声限りのあるを惜しみけり

  西川ナミ子

無花果の葉蔭や蟻の小宇宙

歩荷行く後姿や秋の風

木道に休みし頃や鳥頭

  日 差 子 

残月に鉢の朝顔藍を解く

白木槿揺れてピントの定まらず

蠟燭の焔盛るや葉月尽

  風  香

つかの間の 「流しカワウソ」 涼となり 

空蝉のなぜにしらがみこがすのか

逃水やきらきら揺れてかくれんぼ

  三上節子

艶やかな肌の光りて長なすび

うそ寒や古家の並ぶ漁師町

紺碧の大海原に白き船

  山口律子

不揃ひをバケツに盛らむ梨街道

久闊を叙して仲間と暑気払ひ

狭き庭はぐれトマトのひとつあり

  山田詠子

芒原に招き送られ陸奥の旅

嵐過ぎ葉蔭にひそむ萩の花

涼風に小犬居座る三和土かな

  山田泰子 

耳澄まし原の秋草ガイド追ひ

無花果の熟れた香りの昼下り

鈴鳴らし行き交ふ木道秋茜

  山平静子

秋曉や妣に抗ふ吾をみし 

蜩や読経の声のたなびきて

鎌をあげ振り向く蟷螂ドアーマン

  吉沢美佐枝

をちこちに稲刈る音の谺して

コスモスの知りつくしたる風の癖

靄がかる甲斐駒遙か花野風

  渡辺克己

母逝けり炎天ホーム音もなし

新涼やふと聞こえけりパルティータ

朝寒やなほ際立ちてコロッセオ

  渡辺眞希

風まかせ揺るるコスモス富士を背に

あてもなく被災地巡る暮秋かな

人気なき飯舘遠し寺の秋

2013年8月句会より                             

  石井マサ子

若衆の揃ひの浴衣祭り跳ぬ

百日紅吾はひとりで紅茶飲む

空高く向日葵仰ぐわらべかな

  稲名慶子

午睡癖母の残せしものひとつ

億年の夏雲遊ぶ遠山郷

遠富士の覗いてゐたりお花畑

  今村 廣

海風にむかひ磯鴫佇ちにけり

潮の香の髪に貼り付く残暑かな

還る児に茄子の馬脚釣り合はす 

  加藤三恵 

明八ツ迷ひを断てと蚊のうなり

学僧のバイク風切る盂蘭盆会

敗戦忌薯奪(と)り合ひし兄病めり

  金森眞智子

紫蘇ジュースワイングラスに注ぐ夕 

置物と見紛ふ蛙木戸の陰

梅を干す三日三晩の楽しみや

  久下洋子

打水に一瞬の笑み満ちにけり

夏痩せや流るる汗の皺伝ひ

抱き起こし児とみる花火ハート型  

  小山昌子

瀬の石の淡く掠れて晩夏かな

池の面の影確かなり糸とんぼ

箒目の朝の公園白むくげ

  島影法子

すれ違ふ浴衣の子等の急ぎ足   

音もなく打水ありき古家かな

夏の星落つと騒ぎし都会の子

  純  平

切通し薫風通ふ武家の跡

紫陽花やくすみて葉芽抱きをり

節電や冷房止めて自堕落に

  千代延喜久美

混迷の続くエジプト炎暑なり

向日葵を見上げ早朝散歩みち

擦れ違ふ脂粉の香あり宵祭

  角田美智

草紅葉山裾なべて色づけり

秋時雨置かれしまゝの路地草履

流星を数ふる夜の静寂かな

  永岡和子

遊び過ぎしつぺ返しの秋の宵

涼新た二つ返事の旅支度

指先の語る恋歌風の盆

  永嶋隆英

乳飲子の円らかな脛(はぎ)蚤の跡

炎帝や尾長の低く川面こゆ

鈍色の棟を覗いて遠花火

  中村一声

一条の雲にほゝえむ案山子かな

初蕎麦の句箸の袴にしるしけり

悲惨やな八月貫く蝉時雨

  中村達郎

夏の夜のおけさ聞こゆる佐渡の宿

炎天下日蔭をちこち求めけり

木天蓼(またたび)の白き葉先に佐渡港

  西川ナミ子

送り火や焔のゆらぎはてるまで

アスファルト蝉の躯の軽さかな

打水を済ませ盆僧迎へたり

  三上節子

陽射し受け満面笑みの向日葵の花

生ひ茂る径の中の蝉の声

噴水の飛沫の向かう色の彩

  山口律子

窓越しにトマト案ずる老父かな

鰺釣りや太公望の夫自慢

映画館夢の中なる冷房下

  山田詠子 

夏真昼列車揺らめき入りにけり

夏夕べ遊ぶを惜しむ子等迎へ

老姉妹行きつ戻りつ夏の談

  山田泰子

秋茜喜び満ちるこの世かな 

星の如檪の実成る径かな

秋草の群るる山の湯山の宿

  山平静子

霹靂(へきれき)の先導有りて平家御邌(ね)

ゲリラ雨花火の華の萎れけり

熱中症供華(くげ)の器に氷水(ひみづ)注す

  吉沢美佐枝

パリジェンヌに現抜かすな古酒の酔ひ

大西日散らして立つる潮煙

溪谷の底石透けて水の秋

  渡辺眞希

雄叫びの高く野馬追武者駆くる

初孫や無垢な寝顔の涼しさよ

今となり故郷想ふ盆の入り

2013年7月句会より           

  石井マサ子

雀二羽葉隠れ深き大暑かな

子等遊ぶ紫陽花大き手毬なり

霖雨中老鶯鳴きていとすがし

  稲名慶子

あぢさゐや雲の切れ間の逆富士

飛んでゐる「西行桜」てふあやめ

譲られて横断歩道涼しかり

  今村 廣

帰省爺へ祝儀の網打つ同い年

キャンピングカー八十路の夢の宝くじ

小康の妻鼻唄で髪洗ふ 

  加藤三恵 

七夕や去年の願ひまだならず

万緑や読経にゆるゝ平林寺

蜘蛛あやし忍者の本の読み疲れ

  金森眞智子

川音や稚鮎天麩羅ほろにがき 

風薫る奥多摩しぶきキャンバスに

梅雨闇の浅間神社気を受けし

  久下洋子

荷物手に子どもの笑顔夏休み

扇風機回る風向き身を変へる

向日葵の顔見上ぐるや背比べ  

  島影法子

青葉雨人影見えぬ千枚田

姫女菀群れてそよげる白花壇

息子来る梅漬けの手を休めたり

  純  平

梅雨晴間癌検診の帰り道   

手を添へて菖蒲田巡る夫婦かな

新樹光古る庭の主替りけり

  高山芳子

炎昼の駅の名胸に年経ても

ぶんぶんや忽ち構へし眠り猫

幼の日遍路を怖き人と見し

  角田美智

老鶯や我が身重ねむ山の家

古へ渡る銀河や遠き恋

凌霄(のうぜん)を切子に浮かべ人を待つ

  永井清信

屋形船揺れて隅田の川開き

朝顔やひときは冴ゆる鬼子母神

また来たや賀茂の河原に納涼(すずみ)をり

  永岡和子

蓮の花四日命で終りけり

乗客は香る浜木綿無人駅

おばんざいふた手間かける夏料理

  永嶋隆英

あぢさゐやいろいろの色いろいろし

太刀魚の偲びて綺羅や海のいろ

汗流す富士の絵背(せな)の湯船かな

  中村達郎

梅雨走るいにしへの傷疼きたり

火取虫子等が総出の村芝居

蜀葵(からあふひ)風に向かうて凛と立ち

  中村匡克

堂々と紫陽花の降る山路かな

沙羅の花寂と建ちたる古刹かな

捩花の捩れて咲くも神意かな

  西川ナミ子

お囃子に弾む白足袋夏祭

初蝉の空気ふるはせ生まれたり

落水の響く青田や子等の声

  日 差 子

夏霧の宿坊に来て動かざる

短編に折り目のいくつ桜桃忌

張りつめし雨の重みや額の花

  風  香

良寛の館の主や青大将

うりずんや命集ひて水光る

菅平アサギマダラと初対面

  三上節子 

花菖蒲江戸むらさきの色に咲き

蓮の葉に同化してゐる雨蛙

群れ咲くやうす紅色の百日紅

  山口律子

神主が祝詞をあぐる夏木立 

夏燕雛の姿にシャッター音

夏の月黙(もだ)して歩く夫婦かな

  山田詠子

空蝉を朝陽に残し旅立ちぬ

汗光る背(せな)に勲章名古屋場所

炎熱や風沈黙の昼下がり

  山田泰子

夏小路枝垂れの葉蔭さがしつゝ

今日も吹く青田の風は天の風

咲いて華さくらんぼ食みやがて樹皮

  渡辺克己

多弁なる薔薇微笑みて妻の手に

花菖蒲ゆるる風聴くシルエット

紫の風の流るる花菖蒲

  渡辺眞希 

薄紅の泥水に咲く蓮見かな

父の為さらりと贈る夏帽子

川床涼み紅の素麺流れ行く

2013年6月句会より                                                                                               

  稲名慶子

豪商の大き河骨庭守る

飾られて陶枕の夢はてもなし

それそこに八重の十薬東慶寺

  今村 廣

額の花遺影の笑みの幼けり

梅雨月や眼鏡拭く間の雲の切れ

藻の花咲く彼の世のごとき波頭

  加藤三恵

夏祭幼子下駄をもてあまし

猿芸の猿を惑はす走り梅雨

梅雨寒や読めぬ己が走り書き 

  金森眞智子 

緑蔭や寺のくぐり戸傾げをり

青嵐八方睨む鳴きの龍

五月晴格子の奥の京言葉

  久下洋子

退院の時の来りて薔薇の花 

梅雨空のビルの谷間にグラス上げ

紫陽花や恋の深さは変はるまじ

  小山昌子

黙契のごと病葉の散り初めリ

多羅葉に一句記すや夏の旅

ポスターの人微笑めり夕薄暮  

  島影法子

行くべきか留まるべきか男梅雨

高らかに子を呼ぶ声や風光る

水無月に生れし人なり七変化

  高山芳子

愚図愚図と出掛けぬことよ五月晴   

運動会太鼓一打に総毛立ち

聖五月友を支へし組体操

  千代延喜久美

長梅雨や末路は哀れ椿姫

栗の花咲きて知らせる墓参かな

ジャスミンの香の有るペリーロード行く

  角田美智

藍に染む南仏の夏エトランゼ

仙翁の朱の鮮やかや沖縄忌

夏桔梗凛とあたりを払ひけり

  永岡和子

毛虫焼く我は助太刀頬被り

上高地まらうどとなり夏炉焚く

病癒え歩幅戻れり青嵐

  永嶋隆英

巣燕の語り合ひけりやらず雨

朝ぼらけ十薬咲くを争へり

リハビリの扇風機首振りしげし

  中村達郎

青臭き曲りきうりの旨きこと

日傘揺れ三々五々の立ち話

震災の涙の数や光る風

  中村匡克

鯉のぼり風の心のまゝに生き

さまざまな節目にありて桜かな

蕺菜の白き十字架手のひらに

  西川ナミ子

園庭の声あふれ来る梅雨晴間

庭あれど猫の額の草を引く

指先の覚へ無き蚊の赤さかな

  日 差 子

雛罌粟の疾風に五輪支へあひ

ポストまで青葉幾重に洗はるる

いつせいに鎌をかまへて子蟷螂

  山口律子

梅雨あがる生きがひ求(と)めて初句会

梅雨走る西に向かひし子等の旅

父の日の集ひし者の破顔かな

  山田詠子

総立ちの芒(のぎ)が天突く麦の秋

厄除けの頭を過ぐる若葉風

あとさきに鳥居くぐるや夏の蝶

  山田泰子 

走り梅雨竹しなだるる御堂かな

梅雨寒の母の郷なる地に立てり

麦秋の路往く先に磨崖仏

  渡辺克己

春遅し影の長きに空暮るる 

春浅しソフト帽子と黒き背と

白球や飛ぶ声高く山笑ふ

  渡辺眞希

彩りを添えし水彩花菖蒲

蒼穹のもと雷鳥に出会ひけり

あやめ咲く白無垢姿の船出かな

2013年5月句会より                                                                                               

  今村 廣

亀鳴くを待つ少年の「いぢめ」論

そら豆や莢剥く指の年季胼胝

漁夫帰る朝焼けを背の影睦み

  加藤三恵

母の日に母が語りし一世紀

花泥棒白芍薬に手を出せず

五月晴庇借ります仁王様

  金森眞智子

春彼岸折り目正しき人に会ひ

ビルを背に皇居の緑静寂に

若葉してタイムスリップ大手門 

  久下洋子 

浅草に神輿を呼ぶやそぃやの声

いにしへの栄華をかさね三社祭

年ふりて庭のあやめの眩しかりけり

  小山昌子

筆太の回向柱や出開帳 

側溝の水音高し夏つばめ

手をつなぎ測る大楠風薫る

  島影法子

なつかしき詰襟服や花水木

つつじ路終の住処となりにけり

藤棚に何ぞ読む人静かなり  

  純  平

たらちねの掛布薄きや別れ霜

男坂山滴りて急ぎ足

珍客や蝶二羽庭に舞ひ来り

  高山芳子

白藤の廻廊を抜け珈琲屋   

金蛇の地にはりつくや凍てし足

寺に生る牡丹に住みし雨蛙

  千代延喜久美

薫風に親子のペダル軽やかに

ベランダに小さき幟の立ちにけり

海老漁の船次々と初夏の海

  角田美智

鳥食みし赤き桜桃道の辺に

雪渓を見上ぐる麓風そよぎ

若葉風小さき果実を揺らし過ぐ

  永岡和子

夏座敷ハンチング帽の掛りをり

病葉の凛と目立ちて潔し

供へしは翡翠色なる豆御飯

  永嶋隆英

三輪車蹴つては蹴つて端午かな

初燕到着到着隣町

万緑に百合樹の花ざざめきぬ

  中村達郎

五月晴散歩せしかなグライダー

見あぐれば晴るも曇るも五月富士

一連の目刺のごとく鯉幟

  西川ナミ子

故郷へ重なる想ひ桐の花

新緑の島々抱へ落暉かな

新緑や石段登る杖の音

  日 差 子

うつすらと春の塵おく三春駒

春眠や夢の階段踏み外す

花は葉に久びさ歩む一万歩

  風  香

たんぽぽの綿毛の旅を送り出す

フラダンス薫風に乗り腰揺るる

薔薇中に蝸牛の子仮住まひ

  山田詠子

学童の声つき抜けて風薫る

北国に足踏みをする桜かな

さ緑の欅並木に風さやぐ

  山田泰子

夏桑の冷茶飲みほす木蔭かな

右左滝重なりて覗きたし

五月田の雲も心も水鏡 

  渡辺克己 

春泥にたぢろぐ老犬(いぬ)の我が身かな

寒空の犬静かなり長談義

青空やナイスショットに山笑ふ

  渡辺眞希

高尾山老鶯誘ふ男坂 

五月富士くつきり山影映しけり

雛罌粟や過ぎし想ひ出友偲ぶ

2013年4月句会より            

  石井マサ子

花びらを散らす嵐や心乱るる

径ありて行けば緑の千枚田

飴切りの音軽やかや秋祭

  今村 廣

八十路いま敵の一人の杉花粉

草焼くや頰撫づる風立ち上げて

肥後守探す抽斗啄木忌

  加藤三恵

花過ぎてしばしたゆたふ隅田川

大朝寝目覚まし止めし記憶なく

墨堤や春灯にじむ雨上り 

  久下洋子 

疾風立ち踏ん張りてをり芝桜

花冷えの琴の音待つや山本亭

春颯(はやて)舟の流るる矢切かな

  小山昌子

花粉症男の長き睫毛かな 

思ひ出を繙くやうに粽解く

一日に一本のバス山笑ふ

  島影法子

諸葛菜群れて艶めく薄暮かな

手拍子に良き声聞こゆ花宴

海おぼろわき立つ富士のやはらかさ  

  純  平

足痒み早まる目覚め啓蟄ぞ

故郷の雲雀かしまし耕耘機

東風吹くや震災二年道険し

  千代延喜久美

主無き庭に今年も木瓜の花   

歌舞伎座の杮落しや春の雨

葉桜のトンネル潜り歯の治療

  角田美智

夜桜や少し色濃く月昇る

人縫うてなほも流るる落花かな

花吹雪美の終焉の極みかな

  永岡和子

吉高の孤高を守る山桜

鈴蘭や教へたまひし君何処

学舎の裏手鎮もる甘茶寺

  永嶋隆英

蒲公英や野良に三毛猫とろめきぬ

虚空(そら)と地や息吹いつきに花の満つ

かたくりの花よ笑へよ面(おも)あげよ

  中村達郎

風一陣落花のなかに独りをり

堅香子や蒔絵の如き城山路

小春日や四肢を投げ出す三毛の猫

  西川ナミ子

山肌を彩る木々の芽吹きかな

うち揃ひ目出度き年の花見かな

病院の窓一瞬の燕かな

  三上節子

春暖ややうやくお外でよちよちと

つくしんぼ今年も元気に顔を出し

庭の隅より匂ひくる沈丁花

  山田詠子

日溜りや子犬の鼻と花はこべ

芹の椀茶の間に香るおもてなし

藤の香に乗り友逝けり宵の道

  山田泰子

祝の日満天星つつじ煌めきて

白き葉に蚕豆の花待ちこがる

八重桜夕べの嵐耐へしのび

  渡辺眞希

久遠寺の鐘の音響き桜揺れ

ふたたびの甲斐路歩きて桃の花

山越えて古刹巡れば花御堂

2013年3月句会より                                                                             

  石井マサ子

おぼろなる木立の先の奥の院

筑波嶺の小町の郷や春がすみ

吉野山隅ずみまでの桜かな

  今村 廣

大の字に尾根の耳打ち芝青む

彼岸会やおはぎの餡は在所物

薬瓶に挿す風折れの花つぼみ

  加藤三恵

人生に定年はなし春疾風

茶柱の半立ち暦のみの春

春昼や調子ッ外れのオルゴール 

  金森眞智子 

床の間の啓翁桜ほころべり

春めきて心浮き立つ旅だより

房総の波の手前に金盞花

  久下洋子

藪椿トンネル出ればかすむ富士 

風立ちて花柄赤きマフラー舞ふ

春散歩垣根にボトル猫入れず

  小山昌子

公園の固き砂場や梅香る

堰となる小枝一本光の春

料峭や入院支度の旅鞄  

  島影法子

春来る刺子の針を急がせて

新しき眼鏡にうつる春の色

幼子の声響かせて春は来し

  純  平

子規庵や膝立てて見る枯糸瓜   

街角にモンロー出づる春一番

鬼も内自他共栄の節分会

  高山芳子

春雨や日本語学ぶ母子の来

「おはやう」 がバラバラに散る春嵐

路地裏に子猫を抱いて梅の花

  千代延喜久美

回り道してまで愛づる桜かな

宙さして伸ぶる隣家の辛夷かな

赤と黄縦横無尽にチューリップ

  角田美智

父母眠る寺や万朶の花の中

春嵐落花狼藉して過ぎぬ

独人居の昼の静寂や椿落つ

  永井清信

暖かや白壁並ぶ萩の街

しまなみの海より眺む春の色

ゆらゆらと安芸の宮島かすむなり

  永岡和子

通勤の頭掠めし夏つばめ

花冷や路上ライブのネオン街

日溜りや見知らぬ人と土筆摘み

  永嶋隆英

春ざれや車窓を乙女眺めやる

草の芽の背丈いつぱい陽を受けて

(ふる)びたる梅に鶯鮮(あたら)しき

  中村達郎

雪解けの路を捜しつひよいひよいと

水温む湖・河・沼に鳥遊ぶ

梅一朶ぽつと咲きしや青きなか

  日 差 子

腹這ひて蕗の薹撮る漢(をとこ)かな

下萌や土竜(もぐら)の穴の黒ぐろと

薄氷(うすらひ)の溶けゆく迄を語り合ふ

  風  香

オリオン座煌く夜道襟を立て

水守る田んぼに命集ひけり

土の中深夜に背伸び霜柱

  三上節子

臘梅の馥郁たる香垣根越し

山笑ひ野球少年声高く

眠りたる庭に小さな福寿草

  山田詠子

朝もやに胸はる犬の二月尽

待ちわぶる靖国の花五つ六つ

春荒れて天地静まる今朝の雨

  山田泰子

了仙寺下田の海に春来り

夜桜に酔ひしれてもう帰り道

原木の河津桜に魅せられて 

  渡辺克己

鬼やらひ父の二の二の下駄のあと

子供らのおどけた鬼面節分会

かたはらに紅かたき牡丹かな

  渡辺眞希

盆梅を客待つ部屋に飾りけり

古民家に雛壇飾るなつかしき

しだれ梅ひと足止まり風揺らぐ

2013年2月句会より                                                                    

  今村 廣

春泥の大地に己れ捺(お)して行く

スノードロップ育てしひとの如く咲き

北寄貝届く故郷の顔をして

  加藤三恵

サイレンの音いや近し寒の夜半

終点の駅残雪にぬかるめり

紅褪せし唇元隠す白マスク

  金森眞智子

しんしんと降る雪ありて郷想ふ

成人の日足元なれぬ雪の道

寒椿蜜を求(と)め来る番鳥(つがひどり) 

  久下洋子  

嫁入りの夢叶はぬかひなまつり

静謐(せいひつ)を包み込むごと猫柳

人想ふバレンタインのハートチョコ

  小山昌子

いち速く猫が座りし雛の段 

宿で聞く昔話やしづり雪

下萌や人まばらなる外野席

  島影法子

小春日や老犬いれて乳母車

見舞道行きも帰りも冬木立

狭き庭主問ひたき枯芙蓉  

  純  平

悴みてみみず這ふごと五七書き

大雪のブーツで向かふ成人式

悴みて財布開かぬ朝の市

  高山芳子

初手前盆の中ある楽茶碗

初凪や空に一掃き白き雲

巳の年と云はれて姉は初参り

  千代延喜久美

父と子でキャッチボールや春隣

山茶花の形好(よ)き垣しばし見て

臘梅の香の海くぐり玄関へ

  角田美智

遅き日や語り尽くせし友送る

(とき)果つや山茱萸の黄のこぼれ初む

森日永塒に帰る鳥のあり

  永井清信

如月の滞る雲の厚きかな

寒暖に葉牡丹の色変はりゆき

籬垣(ませがき)の椿の咲くを待つ日々や

  永岡和子

道標探して廻る春一番

ミモザ咲く遙かニースの甃(いしだたみ)

(かんじき)を履きて大地を独り占め

  永嶋隆英

雪いつとき憂さと芥はそこに閉づ

たらたらと鱈ちり鱈腹平らげり

をさな子を見やりて転けし雪間かな

  中村達郎

初雪や親子の靴の跡並び

大寒や祝詞の吾が名ききもらす

一吹きに鳥居をくぐる空つ風

  西川ナミ子

春浅し病棟の子ら母を待つ

引越しの部屋に残りし寒さかな

春北風(はるならひ)躍り川面を吹き分けぬ

  日差子

風駆けてどどつと松に雪柱

酒好きの客に一汁寒蜆

箱火鉢父の仕種に灰均す

  風  香

冬芽立ち百面相で待ちこがる

雪の原ひつそり歩き跡残す

満面の笑顔なるかな雪椿

  三上節子

かさかさと北風に鳴る棕櫚の針

春泥を避けてママチャリふらふらと

冬空に飛行機雲のすぢひとつ

  山田詠子

春霙古木の枝に舞ひ降れり

日だまりに笑顔呼び込む猿廻し

息白し黙(もだ)して急ぐ停留所

  山田泰子

春寒の行き交ふ散歩笑み交はし

校庭の若き声する春の風

春野菜多きに迷ふ無人店 

  渡辺克己

斜光線ハラリと一葉落ちにけり

枯木立池静もりて雨のあと

牡丹の芽紅色の硬さかな

  渡辺眞希

初雪の父子で拵ふアヒルかな

浅羽振る風よ葉牡丹描き出す

寒牡丹朝陽注ぎし菰の中

2013年1月句会より                                                             

  今村 廣

九十二翁生きた証の独楽と紐

明眸のほやほや二十歳雪降れり

余生とは今かも知れぬ鮟鱇鍋

  大月栄子

群鳩の大きな弧あり初御空

遮断機の棹の直立冬の空

まだ開かぬ踏切で待つ日向ぼこ

  加藤三恵

雪はげし名の無き猫を待ちわべり

初明り卵の命透きとほる

北颪負けなば賊よ会津藩 

  小山昌子  

祈る人なべて照らしぬ初明り

幕間のはなびら餅や初芝居

学校のチャイム響けり冬木の芽

  島影法子

水仙花ひそやかなれど香の語る

初詣富士を右手に島渡る

華やかな時は短し枯芙蓉

  純  平

年の瀬や年金の身のせはしなく

御用納め急ぐ靴音空港へ

初詣八十路目途にまづ一歩  

  高山芳子

病癒え蘭が咲いたと君は言ふ

詠初をメールで受けし若き友

断崖にSFのごと風車群

  千代延喜久美

子供等に老婆すすめる柚子湯かな

初日さす庭に鳥影二羽三羽

蒼穹の下冬桜映えにけり

  角田美智

凍星や帰り行く子等見送りぬ

蹲の青竹清し初稽古

はこべらのはや青く生ふ雪の下

  永井清信

新潟・鍋茶屋にて  冬座敷越乃寒梅交はしけり

初春や戸定の庭の咲くを待つ

初夢や富士もなすびも出でてこず

  永岡和子

餌台に長幼ありて梅古木

誓ひ合ふボケサビ法度の初参り

母描きし花水仙の匂ひたち

  永嶋隆英

はつまゐり御仏いづく仮御堂

老ゆる手を曳く手の老えし冬うらら

あさなあさな軒の賑はひ寒雀

  中村達郎

屠蘇干して引き締む古稀を志す

銭洗ふ白き指あり初詣

風寒し脊(せな)をまるめる朝の人

  西川ナミ子

初雪の軒に残りて音軽し

餅を背に小さき一歩冬座敷

神主は持回りなり初詣

  三上節子

四季桜紅葉に雑ぢり凛とあり

月冴えてくつきり浮かぶ相模かな

ピラカンサ朝日を浴びてつややかに

  山田詠子

語り部の声朗々と息白し

大君に参賀の旗と清き空

雲水のほどけし草鞋枯葉舞ふ

  山田泰子

大根よ抜けとばかりに飛び出づる

空青し白菜地蔵縛られて

降る雪にしばし別れの友の顏

  渡辺克己

硝子戸にしのぶ冷たき戸定邸

冬の日や影やはらかく戸定邸

冬の垣乱れて時をしまひをり

  渡辺眞希

会はぬまま賀状交はして老ゆるかな

藤の花足をとどめて見惚れたり

立ち進みしりとりで待つ初詣

 2015年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page335538.html

 2014年10-12月 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page0006.html          

 2014年1-9月 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page316625.html

 2012年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page239228.html

 2011年 ⇒ http://fusion.p-kit.com/page202741.html