幸せを運ぶ十七音

 

■立山の北壁削る時雨かな
(棟方志功)
 
■わが魂は海獣ならんと欲す
(石原慎太郎)
 
■不二筑波一目に見えて冬田面
(三遊亭圓朝)
 
■ぼたん雪が流れに消える 鳥の羽おと
(河村目呂二)
 
■夏の野に幻の破片きらめけり
(原 民喜)
 
■ギヤマンの船だす秋の港かな
(竹久夢二)
 
■寒鯉やたらひの中に昼の月
(小津安二郎)
 
■御山のひとりに深き花の闇
瀬戸内寂聴)
 
■間断の音なき空に星花火
夏目雅子)
 
■蓬餅あなたとあった飛騨の夜
吉永小百合)
 
■秋の陽をまぶたに乗せて駱駝ゆく
吉行和子)
 
■にごり江に夕日のあはし鴨下ル
市田ひろみ)
 
■天涯に一粒落ちて冬木立
(中島誠之助)
 
■菜の花の群れから離れ独り咲く
(増田明美)
 
■稲妻の去り行く空や秋の風
(稲妻雷五郎)
 
■顔見世や奈落に消ゆる御曹司
(大澤孝征)
 
■亡き妻が眠りし庭に彼岸花
(日野原重明)
 
■秋灯机の上の幾山河
(吉屋信子)
 
■陽炎に狐ふりむき消えにけり
(吉村 昭)
 
■目つむりていても吾を統ぶ五月の鷹
(寺山修司)
 
■水難の茄子畠や秋の風
(若尾瀾水)
 
■花はみな四方に贈りて菊日和
(宮沢賢治)
 
■村の子がくれた林檎ひとつ旅いそぐ
(渥美 清)
 
■春雨やジヨツトの壁画色褪せたり
(高村光太郎)
 
■行き暮れてここが思案の善哉かな
(織田作之助)
 
■さみだれの墨染衣濡らしをり
(松本幸四郎)
 
■うちの子でない子がいてる昼寝覚め
(桂 米朝)
 
■何もかも言ひ尽してや暮の酒
(三島由紀夫)
 
死なば秋露の干ぬ間ぞ面白き
(尾崎紅葉)
 
紫陽花や身を持ちくづす庵の主
(永井荷風)
 
春服の色教へてよ揚雲雀
(太宰 治)
 
■人去つて空しき菊や白き咲く
(芥川龍之介) 
 
■古郷を磁石に探る霞かな
(平賀源内)
                 
■秋立つやたたうに残るうすじめり
(福永武彦)
 
■鐘つけば銀杏ちるなり建長寺
(夏目漱石)
 
 

                  

            

                                 

  つれづれなるままに

 

■日本植物学の父・
 牧野富太郎の俳句 
 
■市川團十郎代々の俳句

■奈良より多武峯、そして山科へ

■原爆詩人・峠 三吉の未収録句

■歌舞伎役者・坂東彌十郎の俳句

■猫の俳句ー彫刻家・朝倉文夫

■彫刻家・北村西望の俳句

■陶芸家・小野珀子と俳句 

■コロナ禍における俳句

■建築家・山田 守の俳句      

■節分ー追儺、豆撒き、
 そして恵方巻へ 
 
■土屋文明と俳句
 
■江戸川乱歩の俳句    
 
■車持君与志古娘
 
■新元号 「令和」
 そして〝梅花の宴〟
 
■グレイクリスマス 
                                
■「今」 を詠む俳句で
 「過去」 を詠むメソッド
 
■写生と取り合わせ
 
■命の俳句
 ー狼となる金子兜太                
 
■風紋~青のはて2017~
 -宮沢賢治の終着
 
■天皇の白髪
 
■伊勢偉智郎の絵と
 いせひでこ、そして柳田邦男
               
■保武と忠良、
 そして坂井道子の句
 
■俳句への道(加藤楸邨)
                
■それでも鷹は飛んで行く
                  
■根岸庵律女
 
■銀河鉄道の恋人たち
 ーミュージカル・エレジー
 
■完了・存続の 「し」 について   

■『風叙音』 第十号刊行祝賀会  

■相良凧と友ゆうぎ    

■先生のオリザニン  

■三Hクラスの俳人たち

■ジャズライブより
 ーMALTA&銀座スウィング

■松井茂樹の光と翳

東 悠紀恵の美の世界

■最長老ジャズ・ピアニストの死                                 

■アイリーン・フェットマンの絵画

■マリー・ローランサンと堀口大學

                   

                                                 

  風叙音・fusionの和

             

■八木 健さんの句
 ―滑稽俳句の世界

          

              

                                         

  俳句は楽し―吟行記

         

■鳩山会館から旧古河庭園へ
 ー関口芭蕉庵・細川庭園
 
■川越ー喜多院・本丸跡・
 蔵造りの町並み界隈
 
■横浜ー山下公園・中華街・
 元町・山手界隈

■赤坂・迎賓館・四谷界隈

■鎌倉

■小石川後楽園・神楽坂・
 湯島天神・旧岩崎邸

■深川界隈

■上野・根岸

■葛飾柴又

■戸定が丘歴史公園

■21世紀の森と広場

■京都・大津吟行記

■飛鳥・吉野吟行記

          

                              

  受贈句歌集

        

■風薫る

■疑似幾何学者のほほえみ

句集 墨水

句集 一都一府六県

■花もまた

句集 街のさざなみ

■はじまりの樹     

■鬼古里の賦

■微熱のにほひ

■森の句集               

■大輪靖宏句集             

■槙

■こでまり

■路地に花咲く

■伊東肇集

■精霊蜻蛉

■鯊日和

■いのちなが

■過ぎ航けり

■夏の楽しみ

■福寿草

■月の兎

                   

      

            

  仲間(会員)募集中


風叙音・fusionでは、一緒に俳句を楽しむ仲間を募集しています。

俳句に興味のある方のご参加をお待ちしています。「問い合わせ」メールにて、ご連絡ください。

      


                      

         

  風叙音・fusionの和

 八木 健さんの句―滑稽俳句の世界

                       2014.12.1

        
■私の高校の先輩にあたる八木 健さんの最近作72句および旧作108句をご紹介します。健さんは、元NHKアナウンサーで、「俳句王国」の初代司会者(10年間)。現在、滑稽俳句協会会長、虎造節保存会創立名誉会長、俳句美術館館長、萬翠荘館長。

                  

         *       *       *      

                                                         

滝凍ててそのはらわたを曝しけり

指穴のひとつで古び春障子

笑ひ声とぢこめてゐる春障子

雪国へ蒸気機関車おらびつつ

境界の曖昧な季語去年今年

草の芽の尖る草冠に牙

百千鳥囀る口を転がして

幕間(まくあい)まくまの違い初芝居

声かけて回覧板を春隣


定員に超過はあらず宝舟

結局は追風参考春一番

片栗の花かたかごに溢れさす

幼子にして蕗味噌の苦味好き

歪みきる破裂寸前の石鹸玉

春愁の季語どう見ても季重なり

しらうををしろうをと呼び岩松川

せつかちな人のあたふたして遅日

目刺喰ふ目刺仲間を別れさせ

これといふ目的のなし石鹸玉

無風とて怠けてをりぬ風車

その色に白と黒あり木の葉髪

ばあちやんの技に敵はぬ沢庵漬

へそくりの額を確かめ神の留守

文化てふ語感褪せたる文化の日

板屋根にコトリの音や小鳥来る

健さんの訃報にざわめき神無月

牡蠣の毒未だ解読されぬまま

蹴球のやうな運命のむり茸                                

明るいうちに戻れとは無理日短

目立たないことも生き方吾亦紅

一瞥もそれずコススモス枯れきつて

山襞にあり山霧の製造所

熊注意の看板紅葉渓谷に

役者らの足も大根村芝居

花の名を詫助と書き謝罪せり

山茶花はもとはさんざかだつたとか

表情を読む目力も七五三

千歳飴これが虫歯のきつかけに

山々は寝入りばなかと思はるる

その色は怒りの赤ぞ蔦紅葉

焚火てふ風習今や燃え尽きし

噴水の噴憤慨の憤に似て

白花にあれど名札は百日紅

古びたる団扇の美人齢とらず

月見草と呼ばれ続けて待宵草

ひろげつぱなしや夏果の世界地図

そばだてる耳殻の縁に秋の声

ヒトを刺し鼻の高々残る蚊は

なんと書きしやほうたるの光文字

嫌といふ音熱帯夜に潜む

草笛のひしやげきつたる音色かな

すいか切る七等分に悩みつつ

むづかしいものにすいかのに七等分

風鈴や虫の鳴き声まねて鳴る

打ち水の過剰となりし水溜まり

角部屋の吾を追ひつめる西日かな

もくもくの音たて太る雲の峰

消しゴは無しつけすぎの香水に

なにもせぬことがほんとの夏休み

これ以後は晴れと予報の残る蟬

夏惜しむ貝の砂粒払ひつつ

秋刀魚食ぶわたの苦みをほどきつつ

うまさとは苦さのことか秋刀魚食ぶ

国境あらずトレッキングの花野には

その先に肥満のあらむ夜食喰ぶ

魂の長さは同じ虫も吾も

コップてふ名器に活けて秋の草

ソロで終演虫宿のコンサート

叢雲のなき名月の孤独かな

音無き音や無花果のふたつ割り

ひらがなが佳し風揺れのすすきの句

笑ふ山微笑がついに爆笑に

         *       *       *

         

                                             2011.11.23

せつかちに流れることも春の水

          

蜆汁カチと砂粒嚙み当てし

           

微生物底に沈めて水温む

           

耕しの鍬掘り起こす田螺ごと

          

長いこと閑がのどかてふ季語に

           

涙眼にあればなほさら朧月

            

腰伸ばしきり老人大学入学式

           

草餅にこだはつてゐるベジタリアン

             

お玉杓子は音符にあらむ蝌蚪の池

              

臆病な子雀もをり初飛行

             

阿呆とはいはず馬鹿てふ万愚節

            

朝寝かなモノいふ時計に起こさるる

            

啓蟄やヒトにも虫の出づる穴

            

マグニチュードは中度にあらず春の地震

            

僧正も単衣に庫裡の更衣

             

葉桜の句で細切れの空にそれ

              

鯉のぼりかつては雨の日に泳ぐ

              

神業の一つの変態上蔟す

            

夏めけりスカートの丈激変し

           

少子化よ今シーズンの筍は

            

サツキツツジの季節はいつだつけ

             

徒党を組んだり分裂したり花筏

             

いちばんに花疲れして首の骨

           

歳時記の季語にはなれず花泥棒

            

フライングにお咎めあらず草競馬

            

蟹ぞろぞろ沢登る吾を出迎へる

           

完熟へ青透き通る実梅かな

            

短夜に夜更しすれば明け易し

             

先頭の目高が先生胸を張る

            

結局は捨てられるなり蛇苺

             

天金を天銀と化し辞書の黴

           

梅の雨実梅にはじき返さるる

          

ブロッコリーは萬緑新緑がパセリなら

             

借りた傘役には立たず大夕立

             

携帯に撮られて褪せる二重虹

            

省エネの風なまぬるき団扇かな

              

一年中髪を洗へど夏の季語

             

梅雨明の後の必ず出水かな

            

湯あがりの肩に羽織らせ浴衣かな

             

日本に帰化して長き南瓜かな

            

生身魂扱ひ拒否の傘寿かな

            

いよいよ古び新豆腐売るラッパ

            

筆不精を侘びる文月のメール

               

結局は計画倒れの夜長かな

             

野分となれず被災地に草の無く

             

節電の風生ぬるき扇風機

             

夕立や一句作れと吾を急かす

            

季語の季を納得しつつ髪洗ふ

             

自力では鳴れぬ風鈴鎮もれり

               

空蝉をしがみつかせて老大樹

              

箱庭を置き箱のやうな庭

            

行水のことをシャワーと和英辞書

              

スイッチのどれがオンオフ扇風機

              

香水のよく減る壜と減らぬ壜

                

チリと言ふだけ横着の風鈴は

                

夏館完成外壁白く塗り

             

津波にはひとたまりなし砂日傘

             

短縮ダイヤル短夜の携帯は

           

炎天を睨んでどうするつもりなの

           

流星を大気圏突入とは不粋

              

残暑と言ふのかこの夏が冷夏でも

              

なまみたまと読み違へられイキミタ

             

生の身に魂宿しイキミタマ

                

秋めけり二の腕の色褪せもして

             

手足ばらばら飛び入りの盆踊

             

たつぷりは夜長のラジオ深夜便

                 

アナグロにこだはつてゐる時計草

                 

皺にお値打爺の顔と麻の服

               

夕立に一句作れと急かさるる

               

目力を蛻に残し空蝉は

               

リサイクル講座の講師に蓑虫を

               

風吹けど揺れず花札の萩の花

                

昼の虫出番の時間違へしか

               

出勤へスイッチオンの休暇明

                

席順に長幼の序ある敬老日

              

子規居士を真似て枝豆とばし食ふ

                 

絶筆の三句を褒めて子規忌の客

                 

落ち込むを詩的に言へば秋思かな

                

一番でなくては駄目と初紅葉

              

UFOの椎茸ほだ木に取りついて

             

コトリてふ音静寂の濡縁に

             

新酒山盛り表面張力利用して

                

入歯ではがぶりとゆかぬ林檎かな

             

人間に呆れ顔して案山子かな

               

その紐をゆるめるときに鳴り鳴子

                     

始めから別棟蓑虫の夫婦

             

つくるのも回すのも下手木の実独楽

              

萬両に占領されし狭庭かな

                

どうだんと紅葉してゐる躑躅かな

                

俳人の群れ信心の薄紅葉

              

         *       *       *

           

オルガンの音のギイギイ春が来た

                 

胸を張る宇宙メダカの子孫だと 

     

引力の平等藤の房垂れる

    

家来など持たず殿様ばつた飛ぶ

    

四人ほど日傘の傘といふ文字に

    

紙魚と生れ活字離れの出来ぬかな

    

秋刀魚の解剖お箸のメス揮ひ

        

銀杏にまたも逃げられ爪楊枝

     

子規さんの下あご強し柿を食ふ

     

霜柱は大地の鼓動のバーコード   

        

串の字は象形文字よおでん食ぶ

      

しわくちやを褒められてゐる干大根

      

開放のドアより太き隙間風 

           

初の字のついて値打ちの時雨かな

      

ドレミファの長短光る軒氷柱

      

凩の字は頬被りしてゐる木

     

兄の大股私の小股日脚伸ぶ

          

 【八木 健さんのコメント】

     
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