幸せを運ぶ十七音

 

■立山の北壁削る時雨かな
(棟方志功)
 
■わが魂は海獣ならんと欲す
(石原慎太郎)
 
■不二筑波一目に見えて冬田面
(三遊亭圓朝)
 
■ぼたん雪が流れに消える 鳥の羽おと
(河村目呂二)
 
■夏の野に幻の破片きらめけり
(原 民喜)
 
■ギヤマンの船だす秋の港かな
(竹久夢二)
 
■寒鯉やたらひの中に昼の月
(小津安二郎)
 
■御山のひとりに深き花の闇
瀬戸内寂聴)
 
■間断の音なき空に星花火
夏目雅子)
 
■蓬餅あなたとあった飛騨の夜
吉永小百合)
 
■秋の陽をまぶたに乗せて駱駝ゆく
吉行和子)
 
■にごり江に夕日のあはし鴨下ル
市田ひろみ)
 
■天涯に一粒落ちて冬木立
(中島誠之助)
 
■菜の花の群れから離れ独り咲く
(増田明美)
 
■稲妻の去り行く空や秋の風
(稲妻雷五郎)
 
■顔見世や奈落に消ゆる御曹司
(大澤孝征)
 
■亡き妻が眠りし庭に彼岸花
(日野原重明)
 
■秋灯机の上の幾山河
(吉屋信子)
 
■陽炎に狐ふりむき消えにけり
(吉村 昭)
 
■目つむりていても吾を統ぶ五月の鷹
(寺山修司)
 
■水難の茄子畠や秋の風
(若尾瀾水)
 
■花はみな四方に贈りて菊日和
(宮沢賢治)
 
■村の子がくれた林檎ひとつ旅いそぐ
(渥美 清)
 
■春雨やジヨツトの壁画色褪せたり
(高村光太郎)
 
■行き暮れてここが思案の善哉かな
(織田作之助)
 
■さみだれの墨染衣濡らしをり
(松本幸四郎)
 
■うちの子でない子がいてる昼寝覚め
(桂 米朝)
 
■何もかも言ひ尽してや暮の酒
(三島由紀夫)
 
死なば秋露の干ぬ間ぞ面白き
(尾崎紅葉)
 
紫陽花や身を持ちくづす庵の主
(永井荷風)
 
春服の色教へてよ揚雲雀
(太宰 治)
 
■人去つて空しき菊や白き咲く
(芥川龍之介) 
 
■古郷を磁石に探る霞かな
(平賀源内)
                 
■秋立つやたたうに残るうすじめり
(福永武彦)
 
■鐘つけば銀杏ちるなり建長寺
(夏目漱石)
 
 

                  

            

                                 

  つれづれなるままに

 

■日本植物学の父・
 牧野富太郎の俳句 
 
■市川團十郎代々の俳句

■奈良より多武峯、そして山科へ

■原爆詩人・峠 三吉の未収録句

■歌舞伎役者・坂東彌十郎の俳句

■猫の俳句ー彫刻家・朝倉文夫

■彫刻家・北村西望の俳句

■陶芸家・小野珀子と俳句 

■コロナ禍における俳句

■建築家・山田 守の俳句      

■節分ー追儺、豆撒き、
 そして恵方巻へ 
 
■土屋文明と俳句
 
■江戸川乱歩の俳句    
 
■車持君与志古娘
 
■新元号 「令和」
 そして〝梅花の宴〟
 
■グレイクリスマス 
                                
■「今」 を詠む俳句で
 「過去」 を詠むメソッド
 
■写生と取り合わせ
 
■命の俳句
 ー狼となる金子兜太                
 
■風紋~青のはて2017~
 -宮沢賢治の終着
 
■天皇の白髪
 
■伊勢偉智郎の絵と
 いせひでこ、そして柳田邦男
               
■保武と忠良、
 そして坂井道子の句
 
■俳句への道(加藤楸邨)
                
■それでも鷹は飛んで行く
                  
■根岸庵律女
 
■銀河鉄道の恋人たち
 ーミュージカル・エレジー
 
■完了・存続の 「し」 について   

■『風叙音』 第十号刊行祝賀会  

■相良凧と友ゆうぎ    

■先生のオリザニン  

■三Hクラスの俳人たち

■ジャズライブより
 ーMALTA&銀座スウィング

■松井茂樹の光と翳

東 悠紀恵の美の世界

■最長老ジャズ・ピアニストの死                                 

■アイリーン・フェットマンの絵画

■マリー・ローランサンと堀口大學

                   

                                                 

  風叙音・fusionの和

             

■八木 健さんの句
 ―滑稽俳句の世界

          

              

                                         

  俳句は楽し―吟行記

         

■鳩山会館から旧古河庭園へ
 ー関口芭蕉庵・細川庭園
 
■川越ー喜多院・本丸跡・
 蔵造りの町並み界隈
 
■横浜ー山下公園・中華街・
 元町・山手界隈

■赤坂・迎賓館・四谷界隈

■鎌倉

■小石川後楽園・神楽坂・
 湯島天神・旧岩崎邸

■深川界隈

■上野・根岸

■葛飾柴又

■戸定が丘歴史公園

■21世紀の森と広場

■京都・大津吟行記

■飛鳥・吉野吟行記

          

                              

  受贈句歌集

        

■風薫る

■疑似幾何学者のほほえみ

句集 墨水

句集 一都一府六県

■花もまた

句集 街のさざなみ

■はじまりの樹     

■鬼古里の賦

■微熱のにほひ

■森の句集               

■大輪靖宏句集             

■槙

■こでまり

■路地に花咲く

■伊東肇集

■精霊蜻蛉

■鯊日和

■いのちなが

■過ぎ航けり

■夏の楽しみ

■福寿草

■月の兎

                   

      

            

  仲間(会員)募集中


風叙音・fusionでは、一緒に俳句を楽しむ仲間を募集しています。

俳句に興味のある方のご参加をお待ちしています。「問い合わせ」メールにて、ご連絡ください。

      


                      

         

  受贈句歌集

 

☆ 風薫る  (今橋眞理子句集)   角川21世紀俳句叢書     KADOKAWA 

                                          2014.4.25刊行

                                                                                   

     

       

      

      

      

いまはし・まりこ 「ホトトギス」 同人 

日本伝統俳句協会会員

第一句集

     

[帯文]

天高し句に生かされて句に生きて

嫁ぐ娘に十一月の過ぎ易し

冬帝の日ざしの中を歩み出す

結婚される娘への一句で、

この句集は締め括られている。

幸せとは何であるか。

この句集から答えがみつかるであろう。

(序文より)

(稲畑汀子氏)  

                       

 

                 

         

◆自選十五句


春の雲結びて解けて風のまま

遙かなるものばかり見て霞む窓

まだ言葉持たざりし子と梅雨籠

華やかに別れてひとり花の夜

帯解やくれなゐにほひ初めしとも

待たされてゐて約束のふと朧

ちちははと在れば娘や盆の月

大夕焼空ひとゆすりして消えし

若葉して光は光影は影

咲きすすむ桜雨をもためらはず

秋惜む神を恐れぬ高さより

初紅葉なる一本の木の孤独

ふるさとのしだいに恋し花みかん

存問の心に花の源氏山

風薫るこれからといふ人生に

       

◆七波選十二句

                            

風薫る秘めておけずに話すこと

         

赤をまだ解かざる赤も曼珠沙華

         

初電話声より笑顔立ち上がる

         

しやぼん玉震へてかたち整ひぬ 

         

風の尾根風の谷なる芒原

         

スカーフにくるりと残る寒さ巻く

        

けむりつつ木の芽起しの雨となる

         

夕風を白く流して雪柳

         

合歓咲いて風の一樹となつてをり 

                        

筆跡の語りかけくる賀状かな

         

花は葉に洗ひ上げたる空のあり

         

春宵の第二楽章流れくる

        

         

           

                 
  
  
       

☆ 疑似幾何学者のほほえみ (今井忠一)                私家版 

                                          2013.11.1刊行

                                          

 

       

       

       

       

               

いまい・ただいち(1921年~) 元・順天堂大学教授

東京帝国大学理学部数学科卒・東京帝国大学大学院修了

著書に『疑似数学者の随想』『無為而化の人生』『妻よ』 

『わたしの寶』『新しき一歩』『卆扇』。詩集『蟹のささやき』 

歌集『妻に捧げる』『釋尼照徳に護られて』ほか。          

     

[帯文]

自称 「疑似幾何学者」

このような言い方をすると、

読者はさもありなんと思うかもしれないが、

「疑似幾何学」 という幾何学は、

実際に存在するのである。

「アフィン空間」(日本では 「疑似空間」) という

想像の空間があり、

その空間の性質を研究するのが

疑似幾何学である。

私の生涯の研究である。

              

 

                 

◆自選六首


「而今」 とは思考して今生きるとか

  九十歳なる今の心境

素晴らしき生花贈らる半世紀前の

  教へ子一同の名もて

七十年前の教へ子集ふ会

  なほ師たらむと言葉選びぬ

九十歳にバレンタインのチョコレート

  何にも勝るエネルギー源

我が公式今も世界に用ゐらる

  学位申請せざるを悔やむ

我が公式テンソンニュースに載るといふ

  その実体を知りたかりけり

        

           

  
  
  

☆ 句集 墨水 (鈴木貞雄句集)                     ふらんす堂 

                                           2013.5.7刊行

                                                                                   

     

       

      

      

      

すずき・さだお 俳人協会理事、「若葉」主宰

第五句集

     

[あとがき]より

平成十四年から二十一年までの

作品を収めた私の第五句集である。

            

詩歌にとって大切な要素に、

“懐かしさ”があると思う。“懐かしさ”とは、

限られた命であるがゆえに、

万物を愛おしく思う気持に外ならない。

                     

 

                 

◆七波選


寒鯉に届きたる日のゆらぎかな

蜿蜒と来てましぐらに滝落とす

眠る子の夢みて笑ふ薔薇の風

子燕の口をはみだす蜻蛉かな

まくなぎの混沌を統ぶるもののあり

村里に鍛冶屋一軒橡の花

(あひ)の宿五十戸を吹く葛の風

寛やかに裳裾を曳きて花野富士

一つぶの木の実に大地応へけり

一嶽の上にきて滅ぶ鰯雲

目瞑りし梟とほき世をみつむ

蜘蛛の囲を彩渉りゆく旭かな

吾妻郡六合(くに)村字小雨ねむの花

闇に彩こぼして廻る灯籠かな

子狸も来てゐるけはひ闇動く

村里に鍛冶屋一軒橡の花

千枚の田の天辺を仕舞ひゐる

月山に仰ぐ銀河や翁の忌

一笛の闇をつんざく夜桜能

巌打つ滝の白さも秋めける

繽紛と花舞ひ翳も舞ひにけり

なんぴとも老まぬがれず花に佇つ

目瞑りて鷹は檻あること忘る

貼り交ぜの一句は白雄立屏風

大空の懐に凧預けたる

茶碗屋てふ集落十戸白木蓮

        

           

  
  
       

☆ 句集 一都一府六県 (大久保白村句集)            角川書店 

                                          2013.3.27刊行

                                          

 

       

       

       

       

       

おおくぼ・はくそん 日本伝統俳句協会副会長

               「ホトトギス」同人、こゑの会代表

第十句集

     

[帯文]

平成十一年-二十二年

稲畑汀子主宰選の作品から306句を厳選

            

奈良・吉野山の桜との年々の出逢い、

四季折々の自然からの語り掛けを、

あまさず写しとる、明朗闊達な詩境。

              

 

                 

◆自選十句


みよしのを駆けるもののけ春一番

花の杖庭をめぐりて庭を出ず

花の庵奥千本を庭として

一都一府六県越えて花の旅

真下までいざなふ枝垂桜かな

夜桜の隠してをりし北斗の柄

鶯や別れの朝はねんごろに

憑かれしや花の吉野の旅二日

散りそめし花と別れの午後来たる

文学館出でて立夏の川風に

        

           

  
  
  

☆ 花もまた  (今井肖子句集)   角川21世紀俳句叢書     角川書店 

                                          2013.2.25刊行

                                          

句集 花もまた: 書籍: 今井肖子

        

        

        

        

        

        

        

        

        

いまい・しょうこ 「ホトトギス」 同人 

日本伝統俳句協会会員

第一句集

     

[帯文]

今回出版する句集は、

彼女の十年間の俳句を纏めたもの

と言う。

彼女もう自然に虚子の大道を

歩いていることがよく分かる。おそらく

彼女は自身の歩む道を確認したいのであろう。

何も心配することはない。

客観写生とは何か、花鳥諷詠とは何か、

もう間もなく彼女は自分自身の言葉で

語り始めるだろうと私は信じている。

(稲畑汀子氏)  

              

 

                 

◆自選十二句


鴉飛ぶ屏風に風の起りけり

ぼんやりと居て色鳥の不意に赤

その幹に溜めし力がすべて花

花も亦月を照らしてをりにけり

照らされて一人一人の花火かな

月天心夜は沈んでゆきにけり

水を飲む風鈴ふたつみつつ鳴る

紙芝居狸はいつも不幸せ

てのひらにひんやりクローバーの記憶

待宵を眠らんとして覚めにけり

桜蘂降る東京は坂だらけ

少し泣き少し笑つて十二月

       

◆七波選十二句

                            

見上ぐれば視界の外の外も花

         

新緑の雨吸ひ込みしよりの色

         

マフラーも帽子もピンク駆けてくる

         

手のひらをこぼれてゆきし子猫かな 

         

月冴ゆるピカソの青と居た時間

         

くれなゐを放ちて梅の空青し

        

今日の風今日の桜を過ぎにけり

         

いくつもの花の遅速を経て時効

         

もう影を持たざるものへ飛花落花         

                 

水底に炎天の芯ゆらぎけり

         

メビウスの輪の裏表月涼し

         

螢火の映らぬ水の暮れにけり

        

           

  
  
  

☆ 句集 街のさざなみ  (峯尾文世)              ふらんす堂 

                                          2012.8.28刊行

                                          

        

        

        

        

       

       

       

        

みねお・ふみよ 「銀化」 同人 俳人協会会員・

日本伝統俳句協会会員

第二句集

     

[帯文]

夏萩の無残をけふのはじめかな 文世

第一句集『微香性-HONOKA』から十年。

謐かに沈潜していた峯尾文世の第二句集である。

その間の試行錯誤は以前にも増して、

しなやかな言語空間を構築していて興味深い。

年齢的にも成熟しきった一女性の希求する俳句は

匂やかな“表象”となって、

私共、物憂い男達を脅してくれる。

(中原道夫氏)  

              

 

                 

◆自選十二句


打つよりも引く波音のはつむかし

折鶴のふつくらと松過ぎにけり

先客の靴の濡れある猫の恋

空襲のこと達筆に春の雪

鏡台は正座の高さ祭笛

ゼリー揺れ自分を許さうかと思ふ

鬼灯市ゆふべを長く使ひけり

売れ残る西瓜に瓜のかほ出でて

沸点はいつときにして敗戦忌

秋晴れが鏡のなかにしか見えぬ

外に出す椅子のさまざま文化祭

大年のソファーに深き海ありぬ

  
  
  

 

☆ はじまりの樹  (津川絵理子句集)              ふらんす堂 

                                          2012.8.11刊行

                                          

      

      

      

      

      

      

つがわ・えりこ 「南風」 副代表 俳人協会会員

第二句集

     

[帯文]

真清水を飲むやゆつくり言葉になる

画家である祖父のもとで成長した作者は

無垢の心そのままに俳句を愛してやまず、

今では俳句から愛されている

稀有な一人のように

私は思えてくる。

本物の俳人を目指せる人である。

(山上樹実雄氏)  

              

 

                 

◆自選十五句


捨猫の出てくる赤き毛布かな

四五人の雨をみてゐる春火桶

籐椅子の腕は水に浮くごとし

夜遠しの嵐のあとの子規忌かな

木犀やバックミラーに人を待つ

おとうとのやうな夫居る草雲雀

秋草に音楽祭の椅子を足す

ひつそり減るタイヤの空気鳥雲に

貼りかへし障子の白さ何度も見る

つばくらや小さき髷の力士たち

滝涼しともに眼鏡を濡らしゐて

深々と伏し猟犬となりにけり

ものおとへいつせいに向く袋角

教室の入口ふたつヒヤシンス 

砂時計の砂のももいろ春を待つ

       

◆七波選十句

        

放たれし夏蝶とその残像と

         

閉ざされて月の扉となりにけり

         

雲雀野や並んでくすぐつたき距離に

         

真清水を飲むやゆつくり言葉になる 

         

ぶしつけなこと訊いてゐる牡丹鍋

         

向き合うてふつと他人やかき氷

         

梅雨空といふ縦長の景色かな

        

地下道のこんなところへ出て九月

         

新樹よりのぼるガラスのエレベーター

         

蘆原のさし来る水のふくらめる         

         

  
  
  

☆ 鬼古里の賦  (川村杳平俳人歌人評論)         コールサック社 

                                           2012.7.7刊行

                                          

 川村杳平俳人歌人論集『鬼古里の賦』

       

       

       

       

       

       

        

       

かわむら・ようへい 「古志」「草笛」「北宴」 同人、「鬼」 誌友

句集に 『羽音』、評伝に 『無告のうた 歌人・大西民子の生涯』

     

[帯文]

「北の俳人」「北の歌人」 を

ここまで集中的に論じた類書は、

いまだかつてなかったのではないかと思われる。

岩手文学史は、本書によって間違いなく

一歩も二歩も前進したのであり、

後世において 「最終の審判」 が下される、

その前に、すぐさま高い評価をうけるであろう

ことを確信している。

(復本一郎氏 「序文」 より)

                

 

                 

◆目次


1章 鬼古里の賦

2章 「北の俳人列伝」 ほか

3章 「北の歌人列伝」 ほか

4章 [対談] 「俳句の未来」

         ―白濱一羊vs.川村杳平

  
  
  

☆ 微熱のにほひ  (近江満里子句集)     鬼叢書      ふらんす堂 

                                          2012.5.10刊行

                                          

       

       

       

       

       

       

       

おうみ・まりこ 「鬼」 会員・上智句会会員

第一句集

     

[帯文]

神様にふみ書くあそび金木犀

満里子は、有季定型に全身全霊で体当たりしている。

それゆえに 『微熱のにほひ』 の一句一句が

衝撃をもって読者の心を揺ぶるのである。

「上手」 な俳句が氾濫する平成俳壇の中にあって、

このつつましくも生命力に溢れた一冊の句集

『微熱のにほひ』 が今、誕生することを、

私は、誰よりもよろこんでいる。

(復本一郎氏 「序」 より)

                

 

                 

◆自選十句


広告のうらの母の字花大根

月涼し死に行く父と死の話

あつ満月骨箱ちよつと差し上げて

冬桜父の句帳にわれのこと

豊年の家族にひとつづつ秘密

髪とけば微熱のにほひ春の雪

献体を決めし腕の汗疹かな

身に馴染むものに微熱も晩夏光

ひと日づつ生きるあそびや竜の玉

あたたかき言葉育ててゐるところ 

        

◆七波選十二句

        

春隣日差しの透ける猫の耳

         

梅雨間近すぐに外れる本の帯

         

胸鰭のあたりが痒し夏の風邪

         

指先の置きどころなき寒さかな

         

大西日ゴリラゆつくり立ち上がる

         

違ふともいやとも言へず蕪汁

        

眼をつむるといふ快楽や蟻地獄

         

不平等不条理無常心太

         

向日葵やまだ揉めてゐる借地権

           

煮凝や言つてはならぬことひとつ

           

神様にふみ書くあそび金木犀

             

十枚も切手貼られて富有柿

  
  
  

☆  森の句集  (鈴木貞雄)                      鈴木貞雄                

                                          2012.2.1刊行

                                          

 

        

        

        

        

        

        

        

        

        

       

        

すずき・さだお 「若葉」 主宰・俳人協会理事

句集に 『月明の樫』 『麗月』 『遠野』 『過ぎ航けり』 など

     

[あとがき] より

私には、森とそれを囲む山や湖の句が多い。

それらを纏めて一本にした。

俳句は私にとって文芸であるとともに、

哲学でもあり、また宗教でもある。

森は静かにものを考えるのにふさわしい場所だ。

全ての句の漢字に読みがなを振ったのは、

ふだん俳句に接したことのない人達にも

読んでもらいたいという思いと、

俳句の調べも味わって頂きたいという

気持からである。

          

 

        

◆十句


初富士に太虚の幽さありにけり

初御空メタセコイアの昔より

雉の眸の隈燃ゆるなり霏々と雪

寒鯉の呪縛とけたる水の色

合掌はいのちのかたち木の芽萌ゆ

一瀑を落とせる天のくぼみかな

人の世を閲して閉ぢぬいなびかり

月明の樫の木歩き出さんとす

枯れてより顕はるるものありにけり

枯蟷螂麦藁のごと墜ちてをり             

  
  
  

☆ 大輪靖宏句集      日本伝統俳句協会叢書         俳句ネット   

                                          2011.12.1刊行

                                          

 

        

        

        

       

       

       

       

       

おおわ・やすひろ 日本伝統俳句協会副会長・上智句会代表

第三句集

     

[帯句]

おやこんな小さな川に浮寝鳥

     

[あとがき] より

私は今までに俳句結社に所属したこともなければ、

俳句の師についたこともない。

研究活動の延長から

句作を試みるようになったわけだし、

現在でも周りに集まってくれた人たちと

句会を楽しんでいるだけだ。

だから、誰に遠慮することもなく、

結局はこういう自分の好き勝手な形になるのだろう。


 

        

◆自選十句


ファラオの金クリムトの金初日の出

棒きれで叩けば春の水光る

引越してまづ花種を蒔きにけり

いま一度故郷の川で泳ぎたし

止まりたる時間の中の水中花

魔女飛ぶをちらりと見たり星月夜

死といふは生者の儀式彼岸花

村の灯のさらに減りたる帰省かな

年の瀬や午後閑かなる魚市場

生きてゐる力を吐けば息白し

      

  
  
  

☆ 槙  (長谷川槙子句集)       精鋭俳句叢書      ふらんす堂   

                                          2011.8.10刊行

                                          

 

        

        

        

          

        

はせがわ・まきこ 「若葉」 同人

第一句集

     

[帯文]

槙子さんの作品は写生を基盤としている。

素直な目で対象を真っ直ぐに見つめ、

その本質を捉えようとしている。

写生を基盤にしながら、

槙子さんの句で際立っているのは、

繊細な感性と情感の豊かさであろう。

(「若葉」 主宰・鈴木貞雄氏 「序」 より)

 

        

◆自選十五句


薄氷をよけし流れに水の音

雛の間に大海原の光かな

山藤の此処とは違ふ風に揺れ

里の道春満月へ向かひけり

漣の現れて来し花筏

大干潟ところどころに空の色

その孫と虚子展拝す薔薇の雨

竹植ゑて水琴窟の高音かな

半分は池の面にあり夏の雲

馬の物人のもの干す馬場の秋

風見鶏つと動きたる良夜かな

大鍋に根菜勤労感謝の日

つがひ鴨水輪離れぬほどの距離            

寒牡丹おのが白さに震へけり

木像のみ仏の香や春近き

   

◆七波選十五句

        

さへづりの囀を呼ぶ深山かな

      

てのひらに子猫鳴きをる重みかな

             

紅蓮のひらく予感のさゆれかな

    

まつすぐに傾ぎてゐたり曼珠沙華

              

一列に冬日分けあふ子牛かな

          

辛夷咲く無垢なる空でありにけり

      

春風を追ひ越してくる園児かな

            

白薔薇の色には出でぬ心かな

           

蓮の花真白き反りに狂ひなく

              

紅蓮の抜けたる宙のありにけり

        

手捻りの跡の涼しき黒茶碗

           

一瀑に深山の夕日とどまれり

    

谷戸奥へ道細りゆく春愁

           

呉服屋の姿見のなか福寿草

    

光ごと落ちたる白き椿かな

  
  
  

☆ こでまり  (八嶋郷子句集)                  ふらんす堂   

                                          2010.8.26刊行

                                          

 

       

       

       

       

やしま・きょうこ 「若葉」 同人

第一句集

     

[帯文]

掌の中の天道虫の足さばき

自然の微妙な差異を感じとって詠んできた

ナイーブな心の持ち主である郷子さんは、

これからは、

心の微妙な襞々を描き分けてゆくであろう。

(「若葉」 主宰・鈴木貞雄氏 「序」 より)

 

        

◆自選十句


バレンタインデー妹は兄が好き

こでまりや母の留守なる昼下がり

あぢさゐの迫り出して皆違ふ顔

きゆつと身を寄せてをりけり青葡萄

触れられぬ遠さ山百合匂ひけり

燕の子喉引き攣らせ乞うてをり

空にだけ寂しさ明かす紫菀かな

石蕗の花別け隔てなく黄を放ち

シニヨンをマフラーに埋め稽古場へ

冬木の芽視線ひつかかりひつかかり

   

◆七波選十五句

        

風鈴の鳴り出してより風吹ける

               

鮎釣りの身じろぎもせぬ通り雨

           

凌霄花のきつかけもなく散りにけり

               

他愛なきメモを残して暦果つ

            

結界を躊躇ふでなく蟻の列

           

生れたての色なき色に四葩かな 

                

目高生れ影の自在に泳ぎけり

             

唐黍の高さを日傘行きにけり

              

諸手挙げ睡蓮咲ける正午かな

            

秋風の見えざる筋を蝶辿る

                    

降り出しは固き音たて冬の雨

         

シュプールの日向日影を縫ひにけり

               

言ひかけて白き息のみ漏れにけり

           

揺れ合うてよりコスモスの色となり 

              

蔦茂りしがらみ増えぬこの地にも

  
  
  


☆ 路地に花咲く  (鈴木サダ子歌集)              左右社   

                                         2009.11.22刊行

                                          

  

      

      

      

      

      

      

        

すずき・さだこ 「三ッ葉会」「樅の会」
(1924~1989)

      

解説:小高 賢/あとがき:鈴木一誌・鈴木文枝

造本:鈴木一誌

      

[帯文]

短歌は、庶民がもちえた

生きる手がかりだったのではないか。

そのことの意味の大きさを、

歌集『路地に花咲く』は

よくしめしている。

(小高 賢氏 解説「ひたすらな道」より)

      

 

基地の街・立川に起居しながら

つむがれた五〇四首。

よみがえる昭和の記憶。

                 

◆十首

      

もの書きを夢みて書きし日の反故を

夫は庭にて時かけて燃す

臍の緒の切れし痛みか一人子の

娶り去りたるあとのうずきは

ようやくの子の独立の挨拶状

読み返すなりそらんじる程に

リウマチとおぼしき人に寄りつきて

道に互いの痛む手を見ず

豌豆の青き匂いに杳き日の

故郷の畑と母と顕ちくる

魚屋に海亀の卵売られおり

吾が罪のごと目をそらし過ぐ 

立話し長き母の手にひかれいる

子は動く雲いいてゆび指す

読みすすむ士師記に変らぬ殺戮の

ヨルダン河岸を写す映像

命とは戦争とはと読みつぎぬ

『野火』に無残な兵のさけびを

会い会うは句読点に似て明日より

またそれぞれのひたすらな道

  
  
  


☆ 伊東 肇集        自註現代俳句シリーズ          俳人協会

                                          2009.11.1刊行

 

      

      

      

いとう・はじめ 「若葉」 同人、「若葉」 編集長

     

[あとがき] より

収録作品は、

既刊の 『青葡萄』『山祇』 の二句集から

三〇〇句抽出した。

抽出してみて、

改めて吟行句、旅吟の多いことに気づいたが、

これが自分の句作りの傾向なのだろう。

            

 

      

              

◆二十句


赤富士の此の世の色となつてきし

プールより上がりて女体滴らす

雛の間のかくしづかなる明るさよ

春夕焼明日といふ日を疑はず

極月のおのれの影に気づきたる

たんぽぽの絮のわたらひそめしかな

白牡丹一花にて足る夕ごころ

大夕立玻璃一枚を瀧と成し

海坂はほうと明るみ雪しまく

地に還るもの還らしめ木々の冬

谷中根津千駄木町と秋深し

杳として巫山の霞去りやらず

木漏れ日が揺れ母衣が揺れ熊谷草

一夜さの斑雪を刷きし雑木山

茂り中縷々とつづける杣の道

最果ての岬に吠えて風と雪

岬空へ雪吹き上げて竜が飛ぶ

崖氷柱一瀑なせる青さかな

人波に乗りて大きな夏帽子

耀うて詩語のごとくに冬木の芽

  
  
  


☆ 精霊蜻蛉  (大久保白村句集)               角川書店   

                                          2008.6.28刊行

                                          

 

       

       

      

       

      

       

おおくぼ・はくそん 日本伝統俳句協会副会長

               「ホトトギス」同人、こゑの会代表

角川平成俳句叢書

     

[帯文]

今回の句集は、稲畑廣太郎先生の選を経て        

「ホトトギス」に掲載された作品等から選んだ。

深大寺の虚子句碑建立の折の

〈胸像に句碑に精霊蜻蛉かな〉 の句について、

廣太郎先生は、「〈精霊蜻蛉〉 が、

何か虚子の化身にも見える」と評してくださった。

虚子の血脈に連なる幸運を感謝している。

                  

 

                       

◆自選十二句


燕来る震災メモリアルパーク

胸像に句碑に精霊蜻蛉かな

糸瓜忌や阪神愛す一詩人

小春日や札所めぐりは順不同

省略を尽くし鮟鱇なほ吊るす

連れて来し犬がもつとも野に遊ぶ

阪神の帽子で神田祭の子

老兵は死なずひたすら昼寝かな

鈴つけし猫と鈴無き猫の恋

雷神は老の臍など狙ふまじ

寄鍋や一人まだこぬ小座布団

やつちやばに生れ育ちし嫁が君

  
  
  

☆ 句集 鯊日和  (有馬五浪)       俳句作家選集     文學の森   

                                          2008.5.12刊行

                                          

  

      

      

      

      

      

      

      

ありま・ごろう 「谺」 副主宰

第一句集

     

[帯文]

いま二十年間の俳句をまとめてみて、

果たして自分の目指す俳句を

見つけることができたのだろうか、

その思いが頭から離れない。

この句集が今の自分の俳句であり、

自分の俳句を信じて前に進む外に道はない。

登山のように一歩一歩登り続けることによって、

自分の目指すものが見えてくるではないか。

(「あとがき」 より)

 

              

◆自選十句

            

囀やていねいに靴磨きゐる

子供の日なんでも入る袋かな

ぽつかりと青空のあり滝の上

蜘蛛の囲を大きく張つて蜘蛛の留守

香水や一人となりし昇降機

鯊日和潜水艦の浮いて来し

繊細にして大胆に曼珠沙華

上野駅何処からとなく林檎の香

石頭やはらかくして牡蠣すする

氷張る鮒とその外眠らせて 

                             

◆七波選十句

        

乗り越して駅の朧に降りにけり

      

長旅の眼ほぐれし夕ざくら

                                

花冷やバリウムの胃を持ち歩く    

          

小上りに酔うて候暮の秋

         

秋蝶の海の虜となりにけり

       

影つれて影より淡き蛙の子      

           

江ノ島の巨いなる岩したたれり

          

藪蚊打つて打たれし腕の孤独かな

           

颱風の目の中にゐてむずがゆし

            

煮凝の弾力といふ力かな        

    

  
  
  

☆ 句集 いのちなが  (鈴木三都夫)               私家版   

                                          2007.10.8刊行

                                          

 

       

       

       

       

       

       

       

       

すずき・みつお 「白魚火」 同人会長                 

第二句集

     

[帯文]

…殊に第二の人生を故郷で送るようになってからは

大勢の俳句仲間と、     

すばらしい日本の自然や文化に触れながら、

文字通り俳句三昧の日々が送れて

今日のあることに感謝し、

句集名を「いのちなが(寿)」とした。

俳句というものの底知れぬ魅力に憑かれながら、

一日でも長く、一句でも多く

詠み続けたいことを願っての題名である。 

(「あとがき」 より)

 

        

◆自選十句


風鎮を畳へ余す涅槃絵図

一芽づつ摘んで茶籠へ溢れし芽

桜散る咲くときよりも美しく

山門に縁台を置く牡丹かな

有明の月の残れるほととぎす

曝す書に青凾連絡船史かな

草庵の名もなき草も月のころ

七堂伽藍日当りながら時雨けり

睡蓮の開ききれざる返り花

雪吊の雪の重さをまだ知らず       

  
  
  


☆ 過ぎ航けり  (鈴木貞雄句集)                 角川書店   

                                          2007.7.25刊行

                                          

 

        

       

       

       

       

        

すずき・さだお 俳人協会理事、「若葉」 主宰

角川俳句選書

     

[帯文]

句集名は、揚子江上での一句

過ぎ航けり桐咲く町の名はしらず

から採った。

俳句は、茫々と流れてゆく時間のなかの

一瞬一瞬の煌きではなかろうか。

そのなかで、幾たびか、永遠と時間を

共有することができれば幸いである。

              

 

                  

◆自選十二句


初御空メタセコイアの昔より

うつし身を攫ひのこせし花吹雪

草萌や嬰が出合ふものすべて噫

過ぎ航けり桐咲く町の名はしらず

わが詩はすなはち禱り聖五月

龜泳ぐ手足ばらばらの涼しさよ

虹立つてたまのを醒めし思ひかな

魂魄の舞へば露舞ふ薪能

かなかなの声の漣峡浸す

裸木となりし命のかたちかな

遠きゆゑ雪嶺確かありにけり

降る雪やしづかに樹液昇りゆく

  
  
  


☆ 句集 夏の楽しみ  (大輪靖宏)                 角川書店   

                                          2007.3.31刊行

                                          

 

         

         

        

        

        

        

        

        

おおわ・やすひろ 日本伝統俳句協会理事

              上智大学名誉教授

第二句集

     

[帯文]

芭蕉は「世人、俳諧に苦しみて、

俳諧の楽しみを知らず」(山中問答)と言った。

……私は俳句に関っていることが苦しくなったら、

さっさと俳句など捨ててしまうつもりである。

だから、

第一句集 『書斎の四次元ポケット』 でもそうだったが、

今回も何よりも先ず

私自身が楽しむということを大切にした。

             

 

                     

◆自選十二句


義理人情意にせぬ飛翔夏燕

世に経(ふ)るはつらしされども初鰹

生きざまの一つ水母の波まかせ

路地裏も浅草なれば江戸の秋

水澄みて銀閣いよよ古びけり

月皎々路傍の石も生を得し

鷹の目は遠き自由を見つめをり

人となる来世夢見て浮寝鳥

冬夕焼生きるに理由など要らぬ

駅舎出て春の星座に迎へらる

雨三日花満開のまま烟る

窓開けて八十八夜の風呂に入る

  
  
  

☆ 句集 福寿草  (桧林ひろ子)                  私家版   

                                          2005.8.1刊行

                                          

 

      

      

      

      

      

      

      

      

くればやし・ひろこ 静岡白魚火会会長

第一句集

     

[帯文]

コスモスの風も写真に納まりし 

桧林ひろ子

風に揺れるコスモスを

「風も写真に納まりし」 と表現し、

風の程合を目に見えるように描いた。

このように切れ味がよくて、

俳句の面白さを見せてくれる作品群が

『福寿草』 の一高峰をなしている。

仁尾正文

(「序文」 より)




 

        

◆自選十句


木犀の追ひかけて来て匂ひけり

固つてひいふうみいよ福寿草

目の限り海展けをり青蜜柑

着水の鴨の踏みたるたたらかな

薇の繭ごもりなる瑞葉かな

啓蟄の蛇の置物動きけり

冬帽子さも買ひさうに被りもし

輪唱のやがて合唱虫しぐれ

蒲公英のぽぽぽぽぽぽと微笑める

朝顔や昨日の一句はや褪せり       

  
  
  


☆ 月の兎  (大久保白村句集)                  角川書店   

                                           2003.9.3刊行

                                          

 

        

        

        

       

        

おおくぼ・はくそん 日本伝統俳句協会副会長

               「ホトトギス」 同人、こゑの会代表

第七句集

     

[帯文]

俳歴五十年におよび、        

円熟の日々を、

ますます風趣ゆたかに軽妙に詠う。

      

平成九年―十三年 「春嶺」〈往来集〉

発表の二八四句を精選

                

 

                 

◆十句


初花や女王の国の大使館

産土神に八朔相撲の豆力士

横綱碑春の嵐に身じろがず

堂裏に柄杓の乾き寺薄暑

民宿の五右衛門風呂や天の川

子規堂の遺愛の卓の冬日かな

悴めば月の兎も悴める

瑠璃山と号し一院風薫る

炉話に携帯電話割り込みぬ

春日浴びドーム丸ごとふくらめる